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何でもかんでも抗生物質を出す医者は「ヤブ医者」の可能性大!? 抗生物質を飲み続けるとどうなる?

集英社オンライン / 2023年4月14日 9時1分

抗生物質はなんにでも効くというわけではない。なぜ最近は風邪には処方されないのか?抗生物質のメリット、デメリットについて森勇磨医師の『怖いけど面白い予防医学 人生100年、「死ぬまで健康」を目指すには?』(世界文化社)より一部抜粋・再構成してお届けする。

抗生物質を飲み続けたらどうなるのか?

薬の投与は人間の体内に多大な影響をおよぼすことがある。たとえば抗生物質だ。
風邪の診療においては、患者サイドでは抗生物質を希望する人が非常に多い。この気持ちは、了解可能なものではある。「悪化している体調を一刻も早く治したい」、そして「いつも近くのクリニックで風邪のときは抗生物質が処方されていて、それで治りが早かった(気がする)」、「今回も抗生物質を飲んで早く治したい」



こういった心情になるのは理解できる。たしかに、昔はこういった「風邪に抗生物質」といった治療がスタンダードだった時代があった。しかし、現代では、風邪の原因の8割程度は“ウイルス”であるとされており、風邪の治療において抗生物質の出番は少ない。

というのも、抗生物質は“細菌”を退治する薬であり(医師の間では「抗菌薬」と呼ぶことのほうが多い)、“細菌”と“ウイルス”はまったく違う生物だからだ。

だが、それでも「1~ 2割が細菌の場合もあるのだったら、いったん抗生物質を飲んでおけばよいではないか」このような意見もあるだろう。しかし、現代の(真っ当な)医者は、風邪に抗生物質を出すことを嫌がる。

それはなぜか。
理由は抗生物質を漫然と飲み続けると、体内に大きな変化をおよぼすだけでなく、生態系にまで多大なる不利益を与える可能性があるからだ。

では抗生物質がこのまま漫然と処方され続けるとどうなるのか? この話はぜひ知っておいていただきたいと思う。

常在菌とは?

まず、常在菌の問題がある。
人間は細菌とある意味で“共存”している。皮膚の表面、口腔内、腸の中……人間の体のさまざまな所に細菌は住み着いている。これらを「常在菌」と呼ぶ(胃がんの話で紹介するピロリ菌も、胃の中に住み着いている)。さらにいえば、住み着くだけでなく人間にとってよい作用をもたらしてくれる菌も存在する。

代表的なものが“腸内細菌”だ。

腸内細菌の代表格であるビフィズス菌や、乳酸菌は「善玉菌」とも呼ばれ、腸の調子を整えてくれる作用があるとされている。
そこで抗生物質を漫然と内服したらどうなるだろうか?抗生物質は種類によってターゲットの幅は変化するものの、人間にとってよい菌と悪い菌の違いを判断できる能力はない。

そのため、抗生物質を飲み続けることで善玉菌が死滅し腸内細菌が乱れ、下痢の症状が引き起こされる場合もある。
それだけではなく、平和な腸内環境が抗生物質によって乱され、別の細菌が腸内で暴れることで腸に炎症が起き、発熱したり、血便が出たりすることさえ起こりうる。この炎症を医学用語で“偽膜性腸炎”と呼ぶ。
こういった弊害があるからこそ、抗生物質は本当に必要な病気だけ使用するべきなのだ。

抗生物質の発見

抗生物質の歴史はまだ100年ほどだ。
誕生は、1920年代のイギリスに遡る。当時、英国で細菌の研究をしていたフレミング博士という1人の研究者がいた。彼は連日細菌の培養をおこなっていたのだが、ふととある培地を見ると、培地一面にアオカビが生えてしまっていた。

そして更にカビの生えた培地をまじまじと観察すると、なぜかそのアオカビの周囲には細菌がまったく育っていない。

この現象から「カビの成分と何らかの関係があるのでは?」という仮説を立てたフレミング博士がカビの成分を調べたところ、なんと青カビの作る“ペニシリン”という物質がブドウ球菌という細菌の成長を抑えることが発見された。この大発見はのちの世界初の抗生物質である“ペニシリン”誕生のきっかけになり、のちにペニシリンは多くの人の命を救うことになる。

当時は戦闘中の傷からばい菌が体内に入り、非常に多くの兵士が感染症で命を落としていたのだが、このペニシリンの出現により状況は一変。たとえば、第二次世界大戦で連合国軍がドイツ軍に攻撃を仕掛けたノルマンディー上陸作戦では感染症による死者が激減した。

