1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 芸能
  4. 芸能総合

ドラマ界の『エブエブ』誕生!? 3年前には実現不可能。アジア系アメリカ人のリアルを描いたA24製作Netflixシリーズ『BEEF/ビーフ 〜逆上〜』が革新的なワケ

集英社オンライン / 2023年4月12日 16時1分

現在放送中のNetflixシリーズ『BEEF/ビーフ 〜逆上〜』は、アメリカに暮らすアジア系の人々のリアルを描いた革新的なドラマ。ロサンゼルス在住のジャーナリスト中島由紀子さんが、この作品が誕生した背景を、作品の魅力とともに解説する。

「見始めたらやめられない」と話題に

ダニーを演じるスティーヴ・ユァン。ブラッド・ピットが製作総指揮を務めた『ミナリ』の父親役で知られる韓国系俳優

Netflixでのストリーミングが始まる前に、すでにシーズン2の製作が発表され話題となったA24製作のドラマ『BEEF/ビーフ 〜逆上〜』。
BEEFといっても牛肉の話ではなく、「不満足」「文句たらたら」「小競り合い」のような感じで使われるスラングです。1話30分で全10話。ジャーナリスト仲間には一気に見た人が大勢いて、みんな「止められなかった」とため息混じりに白状していました。



物語の発端はロードレイジ(運転中にキレること)。スティーヴ・ユァン演じるダニーは、経営する建築会社がうまくいっておらず、ビットコインの投資も損してばかり。韓国に帰国している両親をアメリカに呼び戻し、楽な老後を迎えさせたいという義務感がプレッシャーになっている人物です。

人気コメディエンヌのアリ・ウォン(左)が、エイミーを熱演

一方アリ・ウォン演じる中国系アメリカ人のエイミーは実業家。素敵な家に住み、優しくハンサムなアーティストの夫に愛され、かわいい娘もいる。はたから見たら夢のようなパーフェクトライフを送っている設定です。
とはいえ実情は、うまくいかないビジネス契約にイライラが溜まっていて、善人すぎる退屈な夫に少なからず倦怠感を抱いてます。

このふたりが、運転中のトラブルをきっかけにお互いへの嫌がらせをスタート。一旦怒りを爆発させてみたら、それぞれ蓄積していたフラストレーションが堰を切ったようにあふれ出てしまいます。車のナンバープレートから相手の住所を割り出し、お互いの生活にジワジワと入り込んでいき、リベンジによる負の連鎖にがんじがらめになってしまうのです。

まるでホラー映画の形相を見せますが、この作品はドラマとコメディをミックスした“ドラマディ”。ハラハラドキドキが続くサスペンスの骨格をしっかり保ちつつも、ホッと笑えるシーンも。
エイミーの夫である日本人のジョージ(ジョセフ・リー)と、肉体が素晴らしいダニーの弟のポール(ヤング・マジノ)は、バカがつくほどの善人で、滅多に腹を立てない穏やかなキャラクター。ホッとしながら笑えるチャンスを与えてくれます。お笑いコンビに例えれば、ボケ役という感じです。

そしてドラマは常に新しい驚きを目の前にチラつかせながら進み、隙間のないその脚本の引力に引きこまれてしまいます。

国や文化を超えて作品が扱われる、新しい時代の到来

先日、脚本と製作総指揮を務めたイ・サンジンに取材をしたところ、「もうすでにシーズン2の脚本を書き始めている」と語っていました。

「韓国人が韓国人の話を、韓国の文化背景を入れて好きに描いたこの作品を、アメリカで映像化することは3年前には考えられないことだった。こんなチャンスがこれほど早くやって来るとは想像もしてなかった。もちろん、これは突然湧き出た幸運ではありません。『クレイジー・リッチ!』(2018)、『ミナリ』(2020)など、アメリカ資本で製作されたアジア人の映画の成功があってこそ、『BEEF/ビーフ 〜逆上〜』の製作が可能になったのです」(イ・サンジン)

「すごいテレビシリーズが出た」「見始めたらやめられない」「ハマってしまった」と仲間内で話題になったとき、誰もが「韓国系の」という修飾語をつけずに「絶対見るべき作品」として賞賛しました。そして見始めて初めて、多くのキャストが韓国系アメリカ人だと知ったのです。

誰が演じようと、ストーリーの感性や背景がアジア風だろうと、おもしろいものはおもしろい。国や文化を超えて作品が扱われる、新しい時代の到来がうれしくなりました。実際、登場するのが何系だろうと、アメリカに住むアメリカ人の話なのだから。

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(2020)でアカデミー主演女優賞を受賞したミシェル・ヨー
Sipa USA/amanaimages

アジア系俳優たちの苦労は、今年アカデミー賞を受賞したミシェル・ヨーやキー・ホイ・クァンのスピーチの中で語られています。

「私のようなルックスをしている少年少女たちに言います。今、私に起こっていることは、みなさんも実現可能です。夢を捨てないで進んでください。それに“峠を越した女優”なんていう言葉に左右されちゃダメよ!」

60歳になったミッシェル・ヨーの言葉に、会場は拍手喝采でした。

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』でアカデミー助演男優賞を受賞したキー・ホイ・クァン
Capital Pictures/amanaimages

一方のキー・ホイ・クァンは、「声がかからなかった20年間は辛かった。役者としてのキャリアは終わったと何回も思いました。妻から“必ずやりたい役のオファーが来る”と励まされてここまで来ました」と、オスカー像を握りしめて挨拶。その姿に涙した人は多いはず。
時代の変化と、それを反映するハリウッドの変化がやっと始まったという感じです。

多くの期待を背負って登場した『BEEF/ビーフ 〜逆上〜』

これまでアメリカのエンタメ業界は、アメリカの世相の横を伴走する形で映画やドラマを作ってきて、“白いアメリカ”を信じている保守的なアメリカ人が求めるものに合わせてきました。進歩的な内容でアメリカ人の目を開かせようとする、オピニオンリーダー的な立場は、決して取ってこなかったのです。

特にテレビドラマはCMの広告料で成り立っているため、視聴者の反感を買う可能性があるものにはゴーサインを出しませんでした。
「リビングで見ている子供たちに、人種ミックスを奨励するようなことはするべきじゃない」という古い保守的なアメリカ人の偏見を受け入れ、長い間、人種ミックスのカップルがドラマに登場することはタブーとされていたのです。

そんな闇が晴れだしたのがここ数年。白人黒人のカップルがテレビ画面にどんどん登場するようになりました。LGBTQIA も含めて、ハリウッドの多様性への尊重は、口先だけではなく本物になりつつあります。

今の若い世代には、人種や肌の色を気にしない人が多くいます。ハリウッドのテレビ業界も、そういった一歩前を行く生き方をやっと反映するようになったようです。

『BEEF/ビーフ 〜逆上〜』シリーズは、多くの期待を背負って登場した、時代の寵児といえる作品なのではないでしょうか。

文/中島由紀子

『BEEF/ビーフ 〜逆上〜』(2023)
業績不振に悩む工事業者と、満たされない心を抱える起業家。運転中にキレて、互いを知らないままにあおり合ったふたりに生じた確執は、やがてそれぞれのドス黒い衝動をあぶり出していく。

Netflixシリーズ『BEEF/ビーフ 〜逆上〜』独占配信中

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください