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600億円以上、日本から韓国の本部に振り込まれている…まるで振込詐欺集団のように、綿密なチーム体制で行われる統一教会の霊感商法。若者もハマるロジックとは

集英社オンライン / 2023年4月25日 7時1分

カルト宗教と政治の癒着に切り込んだ書籍『日本のカルトと自民党 政教分離を問い直す』。1999年度から2011年度までの間だけで、統一教会の日本の信者から約600億円が韓国に送金されているという。なぜそんなことが起きてしまうのか、統一教会の霊感商法の手口を解説する。

統一教会と霊感商法

統一教会と言えば、霊感商法である。

強引なやり方で、壺や印鑑を売りつける。教団ぐるみ、組織ぐるみで、目をつけたプチ金持ちからありったけを巻き上げる。その手口や実態は、浅見定雄『統一協会=原理運動』や有田芳生『改訂新版 統一教会とは何か』に詳しい。


日本はエバ国家

文鮮明によれば、日本は、韓国を虐げた悪の国であるが、アダム国家である韓国の妻となって助ける「エバ国家」の役割を与えられた。経済を通じて、韓国に貢献しなければならない。

統一教会の資金の流れを見ると、日本からの献金が最大の資金源になっている。エバ国家であるかどうかはともかく、これは、はじめからそういう計画だったのだろう。

統一教会は、韓国では競争相手が多い。

韓国はそもそも、キリスト教徒の割合が多い。プロテスタントの各宗派やカトリックが人びとのあいだに広まっている。統一教会は異端で、そもそも警戒されている。

梨花女子大の事件(教授や生徒が入信し、結果的には退学。文鮮明が女性徒と肉体関係を持っていたという噂が広がったりと、韓国で悪評を広げるきっかけとなった)もあったことゆえ、つねに猜疑と悪評がつきまとっている。反社会的な資金集めを大々的に展開するのは、韓国では無理があるのだ。

日本は、韓国と違って、キリスト教徒の割合が少ない。ということは、既存のキリスト教界からの介入や圧力が、韓国ほど激しくない。

現に、やはりキリスト教系の新宗教であるエホバの証人は、数十万人の規模に急成長しているではないか。それは、キリスト教によく似ているように見える統一教会は、日本で発展の余地がある、ということである。

統一教会はそれを早い段階で見抜き、理解し、日本にミッションを送り込んだ。結果から言えばこれは、ある程度成功した。

要するに日本は金づるだ。TBS「報道特集」の調査によると、1999年度から2011年度まで毎年約600億円を、日本の信徒から集めている。それ以後もずっと、集金は続いている。集めた資金のかなりの部分が、韓国に送られたと推定される。

霊感商法とは

いわゆる霊感商法は、マルチ商法と違って、もっと悪質で組織的な犯罪である。

商取引は、売り手、買い手の双方の合意(契約)によって成立する。その際、商品についての情報が正しく伝えられていること、合意(契約)が任意になされること、などの条件が満たされている必要がある。相手を騙せば、詐欺になる。

マルチ商法は、ネズミ講と類似していて、新規の加入者を募り、ネットワークが拡大していくと、早くに加入していたものが配当を受け取り、儲かる仕組みとなっている。ネズミ講はただ出資するのだが、マルチ商法の場合は、商品を買い取る商取引の外見をとっている。

マルチ商法は、取引きの仕組みの説明を受け、本人が合意して、儲けるつもりで参加する。結果的に儲からず、大部分のひとは被害に遭う。

霊感商法の場合は、ネットワークは存在せず、ターゲットとされた顧客が、本来なら買わなくてもいい商品をつぎつぎ高額で買わされてしまう、というやり方である。

なぜ買わされるのか。統一教会の信徒がチームをつくって、顧客の心理をたくみに操り、どうしても商品を買わなければならない心理状態にさせてしまうのである。

顧客は、統一教会の信仰を持つわけでも、その世界観をシェアするわけでもない。売り手が統一教会であることを、そもそも知らないかもしれない。

しかし、先祖の祟りだとか、本人が理解できる不幸の原因を吹き込まれて、それを逃れられるならばと、商品を買う。あるいみ合理的に、非合理な行動をしているのである。

対する売り手のチームは、相手を騙しているという一致した認識を持っている。そして、統一教会の信仰を共有している。統一教会は資金が必要だ。資金を集めるのは正しいことだ。

