著者の斉加尚代は大阪のMBSテレビ(毎日放送)のディレクターだ。
今年5月公開のドキュメンタリー映画『教育と愛国』では映画初監督をつとめている。教科書検定を巡る長き取材を2時間弱の映像で世に問うている。ドキュメンタリーとは地道な取材の積み重ねであり、この本にもその制作の過程は詳述されている。
そして、この本の中には彼女が関西のテレビ局に籍を置き、担当した4本のテレビドキュメンタリー作品の興味深い制作秘話が書き記されている。タイトルを書いておくと①『なぜペンをとるのか~沖縄の新聞記者たち』②『沖縄 さまよう木霊~基地反対運動の素顔』③『教育と愛国~教科書でいま何が起きているのか』④『バッシング~その発信源の背後に何が』の4本。
映画は、3本目の作品をブラッシュアップ、アップデートしたものだが、4本の作品が互いに内容を補完し、批評しあい、時代を経て培われる熟慮した思考や視点をミックスして観客に投げかける。本書は、この映像のさらなる補助線となっている。
映画の中で省かれた話を書いておくと、彼女はかつてテレビやYouTubeで取り沙汰されたニュース映像のきりとりの大炎上経験者だ。2012年5月、当時、風雲児として人気絶頂の橋下徹大阪市長の「君が代斉唱問題」の囲み記者会見で、市長に質問を繰り返し、市長から「勉強不足!」「ふざけた取材すんなよ!」と面罵され、30分近く吊るし上げられて話題になったあの女性記者なのだ。ボクは権力者による言論封殺が露呈した、あのシーンが忘れられず、2013年に橋下市長と共演した大阪の番組で生放送降板事件を起こす引き金にもなった。
問題は今も続いている。現状、ボクは松井一郎大阪市長に訴えられ、近々に法廷に向かう過程にいる。「権力による言論弾圧」――本質的には、この本と同じテーマを抱えながら。今、本書を読み、貴方も当事者である「そこにある危機」を共有して欲しい。