またペニシリンの発見以降、抗生物質の開発はどんどん進み、昔は不治の病と呼ばれていた結核も“ストレプトマイシン”と呼ばれる抗生物質により治る病気になり、現在では結核の罹患者数は激減している。

このように、抗生物質は人類にとって多くの尊い命を救った、偉大な発明品であることに疑いの余地はない。
しかし、抗生物質が一般的に完全に普及し、世の中に知れ渡った現代では、抗生物質のもうひとつの負の側面にも注視しなければならない状況になってしまった。

それが“耐性菌”の出現だ。

耐性菌の出現

動物の世界と同じく、細菌の世界も弱肉強食であり、同様に生き延びるのに必死だ。そして細菌界では、約100年前に人類の手によって誕生した天敵とも呼べる抗生物質の出現によって、まさに生存の危機に晒されてしまった。

変化を求められた細菌たち。抗生物質の“空爆”から生き残った彼らのなかには、敵である抗生物質の性質をとらえ、攻撃を回避できるように“耐性”をつけ、姿形を変える者が出てくる。

これが“耐性菌”の正体である。

こういった耐性菌に対して、人類はさらに耐性菌を退治できる抗生物質を開発。一方の細菌はさらに変性をおこない、新たな抗生物質に対しての耐性を身につけていく……
といったイタチごっこのような状況が続いている。

がんより怖い“悪魔の耐性菌”

しかし、もしあらゆる抗生物質が効かない耐性菌が出現し、その細菌が世界中で流行してしまったらどうなるだろうか?
似たような事例を我々は近々で経験している。そう、新型コロナウイルスの出現だ。新型コロナ出現時は確立された治療法も、ウイルスを退治する薬もなく、現場では手探りの治療が続いた。

耐性菌の問題については、当時の新型コロナウイルス出現時と同様、あるいはそれ以上の大惨事になる恐れがある。たとえば、病院ではさまざまな手を尽くしてもよくならない患者に奥の手として投与する「抗生物質の最終兵器」とも呼ばれる“カルバペネム”という抗生物質が存在する。

しかし、この最終兵器である抗生物質に対しても耐性を持ち、なかなか効かない細菌が出現してきていると、アメリカ疾病予防センター(CDC)も警告を出している。つまりはいつ“悪魔の耐性菌”よって悲劇が引き起こされるかわからないのだ。

現状のペースで耐性菌が増え続けると、2050年にはおよそ1,000万人の死亡が想定されていて、この数値は現代のがんによる死亡者の数を超えるといわれている。
多くの人類の命を救った抗生物質。

しかし現代ではその抗生物質の影響によって、今度は逆に細菌の逆襲を受けようとしている。

我々が“耐性菌パンデミック”を避けるためには、患者側が耐性菌に関する正しい理解を持ち、むやみに抗生物質を希望しないこと。そして、医師側もむやみに抗生物質を思考停止で処方しないことが重要だ。
「風邪に抗生物質」と決まり文句のような処方をしている旧態依然な医師も散見されるが、既にこれは完全に時代遅れであり、有害とも呼べる医療行為だ。
新型コロナウイルスの影響で感染症に対して関心を持つ人は増えたと思うので、耐性菌についての知識もぜひ覚えておいてもらいたい。

●予防方法
・やみくもにクリニックで風邪のとき抗生物質の処方をお願いしない。
・何でもかんでも抗生物質を出す医者は「ヤブ医者」の可能性大(予防方法というわけではないが気をつけてほしい)。

『怖いけど面白い予防医学 人生100年、「死ぬまで健康」を目指すには?』(世界文化社)

著者 森 勇磨

2023年3月19日

1,870円(税込)

単行本:262ページ

ISBN:

4418234004

本書は今最も熱いテーマ、「80歳まで健康寿命を延ばす」ことを目指す方のための本です。
糖尿病やがん、心筋梗塞など、年を重ねるにつれ罹患する慢性疾患を回避するために
必要な知見「予防医学」を超人気YouTube「予防医学Ch」運営する現役医師が解説します。
病気になった後の世界や、人が病気になる仕組み。大病を避ける方法について
イラスト入りでサクッと理解できます。医学教養書ファンにも訴求する一冊です。
健康診断で気になる項目の詳しい解説、病名別インデックス付き。
第1章 病気になった後 五臓六腑を失った後の世界
第2章 病気になる仕組み 人間の体の中で起きていること
第3章 大病を避ける方法
付録 健康診断チェックシート

続きはこちら 怖いけど面白い 予防医学#1
続きはこちら 怖いけど面白い 予防医学#2
続きはこちら 怖いけど面白い 予防医学#4(4月15日10時公開予定)

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