だから教団の任務として、また、信仰を持つ者の義務として、チームとして行動する。そのためのマニュアルもある。売り手のチームの人びとも、合理的に行動している。

この組み合わせが霊感商法だ。

霊感商法は、マルチ商法と違って、どこまでも自分で拡大していくメカニズムを持っていない。代わりに、つぎつぎ獲物となる顧客を見つけなければならない。反社会的な販売方法なので、社会問題となる。そして、早晩、行き詰まる。

若者とカルトと世界観

そもそもなぜ、多くの若者が、こうしたカルトの一員となるのだろうか。それは、若者が若い時期に共通に経験する、精神世界の形成と世界観の獲得に関係する。

子どもは家族の一員として育ち、家族に依存している。次第に、友人との社会関係に、軸足を移す。仲間に受け入れられるかどうか。はじめはおっかなびっくりだ。

そして、仲間との結束を優先し自分を犠牲にすることができるなら、このプロセスは完成する。そして、それを経由して、最終的には、

自分(自分の世界) ― 家族 ― 社会集団(仲間の世界) ― 世界(世界観)

という精神世界の広がりを手に入れる。これが大人だ。

日本の学校では、部活やサークルが大きな意味を持つ。子どものころからの世界を打ち破る社会集団として大事なのだ。

部活には、甲子園やインターハイなどの目標がある。その目標に、かなりの時間とエネルギーを使って、みなで献身する。自分や家庭を中心にした世界を乗り越え、社会的な能力を手に入れる。

部活やサークルは害が少ない。卒業してしまえば、解放される。それに経済や政治や宗教と切り離されている。どんな経済活動をするかは、本人の就職の問題。どんな政治思想や宗教を選びとるかは、本人がどんな世界観を身につけるかの問題である。

学生運動も、部活やサークルと似たところがある。学生運動は、政治と関係あることになっている。けれども卒業し、就職してしまうと、たいてい学生運動と関係なくなる。

統一教会のようなカルト的な宗教団体は、これと異なる。第一に、卒業がない。いったん加入すると、離脱しない(できない)仕組みになっている。第二に、資金集め(経済活動)をさせられる。社会的な非難を浴びるかもしれない。第三に、宗教団体は特有の世界観を持っている。

それを受け入れることが求められる。要するに、青年期に必要な社会集団(仲間の世界)も世界観もいっぺんに与えられて、当人の半生を包み込んでしまうのである。

カルト的でないふつうの宗教は、こうしたことがない。ふつうの宗教は、経済とも政治とも無関連化されている。その宗教を選び取って、世界観に組み込むとしても、経済や政治やそれ以外の領域を、自分の考えによって組み立てなければならない。つまり、害がない。

まじめで潔癖

ではどんな人びとが、統一教会に引き込まれるのだろうか。きっかけは、街頭のアンケート調査とか、友達にビデオ・セミナーに誘われたとか、いろいろであろう。

総じて言えば、統一教会に引き込まれるのは、まじめで知力の高い若い人びと、つまりごくふつうの人びとである。

統一教会は、性にこだわり、性が堕落と罪の始まりであるとし、純潔を強調する。消費社会の爛熟や歪んだ性文化に眉をひそめるタイプの若者は、この教えに共感を覚える。

また統一教会は、聖書の解釈というかたちで、体系的な世界観を提供する。キリスト教や聖書になじみのなかった若者は、キリスト教っぽい外見を真に受けて、その教義を受け入れてしまう。

