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尾上菊之助が栗山監督なら中村獅童は大谷翔平!?〈9時間公演〉『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX』を絶対に観るべき5つの理由

集英社オンライン / 2023年4月7日 18時1分

尾上菊之助、中村獅童、尾上松也ら超豪華キャストが顔を揃え、一部では「これは本当に歌舞伎なのか⁉」との議論も巻き越している『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX』を、ライター・編集者の九龍ジョー氏がレビューした。

尾上菊之助の『FFX』へのリスペクトが出発点

3月4日よりIHIステージアラウンド東京(豊洲)で上演中の『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX』が、4月12日で閉幕となります。

観るべきか否か、かくいう私も最初は迷っていました。ネットのレビューは絶賛もあれば、厳しいものもちらほら。ならば自分の目でたしかめよう。ようやくチケットを購入したのが3月末のこと。観劇日は、4月2日です。

少年時代に『ファイナルファンタジー(「FF」)Ⅱ』にハマった私は、まさに『FFX』までがリアルタイムで遊んだFFシリーズでした。一方、歌舞伎についても、『スーパー歌舞伎Ⅱ ワンピース』や『新作歌舞伎 風の谷のナウシカ』(以下、『ナウシカ歌舞伎』)など近年話題となったアニメ・コミックを原作とする新作歌舞伎について、著書『伝統芸能の革命児たち』などで書いてきました。



ですが、『FFX』が歌舞伎化と聞いても、にわかにピンとこなかったのです。リメイク進行中の『FFⅦ』のほうが妥当ではないか。昨年のベストRPGとして呼び声高い『ELDEN RING』のほうが話題になるのではないか、なんてことを思ったりもしていました。

しかし、『FFX歌舞伎』を昼夜通し9時間(上演は正味7時間)かけて観劇したいま、私は不明を恥じています。いますぐ観たほうがいい。

『FFX』に対する尾上菊之助の愛情とリスペクトが出発点となっていることもあり、原作ゲームのファンであれば、期待を裏切られることはないでしょう。私の前方の若者は、劇中、何度か涙をぬぐっていました。

では、原作に思い入れはないが、「新作歌舞伎」として、あるいは「未知のエンターテインメント」としての『FFX歌舞伎』はどうでしょう? 私は買いだと思います。

その見所を、大きく5つにまとめてみます。

まもなく閉幕!FFX歌舞伎 見どころダイジェスト
https://youtu.be/2QO1gVsxRjQ

盆に乗った客席が360度回転

① 回転と巨大スクリーンがもたらす没入感

撮影可とされた開演前のスクリーン映像

江戸時代の歌舞伎を発祥とし、いまでは世界中の劇場で採用されている「廻り舞台」。IHIステージアラウンド東京(以下、「ステアラ」)に至っては、盆に乗った客席が360度回転します。『FFX歌舞伎』では、この舞台機構と巨大スクリーンとを組み合わせることで、ダイナミックな舞台転換が実現しています。とくに上手いと思うのが、劇場の円形構造を生かした一体感の演出です。

最たるものが、空の移動手段である飛空挺の場面。舞台前方に組まれたコックピットとサイドの巨大スクリーンが連動することで、観客もクルーの一員として空を飛んでいる感覚になります。飛空挺の動き出しの瞬間に、客席を少し揺らすのがとてもリアルです。

また、通常の舞台作品ではCGの多用で興ざめすることもありますが、本作は元がゲーム世界であるため、客席を取り囲む高さ8メートルに及ぶスクリーンに次々と映し出される景色や街並みがしっくりきます。ゲームの中に放り込まれたようです。

それゆえ、「シン」と呼ばれる巨大な怪物が、街や村を破壊する場面などは、惨状に目を背けたくなる迫力です。ミストスクリーンを使った幻想的な場面も、強く印象に残ります。

② ここぞというときに召喚される「歌舞伎」

冒頭こそ主人公たちは白浪五人男のような名乗りをあげますが、その後、台詞はほぼ現代語で進行します。それゆえ、歌舞伎になじみない観客が置いていかれるようなことはありません。ですが、口跡の端々に歌舞伎俳優としての型は宿ります。このバランスは、全体の演出についても言えます。

そして、ここぞという場面では、立廻り、舞踊、義太夫など、歌舞伎へと思い切り演出が振られます。とくにボス戦での立廻りにおける、蜘蛛の糸やサラシを使った魔法の表現は、CGとかけ離れたアナログ感が超自然的なリアルを呼び寄せ、それ自体が魔法のようです。

尾上菊之助が演者一人ひとりに電話でオファー

③ 新作の蓄積を生かす歌舞伎俳優たち

劇場入り口前に掲げられた役者の幟

キャスティングにあたり、菊之助は、WBCの栗山監督ばりに一人ひとり電話でオファーしたといいます。このとき、菊之助にとっての大谷翔平は、中村獅童にほかなりません。

菊之助と獅童は、もう何年も共演がありませんでした。それでも声をかけたのは、ヴァーチャルアイドルである初音ミクと共演する「超歌舞伎」(2016~)でデジタルと歌舞伎との融合を牽引し、幕張メッセなどの会場でも若い観客を沸かしてきた獅童の力を必要としたからでしょう。

また、同じ音羽屋一門の尾上松也の存在も大きかったと想像します。菊之助肝煎りの『ナウシカ歌舞伎』(2019)などでの活躍もありつつ、松也はすでに5年前にステアラでの舞台『メタルマクベス』(2018)で主演を務めています。

この2人が、アーロンとシーモアという、作品の核となる重要な役を見事に担っています。とくに前編は、二人による激しい立廻りが舞台上にひとつのピークを生み出します。

ステアラ壁面に設置された巨大パネル

そして、忘れてならないのは、ヒロインであるユウナ役の中村米吉です。『ナウシカ歌舞伎』の再演(2022)で、菊之助がナウシカ役を米吉に受け渡した意味が効いています。一人語りの場面や「異界送り」と呼ばれる美しい舞踊の説得力は、あのナウシカを経たからこその賜物でしょう。

菊之助の息子、丑之助の存在感も光っています。とくに祈り子というミステリアスな役での、〈声〉が見事です。今回はユウナレスカという伝説の召喚士を演じる中村芝のぶが、『ナウシカ歌舞伎』の終盤において、やはりその〈声〉で舞台に奥行きを与えて評判を呼びましたが、丑之助の舞台終盤における働きはそれに匹敵するものがありました。

ちなみに『ナウシカ歌舞伎』では菊之助の義理の父である故・中村吉右衛門が〈声〉だけで重要な役を担いました。『FFX歌舞伎』においては、菊之助の実父である尾上菊五郎が最終ボスの〈声〉を担っています。

本作をラストシーズンとして解体される劇場

④ 親子、多様性……深彫りされるテーマ

その菊之助と菊五郎の例を出すまでもなく、歌舞伎は親子関係が色濃く影響を及ぼす芸能でもあります。そして、『FFX』もまた、ティーダ(菊之助)とその父ジェクト(坂東彌十郎)という親子の物語を軸に展開していきます。どこまで計算されていたかは不明ですが、彌十郎が昨年、『鎌倉殿の13人』の「時政パパ」としてブレイクしたことも不思議な巡り合わせです。

『FFX歌舞伎』では、劇中に登場する複数の親子関係において、原作以上の陰影がつけられます。また、人間族、ロンゾ族、グアド族、アルベド族など、さまざまな人種の共存のあり方についても、テーマとして深彫りがされます。

⑤ 厄災の時代と向き合う現代性

私たち観客を聴衆に見立てての「いなくなってしまった人たちのこと、時々でいいから、思い出してください」というユウナのセリフは、コロナ禍など厄災の時代を生きる私たちへのメッセージとして響いてきます。また、異界送りや、ラストバトルでの義太夫、長唄とともに獅子が舞う所作事(踊り)には、伝統芸能が内包する「鎮魂」のチカラを感じずにはいられません。

ふり返れば、コロナ禍まっただ中の2020年3月、国立劇場で予定されていた菊之助一座の『義経千本桜』は全公演中止となり、完全無観客のもと、ただ一度の配信公演が行われました。大物浦と呼ばれる場面で、菊之助演じる平家の敗将・平知盛は、碇を身体に巻き付けると「さらば!」と叫び、海へと身を投げます。本来なら盛大な拍手が起こる場面も、無観客ゆえ、無音の間となりました。菊之助は、まるでエアポケットに吸い込まれてしまったようでした。

その直後からのステイホーム期間、『FFX』をプレイしながら、菊之助はなにを思ったのでしょうか。

2017年に開場したステアラですが、本作をラストシーズンとして解体されることが決まっています。もとは2020年解体の予定でしたが、コロナ禍によって延長され、このタイミングとなったそうです。

まもなく解体されるIHIステージアラウンド東京

『FFX歌舞伎』の劇中、菊之助が演じるティーダの故郷ザナルカンドは、華やかで眠らない街です。ですが、それは誰かの夢として召喚された街であり、夢見なければなにも存在しないのです。

役者も、舞台芸術も、似たようなものかもしれません。コロナ禍を越え、まもなく解体されるステアラで『FFX歌舞伎』が見られるのはあと数回。まだ間に合います。

正午より9時間の旅を終えると夜になっていた。

文・写真/九龍ジョー

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