「就職したやつは負け組」早稲田大学探検部ってどんなサークル? 沖縄でペリカ探し、高田馬場でネズミ狩り…大物作家OBも多数
集英社オンライン / 2023年4月12日 11時1分
60余年の歴史をもち、作家や探検家も輩出している名門・早稲田大学探検部は、未踏の地が少なくなった令和の時代にどんな活動をしているのだろう。今昔物語の中編では、部室から代々の探検部行きつけの居酒屋に取材の場所を移し、さらにその生態を探っていく。
飲み会は「逃走→捕獲」が1セット
早稲田大学探検部の田口慧さん(取材当時早稲田大5年、2023年卒)、久保田渚さん(現・成城大4年)、富田大樹さん(現・大阪大3年)の3人に探検部行きつけの居酒屋に連れてきてもらった。東京メトロ早稲田駅から歩いてすぐのところにある焼き鳥店「一休」だ。
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左から富田大樹さん、田口慧さん、久保田渚さん
こじんまりした1階から2階へ上がると、大小3つの和室があった。祖父母の家を訪れたかのようなレトロな空間と、探検部の雰囲気が妙にマッチしていて、これが令和の風景なのか疑いたくなる。
卓上に瓶ビールが届くと、先輩である田口さんにお酌をするでもなく、乾杯をするでもなく、静かに飲み始める3人。“手酌・乾杯なし”が探検部の流儀らしい。
ビールを飲みながら田口さんが語り始めた。
「この店は探検部の入部式でよく使わせてもらっているんですが、お金を払いたくないから窓から逃げる部員もいたりして。そいつらを捕まえて保護して、金を回収するまでが飲み会の1セットなんです(笑)。
今は防犯カメラがあって窓に鉄格子もはめられてるんですけど、僕が1年のときにはどっちもなかったんですよ。もしかしたら探検部の飲み会のせいでつけられたのかもしれません」
酔いが回らないうちからパンチの効いた話が飛び出した。
「鹿のうんこカレー」「全裸登山」「高田馬場でネズミ狩り」
3人は2022年秋の「ナカタン氷河遠征隊」のメンバーだが、海外遠征の他にどんな活動をしているのだろうか。まずは田口さんの話から。
「コロナ禍の間は国内で面白いテーマがないか探していました。『マヨイガ』(山中に現れる幻の家に関する伝承)を探したり、伊豆諸島の新島の地下要塞について調べたり。あと、これは後輩の主催なんですけど、西表島で『ペリカ』を探しましたね」
ペリカといえば『賭博破戒録カイジ』(福本伸行・著)に出てくる、地下強制労働施設の独自通貨だが、「ペリカを探す」とはどういうことなのだろうか?
その探検に同行した久保田さんによると、こんな活動だったらしい。
「昔、西表島には炭鉱があって、半強制で働かされていた労働者たちがいたんです。そこで独自通貨みたいなものが発行されていたという記録があって、その独自通貨をペリカに例えたんです。
でも炭鉱の入口すら見つからなくて、1週間、熱中症になりながらヘナヘナして終わったって感じです(笑)」
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探検と聞くと、未踏峰に挑んだり、前人未到のジャングルを踏破したりといった、フィジカル勝負を思い浮かべる。だが、探検部の論理ではそれらは「どちらかというと冒険的で、山岳部とかの領分になる」と田口さんは説明する。
「探検部のオリジナリティを活せるのは、普通の人が行かないような場所に行って調査をするとか、『フィールド×調査』という領域だと思うんです。
そこでみんなが驚くような発見をしたい。山岳部や科学者の領域では勝てないけど、彼らが『その手があったか、気づかなかった』ってむかついちゃうような奇襲攻撃を仕掛けたいんです」
その奇襲的活動に、「鹿のうんこカレー」「全裸登山」などが挙げられる。どちらも女性部員の企画で、「鹿のうんこカレー」は「表参道の1500円のカレーと同じ味」と評判だったそうだ。
「全裸登山をしたのは東京藝大の部員で、『ありのままの姿じゃないと自然は感じられない』と言ってやったそうです。
人が通らない廃道を選んだらしいんですが、地元の人に見つかって警察がすっ飛んできたとか。エキセントリックで面白い人だったと聞いています」(田口さん)
ここで久保田さんがツッコミを入れる。
「田口さんも相当変ですよ。高田馬場のロータリーで、急にネズミを追いかけ始めたから、なんだこいつ?って思いましたもん」
確かに相当な奇行に思える。しかし、「僕の早稲田生としてのアイデンティティを投影した、れっきとしたサバイバル、探検活動なんです」と田口さんは言う。
「サバイバルという行為は、かなり広い意味を持っていて、オリジナリティを生み出すには土地性に依拠するしかない。
つまり、早稲田生がいつもお酒を飲んで馬鹿騒ぎをしている、高田馬場ロータリーでできるサバイバルがオリジナルだと考えたんです」