統一教会は、部活やサークルのノリがある。信徒を増やすことは、組織の目的でもあり信徒の実績にもなるので、みなとても親切だ。

有田芳生『改訂新版 統一教会とは何か』(2022年、原著は1992年)は、献身(専従者となること)してニセ募金や霊感商法に日々を送った当時の、元信徒の日常を生々しく描いている。

それは洗脳なのか

アメリカでキリスト教系カルトの反社会的事件が問題になり、教団から連れ戻した若い信徒を「脱洗脳」する専門家が現れた。キリスト教の牧師らや、ソ連の洗脳の技術に詳しい臨床心理学者らである。

カルト宗教が人びとを信じさせるのが洗脳なら、信じさせられた人びとに責任はない。でもそのかわり、信徒であった当時の人格は、本人の人格と認められないことになる。

これはこれで、辛いものがあるだろう。

統一教会の場合、人格改造セミナーのような技法を使うとは言え、洗脳であるとは言いにくい。それは、宗教の枠内にとどまっており、本人の納得と同意にもとづいて、教団の活動に従事させている。本格的な洗脳の技法で、本人の人格を操作しているとまでは言えない。

それなら、統一教会の反社会性は、どこにあるのか。それは、統一教会が、「地上の神の王国」という、経済と政治と宗教にまたがる閉じた世界観を提供し、その内部に信徒を閉じ込めるところから生まれている。

統一教会が提供するのは、社会集団(仲間の世界)=世界(世界観)という閉じた世界であり、その世界を、再臨のメシア(文鮮明)が主宰している。信徒はそこで、生きる意味と価値を与えられる。よってそこから、抜け出すことができにくくなる。

この閉じた世界は、信徒から、時間とエネルギーと金銭を吸い上げる。信徒がそれを提供しておかしいと思わないのは、そうした貢献は、意味があり、価値があり、「地上の神の王国」を実現させるためである、と信じるからだ。

「地上の神の王国」が実現するなら、そうした努力と献身は報われる。「地上の神の王国」は、甲子園やインターハイが大がかりになったようなものなのだ。


*統一教会(世界基督教統一神霊協会)は、現在は、世界平和統一家庭連合と名前を変えています。新聞などは「旧統一教会」と表記しますが、本稿では歴史を尊重して、統一教会(Unification Church) と呼ぶことにします。


文/橋爪大三郎 写真/©shutterstock

日本のカルトと自民党 政教分離を問い直す

橋爪 大三郎

2023年3月17日発売

1,276円(税込)

新書判/368ページ

ISBN:

978-4-08-721257-0


統一教会、日本会議…
宗教社会学の第一人者がタガの外れた政教癒着を警告

日本人は、宗教の訓練が足りない

◆内容紹介◆

カルトが日本を、蝕んでいる。安倍晋三元首相暗殺を機に、統一教会が自民党に喰いこんでいた実態が明らかになった。
だが、病巣はもっと深い。統一教会以外の宗教勢力も自民党に隠然と影響を与えている。

なぜこんなことになってしまったのか?

原点に立ち戻り、政治と宗教の関係を考え直す必要がある。政府職員も市民もカルトの正体を見抜く基礎知識を身につけよう。そして政教分離の原則を改めて体得しよう。本書は宗教社会学の第一人者がカルト宗教の危険性を説き、民主主義と宗教のあるべき関係について、基本から明快に解説する。

◆識者の評◆
オウム事件や統一教会問題を経験した日本でもっとも必要な知識がここにある。――有田芳生氏(ジャーナリスト/『改訂新版 統一教会とは何か』著者)

当代随一の泰斗が、その尋常ならざる「読む力」と「書く力」の双方を注ぎ込んだ本書は、今後「政治と宗教」の議論に参加する人々にとっての、ひとつの確かな羅針盤になるに違いない。――菅野完氏(著述家/『日本会議の研究』著者)

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