早大卒エリートに元受刑者。元キックボクシング王者は借金50万円を3か月で1000万円に膨らませて路上生活者に転落…元依存症で回復状態を維持するギャンブル依存症専門回復施設のスタッフたち
集英社オンライン / 2023年4月14日 19時1分
ギャンブル依存症専門回復施設「一般社団法人グレイス・ロード」には、同施設のプログラムを受けて依存症から回復したスタッフが勤務している。早稲田卒のエリート、元キックボクシング王者、元受刑者…それぞれのスタッフに依存症を発症していた当時の様子や現在の仕事について伺った。(前後編の後編)
依存症から回復後、自らもスタッフとして
依存症者の回復支援の道へ
グレイス・ロードで支援を受けて社会復帰した人の中には、そのままグレイス・ロードの職員となる人もいる。
山梨にあるグレイス・ロード甲斐サポートセンターのセンター長を務める田村仁さんも、ギャンブル依存症に苦しみ、グレイス・ロードで回復支援を受けた経験を持つ一人だ。
早稲田大学を卒業後、上場企業に就職した田村さんは、順風満帆な人生を送っていくように思われたが、パチンコにハマり、ギャンブル依存症を発症した。サッカーなどの趣味もあったが、パチンコにどんどんのめり込んでいくにつれ、パチンコ以外の物事を楽しいと感じられなくなった。
何度か病院で診察を受けて、そのたびに依存症と診断されるも『俺のことを何も知らないくせに』と、自分では認めることができずに悪化の一途をたどる。その内、食事も摂らずにパチンコ屋に入り浸ることが増えて、費やした金額は1000万円にも膨れ上がっていった。
どうしてもパチンコをやめることができない自分に絶望し、人生最後の旅行としてタイに行き、旅先で自殺を試みたこともあったという。しかし、死ぬことができずに帰国して、グレイス・ロードで治療を開始。入所した初日は、安堵の気持ちが溢れて一晩中布団の中で涙を流した。
入所するまでは「こんなに辛い人間は自分の他にいない」という感覚でいたが、入所してみると周りの入所者もスタッフも似たような境遇の人だらけだったことに驚いた。
「他の人に自分の気持ちなんかわかるわけがないと思っていましたが、施設では、私はごくごく普通のギャンブル依存症者でした。施設で接する人達は自分と似たような境遇の人ばかりだから、何か言われても素直に『なるほど』と受け入れることができました」(田村さん)
回復プログラムの一環として行う、ボランティア活動によって意識の変化も体験できたという。
「かつての自分はゴミを捨てる側でしたが、それが拾う側になったことで自己肯定感を感じられました。それと、一緒にゴミ拾いに参加する地域の人達が、自分達のことを依存症者だとわかったうえで、普通に接してくれるのも大きな励みになりました。ゴミ拾いの後に握手して『頑張ってね』って言葉をかけてくれる人もいて、とても有り難かったです」(田村さん)
キックボクシング王者が路上生活者に転落…
借金50万円が3か月で1000万円に
回復プログラムを終え、社会復帰してまだ数ヵ月という中竹一刀さんは、元プロキックボクサー。現役時代は所属団体でチャンピオンに輝くほどの選手であった中竹さんも、競馬と競艇で依存症を発症した。
元々パチンコ・パチスロが好きで、その頃から借金して打つほどであったが、金額はまだ50万円程度だったという。だが、オンライン競馬にハマると、僅か3か月で借金が1000万円に膨れ上がった。しかし、それでも自分は正常だと思い込み続けて、ギャンブルをやめられない。
やがて競馬だけでなく、競艇にも手を出すようになり、借金の額は3倍にも4倍にも膨れ上がった。そこまで悪化し、ようやく自分が病気だと認められるようになると、「自分が生きるためには最優先でギャンブルをやめなくてはならない」という考えが芽生え、助けを求めてグレイス・ロードへの入所を決めた。
入所する前は人生でどん底の生活を送っており、住むところすらなかったため、施設の部屋が知らない他人との相部屋だからといって、嫌な気持ちは全くなく、ただただ屋根がある場所で眠れることが嬉しかったという。
入所当時は、同じ依存症者でありながら既に回復して自立していた先輩スタッフの姿に勇気づけられた。
「そのスタッフは、依存症から回復して、仕事して給料をもらっていて、結婚して車も持っていました。それを見て『自分もこんな風になれるかもしれない』と希望を感じました。入所前は、もう絶対にそんな人生は送れないって思い込んでいたので」(中竹さん)