わかるような、わからないような……という表情の筆者を前に、田口さんは話を続ける。
「早稲田生が吐いたゲロをネズミが食べるんですよ。で、そのネズミを早稲田生である僕が獲って、その毛皮を着て生きていく。そういう高田馬場で完結する活動というコンセプトがちゃんとあるんです。
それで手づくりの罠とかつくってるんですけど、全然引っかからない。今のところ、ネズミのほうが賢い」
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部室には歴代の探検部員が記したノートがたくさん
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探検部×マーケティング=クレイジージャーニー出演
我が道を行く探検部の活動方針からすると、テレビ番組『クレイジージャーニー』でも取り上げられた、ロシアの未踏峰に「ワセダ山」と名づけるような“わかりやすい”活動は異端だったのではないだろうか。
「ワセダ山」の名づけ親・カムチャツカ遠征隊と在部期間が重なっている田口さんに、当時の様子を聞く。
「早稲田の学生が未踏峰に『ワセダ山』と名づけるって、かなりバカっぽいじゃないですか。それがウケたんですよね。つまり、マーケティングがうまかった。
正直、その未踏峰って難しくもなんともない山なんですよ。だから、カムチャツカ遠征隊のやり方に疑問を持つ部員もいました。
でも僕は、探検部の中にマーケティングの概念を持ち込むという奇襲をやってのけた点において、面白いと思っていて。
隊長へのアンチテーゼとして『丹沢クソピーク縦走』という活動をやった先輩もいました。(神奈川の)丹沢の山で、誰も知らないピークをひたすら登って、探検部の中にだけ記録を残す。そんな小さいものを小さいまま見せて、それでよしとする活動です。
気に入らない相手でも排除するのではなく、活動内容で見返そうとするのが探検部のいいところだと思います。人間関係で追い出すって、探検的な行為じゃないですし」
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「探検部として負け組だから就職」
そんな探検部員たちも、いつかは大学を卒業し、社会へと羽ばたいていくことになる。いや、羽ばたいていくのだろうか?
卒業生たちの進路について聞いてみると、「就職アンチ派が多いような気がします」と久保田さん。田口さんが次のように補足する。
「どこかに、探検家になれないから就職する、っていう意識があるんでしょうね。『俺たちは探検部として負け組だから就職した』みたいな」
就職先が決まった部員たちはみな、申し訳なさそうな顔で卒業していくという。普通なら、就職先が決まらなくてゼミやサークルにいづらくなるところが、探検部では価値観が逆転している。
一方で、「就職したほうがいいな、という気持ちがあるのも事実です」と富田さん。探検部員だった久保田さんの姉も就職していて、久保田さん自身も「就活しないとヤバい」と嘆いている。
しかし、少し目を離すと、富田さんが「あと1年くらい、執行猶予つけたらいいんじゃない?」と、久保田さんを留年に誘っていた。久保田さんも「遠征に誘われると、そっちに流れそうになっちゃう」とグラついている。
探検部で活動していれば、就活では最近でいう「ガクチカ」(学生時代に力を入れたこと)には困らなさそうだが、3人とも「ガクチカ……?」と不思議そうな顔をしている。
そういえば、探検部以外の「最近の大学生」について尋ねたときも「どうなんでしょうね。交流がないので……」「探検部以外に友達がいなくて」といった調子だった。
「僕たちは世間に背を向けてるんです」と、田口さんは表現する。「メインストリームに対する『けっ』っていう気持ちは、みんなどっかあるよね」と。
しかし、そこにネガティブなニュアンスは感じられない。単純に興味がないだけのように見える。
そして、気づけば「そろそろ次の活動の偵察旅行に行く予定なんですけど」「ニューギニアがポシャりそうだから、そっちに行ってもいいかな」と探検の話で盛り上がっている。本当に探検のことしか頭にないのだ。
この令和の世にも、早稲田大学探検部はちゃんと存在していた。それも、UMA(未確認生物)のような奇ッ怪な存在として、ではない。
ただ、不器用でひたむきな“愛すべき探検バカ”の集団として。
後編では、早稲田探検部OBで「辺境探検作家」の高野秀行氏にインタビューする。
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取材・文/寺井麻衣
撮影/岡庭璃子
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