先日、試写会に行った。今回ノベライズを担当した映画、『バブル』を見に行ったのだ。
二〇二二年五月十三日に劇場公開される『バブル』は、アニメ『進撃の巨人』などで監督を務められている荒木哲郎さん、アニメ『魔法少女まどか☆マギカ』などの脚本を担当されている虚淵玄さん、漫画『DEATH NOTE』などの作画を担当されている小畑健さんという名立たるクリエイターの方々が集結して生み出された作品だ。最初にノベライズのオファーをいただいた時、企画書を見た段階で引き受けることに決めた。なんといっても、この制作メンバーだ。チャンスがあるなら脚本や絵コンテがどうなっているのか見てみたい! ……という、かなりミーハーな動機だった。
そうした経緯で依頼を引き受けたワケだが、ノベライズは初挑戦の仕事だった。
私のこれまでの人生で、印象に残っているノベライズ作品は二作ある。一つ目は宮部みゆきさんの『ICO―霧の城―』。『ICO』はプレイステーション2のゲームで、独創的で美しい世界観が魅力だ。私がこの本を手に取ったのは小学生の時に学級文庫にあったからで、読み終わるまでゲームを基にした作品だと知らなかった。それまではゲームと本は全く別々の存在だと思っていたので、この二つが融合しうることを知って衝撃を受けた(ちなみに、この本をきっかけにゲームもプレイした)。
二つ目は成田良悟さんの『ダンガンロンパIF』。こちらを読んだのは大学生の頃だった。PSP(プレイステーションポータブル)の人気ゲーム『ダンガンロンパ』のオマケ要素というか、ある種のパラレルワールドを描いた小説なのだが、こちらはなんと、ゲームの続編である『スーパーダンガンロンパ2』に収録されている。つまり、ゲーム機で小説が読めるのだ!
私はゲームシリーズのファンで、特に第一作である『ダンガンロンパ』が一番好きだ。だからこそ、ノベライズを読む時は緊張した。成田さんの小説は元々大好きだったのだが、ゲームプレイ中に自分の頭の中だけで構築したキャラクター像とノベライズで描かれるキャラクター像が衝突しないか心配したのだ。しかし、読んでみるとすぐに杞憂だと分かった。キャラクターの言動に全く違和感はなかったし、むしろ彼らのこういうところが見たい! と私が思っていた部分をしっかりと描いてくれていた。ノベライズって、元の作品に対してこんな風なアプローチも出来るんだ! と読みながら興奮した。めちゃくちゃ面白かったのだ。
それ以降、私の理想のノベライズはこの二つが基準となった。つまり、元の作品を全く知らない人でも楽しめるもの。そしてさらに、元の作品を知っている人も楽しめるもの、だ。
もしもこの二つの条件を満たすノベライズが出来たら、それって無敵じゃないか!? そう思ったので、今作のノベライズ版『バブル』は徹底的にその部分にこだわった。
最初にノベライズの資料として脚本と絵コンテをいただいた。それに目を通した時には、本当に私が引き受けて良かったのか? と心配になった。というのも、映画としてあまりに完成されていたので、これを乗りこなすのは私では力不足ではないかと思ったのだ。
『バブル』という映画は、SF要素と青春要素が掛け合わさったストーリーだ。降泡現象という不思議な現象によって、土地の大部分が水没してしまった東京。そこで生きる若者たちは『バトルクール』というゲームに興じている。そのプレイヤーである少年・ヒビキはある日見知らぬ少女と出会い、それをきっかけに少しずつ変わっていく――。
中でも圧巻なのはやはりアクションシーンだろう。作中ではキャラクター達がパルクールを行うのだが、それがもう、とにかくカッコイイのである。そこにさらに音楽が組み合わさり、エモーショナルなシーンまでばっちり描かれている。
映像と音楽がこんなに素敵だと、これをただ文字にしただけでは魅力が落ちてしまうよなぁ……と頭を悩ませていたのだが、追加でいただいた沢山の設定資料で問題は全て解決した。なんと、資料がこれまたすっごく面白かったのだ! 映画では描かれなかったキャラクター達の活動、過去、世界の詳細、等々……。読んでも読んでもちっとも飽きない。
これもあれもそれも映画を見た人に伝えたい! と私が感じた沢山の設定を全て盛り込んだので、結果的に小説は映画とは違う形で『バブル』の世界にアプローチすることが出来た。しかも今回、非常に丁寧に監修していただいたので、私としても胸を張ってこの小説を『バブル』として世に送り出すことが出来る。
映画を見た後でも、見る前でも、どちらであっても読んで楽しめるノベライズ作品に仕上がった。書店に行った際は、ぜひ手に取っていただきたい。
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