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「理系は賢いからいいよね」は本当? 文系サラリーマンの情報リサーチやプレゼンにも役立つ理系研究者の知識とは

集英社オンライン / 2023年4月7日 8時1分

ビジネスパーソンとしては当たり前なことでも研究者から見ると「なぜそうなるの?」——そんな違和感から生まれたビジネス小説『なぜ君は、科学的に考えられないんだ?』の著者で研究者兼小説家の松尾佑一氏に、日々に活かせる「研究者の考え方」を聞いた。

理系の知識、ビジネスに活用できていますか?

——はじめに、ビジネス小説『なぜ君は、科学的に考えられないんだ?』を執筆しようと思った経緯を教えていただけますか。

私は国立大学で研究者として従事し、研究室に所属する学生への指導も行いながら、小説家としても活動しています。

昔から本が好きなのでよく書店に行くのですが、平積みにされているビジネス書を読んだときに「学術書と違って、内容があいまいだな」「この理屈は筋が通っていないから、イメージが湧きにくいな」と思うことが多々ありました。



ならば、研究者が日頃から使っているロジックを活かした小説を書いたら、面白いかも……。そんな着想から、このビジネス小説は生まれました(松尾佑一氏、以下同)。

——物語は、ある化粧品会社に所属する「山田咲良」と、研究者の「斑目教授」との関わりを中心に進んでいきます。松尾さんも実際に、企業の担当者とやりとりすることはあるのでしょうか。

最近は、企業と大学の研究室とが連携する「産学連携」が増えていますよね。私も民間企業から技術相談を受ける機会があります。

研究者の力や知識を必要としてくれるのは、とても嬉しいことなのでしっかりと協力したいのですが、企業側しか知らないけれども提供されない情報が多かったり、分析に必要なデータがなかなかもらえなかったりすると、少し困ってしまうことも。

でもお互いに悪気はないはずなので、コミュニケーションを円滑にして、うまく連携できたらいいですよね。実はそんな思いを本書の登場人物に込めています。本書では「町村」という人物が悪役のポジションで出てくるのですが、彼には彼の論理や美学があるのでどこか憎めないところもあるのです。

また、この小説では、現実にある学術論文や企業の報告書を引用しています。だからこそ実際のビジネスシーンにも活かしやすいのではないでしょうか。

あまり知られていない「正確な数値を示す」コツ

——本書では、ビジネスシーンで活かせる研究者の考え方やノウハウをいくつも紹介しています。その中で特に、多くの人が使えそうなノウハウを教えてください。

2つ紹介させてください。

まず1つは「正確な数値を示す」ことです。

大前提として、人を説得するためには数字で語る必要があると思います。何か量を説明しようとする際に「『著しく』大きい」や「差は『わずか』だ」といった、形容詞を使っていませんか? 形容詞はあくまでも「主観」であり、形容詞を使って無意識のうちにデータを意図的に誘導してしまう危険性があります。

また、データ分析も「正確に」できているでしょうか。例えば、自社製品を利用する顧客に対してアンケートを実施したとき、調査の「母集団(調査対象全体のこと)」に当たる利用者全員へはアクセスできないので「標本(調査対象から選び出された調査可能な集団のこと)」のデータを集めるでしょう。

この標本の平均値を取るだけではなく、より詳細な分析のためには「不偏標準偏差(母集団のバラツキを推定する統計手法のひとつ)」を用いる必要があります。

また、回収したデータ自体が、平均値を中心とした「正規分布」かどうかも確認する必要があります。こうした分析の基本は研究者なら当たり前に使っていますが、民間企業のマーケター職以外では、あまり知られていないかもしれません。

日々のプレゼンやミーティングでの発言は「明確」か?

——もう1つの便利なノウハウも教えていただけますか。

もう1つは「明確な内容を述べる」ことです。

企業に勤めていると、対外的なプレゼンの機会や、社内外のメンバーとのミーティングが発生すると思います。そのときに、あいまいな説明をしていないでしょうか。研究者は毎日のようにディスカッションを行ったり、定期的に学術会議などに参加しているので、論理的なプレゼンに比較的慣れているように感じます。

といっても、特別なプレゼンであるということはなく、やっていることはシンプルで「筋の通った『起承転結』を意識する」「データから仮説を立てる」「根拠となる科学的裏付けをとる」などだと思います。

特にデータが関連しない場合は、「あの」「その」などの指示代名詞を多用しないようにしたり、自分のプレゼンを客観的な視点から修正したりしています。ぜひ日頃のビジネスシーンに取り入れていただけたら嬉しいです。

