――『それってパクリじゃないですか?』(以下、『それパク』)の誕生秘話を教えてください。
連続ドラマ化決定の話題作『それってパクリじゃないですか?』は「知財」のお仕事がよく分かる、極上のエンターテインメント小説
集英社オンライン / 2023年4月12日 11時1分
ドラマ『それってパクリじゃないですか?』が日本テレビ系にて4月12日(水)よる10時より、放送スタートする。原作小説、最新2巻は集英社オレンジ文庫より大好評発売中。連続ドラマ化を記念して、原作の作家・奥乃桜子さんにお話を聞いた。
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奥乃桜子(以下同)以前、大学で理系の研究者をしていたのですが、そのころ周囲にはメーカーで開発に従事する友人知人や、特許庁に入庁した同級生、特許事務所に就職するラボの先輩などがおり、今思えば知財との関わりがそこそこある環境だったと思います。ですが当時は知財のエッセンスみたいなものはなにもわかっておらず、小説の題材としても意識はしませんでした。
――そこから執筆に至る、何かきっかけはありましたか?
その後小説家として、メーカーで知財戦略業務に携わっている知人から生きた実務を聞く機会があり、粛々と権利化するだけという今までのイメージとはまったく違う、スポーツやゲームの戦略に通じる丁々発止の駆け引きを知って、とても面白いと思いました。
そしてこの企業同士の、正義もなければ悪もない、ビジネスとしての駆け引きをリアルに描けばおもしろいものになるのではと取材をはじめました。
もうひとつの軸として、小説家として創作界隈の話題に触れていると、盗作とパロディ、オマージュの違いや、商標のトラブルなどで、専門家と世間の認識に大きなギャップがあるのに気がつきました。また世間の人々が、シチュエーションによってパクリに厳しかったり寛容だったり、評価基準を大きくぶれさせるのも気になりました。そのあたりをうまくすくいあげられれば、いろんな人に感情移入してもらえる作品になるのではと考えました。
――印象的なタイトルは、どんな風に決められたのですか。
『パクリ』は一見ぎょっとする単語なのですが、知的財産に関しては、誰もがパクリかもという事例に身近に出会ったり、もしかしたら身に覚えがあったりするんじゃないかと思います。そういうみなさんに『それってパクリじゃないですか?』と問いかけるような、はっとする題名として考えました。
ちなみにパクリかどうかの判断は意外に難しく、素人が安易にパクリと決めつけ糾弾する危険性についても小説では扱っているので、読んでみていただけると嬉しいです。
知財=汗と涙の結晶を守る仕事
――難しいイメージのある「知財」ですが、『それパク』では予備知識のない人にも分かりやすく、楽しく読めると評判です。そのために、心がけたことはありますか?
実務のリアリティをなるべく保ちかったので、他の部分では極力ストレスを与えないポップで読みやすい語り口や話運びを心がけました。専門家にとっては当然の事実でも、なにも知らない人は真剣に悩んだり怒ったりしているわけで、そのギャップを亜季と北脇の対話のなかで丁寧に埋めていくようにしています。
そもそもこの物語は知財部員に感情移入してもらわなければならないのですが、世間では知財の権利者は権利を振りかざし、目くじらをたてていると捉えられがちなので、そういう冷たい印象ではなく血の通った人間が頑張る話として受けとってもらえるよう、「汗と涙の結晶を守る仕事」というコンセプトをたてて物語を展開しました。
それから、わたしはキャラクター同士の関係性を楽しんでもらってなんぼのライト文芸作家である自負があるので、専門的な説明やセリフを読み飛ばしても、キャラの物語として楽しめるようにかなり意識して描いています。
――作品内で、いちばん気に入っている登場人物は誰でしょうか? 理由も教えてください。
やはり亜季と北脇には思い入れが深いです。知財という一見とっつきがたい話題を取り扱っている以上、キャラクターの魅力がなければ読んでもらえないので、このふたりは魅力ある人物として描くよう努力しました。
とくに北脇は当初、情熱はあるものの淡々として面白みのない人物だったのですが、それでは魅力に薄いと当時の編集さんにダメ出しされて、今のようなキャラになりました。『いいやつ』な部分と、こだわりが強くて面倒くさい部分、それらをまるっとごまかすビジネスマンとしての外面を併せ持った、けっこう複雑でよいキャラになったんじゃないかなと思っています。そして亜季は、普通なら見過ごすかもしれない北脇の『いいやつ』な一面にきちんと目を向けられる主人公的なキャラクターで、こちらも気に入っています。
この知られざる面白い業界が、ドラマ化!?
――亜季と北脇の凸凹バディな関係には、どんな想いをのせていますか?
