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バイアグラは2時間持続する。では、結婚の幸福はどれくらい続くのか? いくつものタブーを冒して誕生した大ヒット商品開発秘話

集英社オンライン / 2023年4月18日 18時1分

人生においてただ一つ、本当に重要なものは「他者との関係」である。人間関係の意外な真実と確かな戦略を集めた『残酷すぎる人間法則 9割まちがえる「対人関係のウソ」を科学する』(飛鳥新社)より一部抜粋・再構成してお届けする。(全3回の1回目)

いくつものタブーを冒して開発された大ヒット商品

1990年代半ば、ファイザー社の経営状態は思わしくなかった。同社は、第二次世界大戦中にペニシリン製造のトップメーカーとして名高かったが、20世紀終盤には競合他社に追い抜かれ、ヒット商品を渇望していた。

幸いにも、希望の光が射しこんだ。ファイザー社の英国研究所が開発した狭心症の治療薬、シルデナフィルクエン酸塩に、男性を勃起させる奇妙な副作用があったのだ。そう、この薬がのちにバイアグラとなる。当時、性的不能の治療薬として承認された薬は市場に一つもなかった。ただの一つも。製薬会社にとって夢のような好機じゃないか?


だが、一つだけ問題があった。こういう薬の開発をしてもいいのか、とみんなが思っていたことだ。

雑誌『エスクァイア』の記者、デビッド・クシュナーが語るように、「当時、バイアグラを売る案は、良くてクレイジー、悪くすれば不道徳だと考えられていた」。この薬は一躍有名になり、数十億ドル規模の勃起不全治療薬市場を創出することになるが、プロジェクト初日から、ファイザー社の保守的な文化が壁となり、事業の推進に立ちはだかった。これまでの医薬品開発のなかで、最も苦しい戦いとなった。

今でこそ有名になったED治療薬を発売できたのは、ほかでもない、2人の意外なヒーローが奮闘したおかげだった。ジャマイカ出身の敏腕マーケッター、ルーニー・ネルソンと、ニューヨーク出身の臨床薬剤師、“ドクター・サル”である。
彼らは、勃起障害(ED)によって結婚生活が損なわれ、自尊心が傷つき、健康な夫婦が子宝に恵まれる機会を奪われることを知っていた。この2人の反逆者が、小さな青い錠剤を世に送りだすために社の体制に立ち向かい、周囲の圧倒的な反対を乗り越えたのだ。

研究室では、この薬の効果が証明されていた。だがその副作用は、患者に受け入れられるだろうか?

まずは、誰も支持しない薬のためのフォーカスグループに社の承認を取りつけるだけでも至難の業だった。そのうえルーニーとサルは、被験者に個室でポルノ映画を見てもらい、自慰行為をしてもらうことにも承認を得なければならなかった。

2人はどうにか会社の同意を取りつけることができた。最も一般的な副作用は、4時間ほど勃起が続くことだと判明した。率直に言って、大半の被験者はそいつはいいねと思った。第一の難関がクリアされた。患者を味方につけたのだ。

「ED」という用語はマーケティングのために生まれた

だが、この薬を「みっともない薬」と見なす社内の空気は変わらなかった。男性は恥ずかしくて店頭で注文できないだろう、と異を唱えられた。誰だってわざわざ弱みを晒し、性的不能者だと名乗りたくはない。

しかしルーニーは、それが本質的な問題ではなく、単に言葉の問題だとわかっていた。そこで「勃起不全(ED)」という用語が生みだされた。これは、従来からあった医学的診断名ではない。1990年代に、医学ではなくマーケティングから生まれた、医学的な響きを持つ婉曲表現なのだ。

この「くだらない薬」が発売されることはないだろうと、社員の半数はまだ思っていた。し かしルーニーとサルは、社内の抵抗さえ乗り切れば、やがて誰もが目を覚まし、これが儲かるビジネスだと気づくだろうと考えていた―が、そうはいかなかった。サル博士は、社外でも、少なくとも社内に匹敵する激しい抵抗に遭うことに気づいた。あらゆる宗派の指導者たちが抗議の意を示したのだ。保守的な議員たちは、ED治療薬が保険適用になることが気に入らなかった。まるで悪夢だ。2人には、世界じゅうが敵に思えた。

だがルーニーには目算があった。この薬を世に送りだすには、マーケティング的には邪道とも言うべき、徹頭徹尾あり得ないことをやってのける必要があると考えていた。そして、この商品を売りだす最善の方法は―信じられないことだが―可能な限り話題にしないという結論にたどり着いた。

研究開発や治験に莫大な資金が投じられてきたのに、FDA(米国食品医薬品局)の認可が下りるまではいっさい宣伝活動をしない。正気とは思えない奇策だったが、妨害を避けるにはそれしかなかった。そしてそれは見事に功を奏した。

バイアグラの効用は平均2時間…愛の持続時間は?

1998年3月、バイアグラはFDAの認可を受けた。これでようやく弾みがついた。あとは、どうやって売り込みをかけるかについて、社の営業チームと話をするだけだ……。

ところが、営業マンたちは難色を示した。医師とペニスの話をするのは気まずいというのが理由だった。そこでルーニーは、営業マンたちの抵抗感をなくすために、販売会議で彼らに「勃起!」と大声で5回叫ぶように指導するはめになった。

イレクション!イレクション!イレクション!イレクション!イレクション!

発売日が近づくにつれ、ファイザーは物笑いの種にされると誰もが思った。

しかしこの話の結末はすでにご存知だろう。バイアグラは空前の大ヒットをおさめ、社会現象を巻き起こし、世界各国の深夜番組の司会者に笑いのネタを提供した。ほどなく、1日に万枚の処方箋が書かれていると言われるようになり、プロザックの発売時を上回る反響だった。ほんの数日で、ファイザー社の株価は2倍になった。

この薬は青色だったが、ふたを開けて見れば、まるでトナカイ「ルドルフ」の赤鼻のようだった。嫌われ者だったが、結果として救世主になった。誰も信じていなかった薬が、誰もが求める薬になったのだ。

セックス、愛、結婚にこと関すると、すべてが複雑で、単純明解なものは何もない。小さな青い錠剤はたしかにすべてを克服したかもしれないが、愛はどうだろう?

バイアグラの効果が持続するのは平均2時間だ。愛はどのくらい持続するのだろう?

#2 浮気が一番多いのは結婚して何年目?
#3 結婚への期待値が高まりすぎた現代の弊害(4月19日18時公開予定)

『残酷すぎる人間法則 9割まちがえる「対人関係のウソ」を科学する』(飛鳥新社)

エリック・バーカー (著), 橘玲 (監修), 竹中てる実 (翻訳)

2023年3月24日

1760円(税込)

404ページ

ISBN:

978-4864109499

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