——本書には盛り込めなかったけれど、知っていると便利なノウハウがあれば教えてください。

ちょっとした小ネタですが、辞書が引けないときに日本語や英語の言い回しや文法を簡単にチェックする方法です。

Googleで検索するときに、検索したい言葉を「"集英社"」というようにダブルクォーテーション(")で囲むと、その言葉に完全一致した結果だけが出てきます。

これを応用して、自信のない日本語や英語の文章の妥当性について調べたりします。その検索結果数が多ければおおむね正しく、検索結果数が少なければ間違っている可能性が高いでしょう。Googleも万能ではありませんが、その「集合知」を活用するのは悪くない方法だと思います。

イノベーションを起こすのは「正しい知識」がカギになる

——本書のクライマックスでは、産学連携でイノベーションを起こすための「架け橋」に関する記載があります。ビジネスパーソンがこの「架け橋」になるために、まずは何から始めたらよいでしょうか。

まずは、正しい知識を多く吸収することから始めてはどうでしょうか。

研究者は、誰も行っていない研究に取り組んで結果を出すのが仕事なので、とにかく日々リサーチをしています。日常的に学術論文を読むのは当たり前ですし、数日に1回は興味のある分野で最新のデータが公開されていないかを調べています。といってもそんなに多くの時間は割くことはできません。効率よく情報収集する必要があります。

おすすめは、その事業に必要なデータや周辺知識について「英語で」検索することです。日本語で検索すると、当然ながら日本国内のデータか、誰かが翻訳したタイムラグのあるデータしかヒットしません。その時点で情報が限定されてしまいます。

新しい価値を生むような最先端の話題は、英語で調べないとキャッチしにくいでしょう。最近はGoogle翻訳などの翻訳ツールも発達しているので、海外の文献もかなり読みやすくなっています。

また、論文を検索する際には「その論文が正しいかどうか」も同時に考えてほしいです。最近は研究費の獲得を目当てに、十分に精査されていない論文を集めた困った論文雑誌があります。仲間内では、こうした論文を掲載する雑誌を「ハゲタカ・ジャーナル」と呼んで、注視しているんですよね。

誤った論文を元に製品やサービスを作ってしまうと、結果的に自社やお客様が不利益を被る可能性があります。他の研究者の査読(さどく)が付いていなかったり、内容に疑問を感じたりする論文があったら、ぜひ周囲のメンバーや研究者などと妥当性についてディスカッションする必要があると思います。

理系・文系の区分けは不要。理系の知識やノウハウを役立てて

——ビジネスパーソンが「架け橋」になるためにできることは、他にもありますか?

研究者とオフレコのコミュニケーションを取ることもおすすめです。

最近はオンライン会議が増えた分、会議外でのオフレコな会話がしにくい環境になりました。またオンライン会議は録画されることが多いので、そこで紹介できるのは公開してもよい画像情報のみになりがちです。だからこそ「まだ正式には出せないけれど、実は最新の話」をしにくいのではないかと思っています。

研究者は忙しそうに見られがちなようですが、少なくとも私はそこまで忙しくありません(笑)……と言ってしまうと、色々な方に叱られてしまうかもしれませんが。私はオフレコの会話の時間をとても大切にしています。研究者は基本的に情報を集め、共有したい職業だと思うので、オフレコの会話を求めているかもしれないです。個別にアプローチしてみてはどうでしょうか。

——最後に、この記事の読者に向けてメッセージをお願いします。

研究者という仕事をしていると「理系は賢いからいいよね」「文系は理系の考えが理解できない」などと言われることがあります。しかし、理系だから賢いわけではありません。大学受験によって「文系・理系」に分けられたことが、社会に出てからも双方の間に壁を作っていると感じます。

しかしながら、理系の研究者が持つ知識は、文系出身者の多い企業でも十分に役立つと思います。最近は、わかりやすく書かれた理系の本が書店で多く並ぶようになりました。今回の『なぜ君は、科学的に考えられないんだ?』も、理系の専門書と比較してかなり軽い内容になっています。

通常のビジネス書や小説では得られないちょっとした「刺激」がほしい方は、ぜひ手に取ってみてください。そして日々の仕事に活かしていただけたら嬉しいです。

『ビジネス小説 なぜ君は、科学的に考えられないんだ?』(クロスメディア・パブリッシング)

松尾佑一

2023/3/2

1848円(税込み)

272ページ

ISBN:

978-4295408048

●「なんとなく」で判断して損しないための、「論理的」な考え方が身につく!

新しいビジネスや新商品の成否を「なんとなく」の印象で判断してしまう。効果が不明確な施策も、これまでもそうだったからと「なんとなく」続ける。その一方で、新しいチャレンジは「なんとなく」リスクがありそうだからやめておく。

ビジネスの現場では、こういった「なんとなく」の判断が少なくありません。ですがその結果、損失を出してしまったり、好機を逃してしまったりしては、もったいないとしか言えません。

本書は、そんな「なんとなく」の判断を減らし、データや事実に基づいて「科学的」に思考できるようになるための本です。社会人3年目の「山田咲良」と、変人教授「班目」との共同プロジェクトをとおして、冷静で論理的な「科学的な考え方」がわかりやすく学べます。

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