北脇は専門家の知見や意見を、一方の亜季はそういう専門家の冷静な態度を冷たいと感じてしまいがちな一般人の感情をそれぞれ代表するキャラなので、ふたりは正反対に見えるのですが、実際は根本にある思いや感情の抱き方はよく似ているし、似ているからこそバディとして成立しているとわたしは思っています。
理屈じみているがロマンティスト、というような、矛盾をはらんだタイプがわたしは好きなので、北脇という人物も、情を理解した上での理論派であり、だからこそちょっと生きづらさを抱えるキャラとして描いています。そのあたりが、感情優先でも理屈を放棄するわけではない聡い亜季と、お互いうまく嵌る部分なんじゃないかなと思ってます。
――月夜野ドリンクのユニークな商品づくりも、今作を読んでいて楽しいポイントです。
作中に登場する商品は、どんな発想から誕生したのでしょうか。
たとえば作中に登場する「緑のお茶屋さん」は、もともと同一世界観の『上毛化学工業メロン課』(以下、『メロン課』)にスパイスを添える小道具だったので、わかりやすく変なお茶として設定しました。
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それパクは難しい話題が多いので、変わった商品で息抜きしてもらえるといいな、と頑張って変なのを考えてます。滑ってないとよいのですが!
――今作は連続ドラマ化され、4月12日から放送開始です。第一報を聞いたときの心境をお聞かせください。
ゴーサインが出たと聞いたときは、この知られざる面白い業界のことが電波に乗っちゃうのか!と驚いて、とても嬉しかったです。この作品の実写化企画をずっと推しつづけてくれたスタッフさんがいらっしゃったと聞いて、その事実にも感動しました。
どれも大切で特別な作品――
――既刊には『メロン課』という『それパク』と同一世界観のお仕事小説があります。二作品に共通するテーマまた、おすすめの楽しみ方などありましたら教えてください。
知財部の話を書こうとなったとき、ふと『メロン課』でなんとはなしに出した『緑のお茶屋さん』の会社を舞台にすれば、特許から商標までうまくカバーできるんじゃないかと思いつきました。なので月夜野ドリンクも、そこに出向してきた北脇という重要な設定も、メロン課あってのものだったりします。北脇の過去には『メロン課』に出てくる南が関わっているので、『メロン課』を読むと、それパクの世界をよりディープに楽しめるかもしれません。
――『神招きの庭』という古代和風ファンタジー作品も、同時に執筆・刊行されていますね。現代舞台とファンタジー、異なるジャンルの作品を同時期に執筆することは難しくはないのでしょうか。
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研究者時代の知人は、わたしがずっと趣味でファンタジーを書いていて、今は本まで出してもらっているとは夢にも思っていないはずです。それパクと神招きの庭は、そういう自分の表と裏を使いわけて書いているところがあるかもしれません。とはいってもどちらも自分の一面に過ぎないので、ふたつの物語には共通する要素もけっこう多いと思いますし、正直に言うと、同時期に書くのはかなり大変でした。
でもどちらも大切で、特別な作品です。
それでもまた、挑んでしまう
――デビューされて5周年ですね。作家として、大切にしてきたことは何でしょうか。
とくにデビュー当時は作家として足りていないものが多かったので、なんとかそこを埋めながら、そのときできる限りのベストを尽くそう、ともがいているうちに五年経ってました。
――作家活動10周年に向けて、これからどんな作品を書いていきたいですか。
こんなに書くのが難しい話にはもう二度と挑戦しない! と毎回思っているのですが、結局また挑んでしまう気がします。どういう題材を選んでも、読みやすくもどこかに尖った斬新な部分があるもの、そしてなにより読んだ方が『おもしろい!』とか『キャラが好き!』と言ってくださるものを突きつめていけるといいなと思っています。
『それってパクリじゃないですか? 2~新米知的財産部員のお仕事~』
奥乃 桜子/U35
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2023年3月24日発売
759円(税込)
文庫判/274ページ
978-4-08-680493-6
知財のことが“もっと”よくわかるお仕事ドラマ第2弾!
ユニークな商品づくりで愛される飲料メーカー「月夜野ドリンク」で、知的財産部の一員として働く亜季。
異動してきて早々に、商標乗っ取り? パロディ商品訴訟!? と課題は山積み。懸命に仕事に向き合うも空まわり、上司で弁理士の北脇に怒られてばかりだった……。しかし最近は着実に成長中で、早く一人前になったと認めてもらうべく、知財部での仕事にますます奮闘している。
そんな亜季だが、社員みんなの汗と涙と努力の結晶を守り抜く「知財部」のお仕事に、待ったは無し!? 人気商品の立体商標や、知財と絡む複雑な社内政治の行方など、一難去ってまた一難。さらに大きな壁が立ちはだかって……!
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