創刊5年。日本初の少年院・刑務所専用求人誌『Chance !!』編集長が語る再犯の現実。「行き場のない人は生きるために元の場所に戻ってしまう人が多いんです」
集英社オンライン / 2023年4月13日 19時1分
闇バイトやサイバー犯罪など若年層でも犯罪者になりうる今、 何歳までなら“人生のやり直し” ができるのか。国内初の少年院・刑務所専用求人誌『Chance!!(チャンス)』を創刊し、受刑者たちの採用をサポートしてきた三宅晶子さん。創刊から5年、築き上げてきたこれまでを振り返る。
選択肢がないとできない言い訳になる
仕事を探すための求人情報誌がたくさんある中、元受刑者に向けた求人誌がある。2018年3月に創刊された『Chance !!』。年に4回ペースで発行し、全国の刑務所や拘置所、少年院、更生保護施設などに配布している。
国内初の少年院・刑務所専用求人誌として誕生し、今年3月で創刊5年を迎えた。同誌を立ち上げた編集長であり、株式会社ヒューマン・コメディ代表の三宅晶子さん。創刊の経緯や思いなど、これまでの活動を改めて振り返ってもらった。
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少年院・刑務所専用求人誌『Chance!!(チャンス)』
――3月で創刊から6年目を迎えました。今までになかった刑務所・少年院専用の求人誌を立ち上げ、この5年での変化はありますか?
最初は実績もなかったので、“営利目的の訳のわからないやつ”って思われていたんじゃないですかね。でも結果が出ようが出るまいが続けているうちに、やりやすい環境になってきたと思います。法務省や各所との信頼関係を築けてきて、今では行政からの相談や講演の依頼をいただけるようにもなりました。出所者の就労支援と言えば、当社の名前が挙がることも多いですね。
――求人誌を立ち上げる前は、大手企業で働いていた三宅さん。転職のタイミングでひきこもりや元受刑者の自立訓練施設を計画していた友人から「講師になってほしい」と誘われたことがきっかけだったそうですね。
自立支援団体のボランティア活動を通して犯罪歴のある方々のお話を聞くようになって、出所しても社会復帰が難しい人がたくさんいる現状を知りました。
満期釈放の場合は住む家も帰れる場所もない方が多く、出所したらとりあえずネットカフェや漫画喫茶に行くんですね。仕事を探そうにも住所がないと探せない。あっという間に所持金を使い果たし、生きていくために元の場所へ戻ってしまう人が多いんです。つまり、再犯ですね。
――身元引受人がいて帰る場所がある仮釈放と比べ、保護観察も付かない満期釈放は再犯率も高くなってしまうんですね。
この事実をどう受け止めるべきか考えていたとき、奄美大島の施設で仲よくなった17歳の女のコから「今は少年院にいます」と手紙をもらったんです。彼女は両親健在ですけど、育児放棄や虐待を受けていて人生のほとんどを施設で過ごしていました。
私は、人生って選択肢がすごく大事だと思っていて。選択肢がないとできないことの言い訳になっちゃうからこそ、彼女の人生の選択肢の一つになればと思い、「私も身元引受人になれるよ」と伝えました。そこから私の人生も思わぬ方向に進み出したんです。
刑務所は紙社会、インターネットが使えない
――ひとりの少女の身元引受人となり、2015年に株式会社ヒューマン・コメディを設立。受刑者たちの就労支援ではなく、なぜ求人誌を作ることになったんですか?
最初は非行歴、犯罪歴のある人の有料職業紹介事業としてスタートしたんですけど、そもそも当社の存在を知っている人がいない。1年半やってみて面接できたのは20人、そのうち内定者は5人くらいしかいなかったです。
――1年半で5人は厳しいですね。その期間に紹介料は入ってきたんですか?
紹介した人材が勤務3ヶ月目から紹介料をいただく仕組みだったんですけど、紹介料が発生したのはたったひとり。この事業モデルはマズいなぁと(笑)。
光のないトンネルを歩いているような気分でしたがある日、協力企業さんの会社に行ったら冊子が積まれていたんです。「工業高校向けに求人誌を作り始めたんですよ」と言われて手に取ると、当時たまたま営業していた建設系の会社が何社も載っているじゃないですか。これはいい!と思ったんです。
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――求人サイトではなく、なぜ求人誌にしたんですか?