回復プログラムに取り組んでいくなかで、回復を実感する瞬間も度々あった。
「ボランティアで募金活動をしていた時、1人の小学生が目の前を通り過ぎて行ったのですが、すぐに引き返してきて自分の財布からお金を出して募金してくれたんです。自分は、今までそんなことしようと考えたこともなかったので、すごいなと感動しました。同時にその光景に感動している自分に回復を実感できました」(中竹さん)
兵庫県出身で、元々は山梨に縁もゆかりもなかった中竹さんだが、現在では山梨でのボランティア活動に強い意義を感じているという。
「今、自分が安心できる場所は山梨であり、この施設です。施設が続けていけるのは、山梨の人たちに認められて、山梨に居させてもらえているからなので、何か少しでも山梨に恩返しができればという気持ちがあります」(中竹さん)
3年半越しの苦い再発経験が抑止力に
グレイス・ロード設立以前に、山梨ダルクがギャンブル依存症の受け入れを開始した当時に入所したという服部善光さんは、現在では東京グレイス・ロードのセンター長を務めている。
東京グレイス・ロードでも、治療プログラムは山梨と同じように行われている。山梨と同様に、ゴミ拾いや清掃などのボランティア活動も実施しており、運動会や餅つきなどのイベントに町内会から誘われることがあるなど、東京だからといって地域との関係性が希薄ではないという。
初めてのパチンコ体験が14歳の時と、早熟なギャンブラーだった服部さんは、ギャンブル資金のために窃盗を働いて刑務所に入った経験が2度あり、依存症にどっぷりの半生を歩んできた。
依存症を発症していた頃は、生活保護の受給を開始するも、生活保護費を全額ギャンブルにつぎ込んでいた時期もあれば、お金が尽きてドヤ街でホームレスとして生活し、街頭アンケートに答えて得た謝礼の品を換金してギャンブル資金を作るなど、あの手この手でギャンブルをしていた時期もあったという。
しかし、今ではそんな体験もこの仕事での服部さんの特権になっていると捉えている。
「私は、刑務所に2回服役しているし、妻子がいたのに離婚したし、生活保護を受給していたこともあるし、ホームレスをやっていた時期もあります。端から見たら散々な人だと思われても仕方ないですけど、そんな私も依存症から回復して8年間、現在も回復状態を続けられています。だから、似たような境遇の人が入所してきたら、『こんな俺でもなんとかなったんだから、やってみようよ!』と声をかけることができます」(服部さん)
依存症で散々辛い目を見てきた服部さんだが、長らく親しんだパチンコ、スロットには楽しかった思い出もあり、今でも入所者とかつてのパチンコ台の話題で盛り上がることがあるという。
もしも健康的に遊べるのであれば、またパチンコを打ちたい気持ちはあるものの、健康的な範囲で収められる自信がまったくないため、もうギャンブルに手を出すことはない。もしもギャンブルに手を出せば、8年前の自分に戻ってしまうことを体験として知っているためだ。
「グレイス・ロードに入所する以前に、別の回復施設に入所し、3年半ほどギャンブルをやめられていた時期がありました。でも、ある時に身の回りの問題が重なり、どうでもいい気持ちになってパチンコを打ってしまったら、一瞬で入所前の自分に戻っていました。あの時の転げ落ちるような感覚は今でも覚えています。
その時の経験がギャンブルをやらないためのブレーキになっているし、この仕事で依存症の仲間達と常に顔を合わせていられることも、私がギャンブルをしないためのストッパーになっていると思います」(服部さん)
服部さんは現在でも、週に5~6回程度自助グループに参加して、再発予防に努めている。
信用回復まで代表交代はおあずけ
グレイス・ロード代表者の佐々木広さんは、自身はギャンブル依存症の当事者ではないため、いつかは当事者の人と代表交代するべきだと考えている。しかし、そこには大きな障壁があるという。
「グレイス・ロードのギャンブル依存症のスタッフ達は、みんな借金があるのでカードの1枚も作れません。社会的信用が壊れてしまっているから、物件を借りようとしても信用調査で落とされるし、携帯電話の契約だって一苦労です。銀行口座を作れるかどうかも怪しいでしょう。
そんなわけだから、この人たちの社会的信用が回復するまでのしばらくは、私が代表を続けているというだけです」
取材・文・撮影/内田陽
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