刑務所の中ってインターネットが使えないんですよ。いまだに紙社会なので、受刑者とは手紙ですし、施設の職員さんとのやり取りでさえ電話かFAXです。
――そもそも刑務所内にいる頃から就職活動はできるんですか?
施設内の就労支援制度を受けていればできるんですけど、概ね、出所の3ヶ月前から支援を開始するという施設が多くて。ところが仮釈放の準備には半年くらいかかってしまうので、就労支援を待っていたら仮釈放に間に合わないんですよ。
そこで、刑務所の制度とは別になるんですけど、帰住先や身元引受人が決まっていれば仮釈放の可能性が出てくるので、『Chance !!』を使って独自に応募してくる方が多いんです。就労支援を前倒しにする施設も年々増えてはいるんですけどね。
報酬0円からのスタート
――これまで『Chance !!』に掲載された企業は106社(2023年春号の時点)。通常の求人広告は1ページに分割で掲載されている印象ですが、『Chance !!』では1社に1〜2ページも使用。仕事内容や給与などの基本情報はもちろん、社長の人物像や考え方までざっくばらんに綴られているのには驚きました。
求人広告というより、会社紹介に近いかもしれないですね。出所する際の身元引受人になれるかどうか、寮や社宅などの住居支援、当座の生活費支援、一部日払いや前借りなど、最低限の条件が整っている企業さんであれば一度お会いして、お話させていただいた上で掲載していただくかどうかを決めさせていただいています。
社会に出ている私たちは気になる会社があればスマホなんかを使って検索すればいいし、直接見に行くこともできますけど彼らはそれができない。少ない情報だけで仕事先を決めないといけないので、『Chance !!』では代表者からのメッセージや写真も掲載して会社の雰囲気をできる限り伝えられたらと思っています。
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――掲載企業も少しずつ増えているのは、営業担当の方がいらっしゃるとか?
今は営業活動を全くしていません。創刊号の頃は、建設業界のイベントでマイクを奪って営業的なことをしましたけれど(笑)。メディアに取り上げられたときに10件〜20件くらいご連絡をいただいて、何もない時期でも月に1件、2件くらいは問合せがありますね。中には「掲載料かかるんですか‼」みたいな方もいます。
――受刑者向けのものだからタダで載せられると思う人もいるわけですね。活動資金はどうなっているんですか?
求人広告の掲載料をいただいています。ボランティアというわけではなく、株式会社としてやっています。もともと私はこの会社から報酬を得ていなかったんですけど、去年からは多少受け取るようになりました。
――制作費などの経費は補えるとしてもご自身の生活は大丈夫なんですか?
私は求人誌とは関係ない仕事をしています。納棺師をやっていて、今日も納棺の仕事に行ってからここに来ました。どちらも本業ですね。
ライスワークからライフワークへ
――やめたいと思ったことはないんですか?
それは全然ないです。しんどいことはたくさんありましたけど(笑)。
――“しんどいこと”とは、例えばどんなことでしょう?
創刊第1号を出しても反応が何もないなど、立ち上げの頃は苦しかったです。ひとりでやっていた孤独感もあったし、先が見えない不安からうつに近いような感じでした。その時に、受刑者支援を行っているN P O法人「ほんにかえるプロジェクト」の汪(ワン)さんという方がいるんですけど、「うちの会報誌と一緒に受刑者に配ってあげるよ」と協力していただけて。そこから少しずつ手応えを感じるようになりました。
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――創刊当初は、三宅さんひとりで求人誌を作っていたそうですね。
デザインは外注していましたが、それ以外はひとりでした。創刊は2018年の春ですけど、実はその数ヶ月前に資金がショートしたんですよ。有料職業紹介事業として事務所を借りていたんですけど、家賃も払えなくなって。
ただ、求人誌のアイデアは2017年からあったので、既にプレスリリースも出していました。でも求人誌なんて作ったことないし、できる気がしなくて、そこから何ヶ月も保留状態でした。それで有料職業紹介事業を廃業しなきゃいけなくなったときに、やっと腹をくくれたんです。この会社で食っていこうと思うから苦しいんだ、だったら全然関係ないところで収入を得ればいいと気づいたんですね。納棺師として独立すると決めて、これで求人誌を出せるじゃん!と。なんか光がピッカーンって見えた感じでした(笑)。
取材・文/釣本知子 撮影/惠原祐二
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