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『プリキュア』は打ち切りの可能性もあった!? 初代プロデューサー鷲尾天が語る、20年間続いた礎となったのは最初の企画書に書かれていた「自分の足で凛々しく立つ」こと《プリキュアシリーズ20周年》

集英社オンライン / 2023年4月23日 7時1分

2004年スタートの人気TVアニメ「プリキュア」シリーズが20周年を迎える。子供たちから圧倒的な支持を得ていた人気作品の裏側で、実は制作陣は常に大きな苦労を抱えていたという。プリキュアの生みの親である初代プロデューサー・鷲尾天氏に20年目の想いを聞く。

2004年の「ふたりはプリキュア」から放送開始した人気TVアニメ「プリキュア」(テレビ朝日系)シリーズが20周年を迎える。そのアニバーサリーを記念して、2月からは「全プリキュア展」が開催されており、歴代主人公プリキュアの等身大キャラクターや当時の資料などが展示され、大変な盛況ぶりを見せた。

プリキュアシリーズ20周年を記念した、歴代主人公たちが一堂に会したスペシャルビジュアル


自分の足で凛々しく立っていれば男も女も関係なし!

――これまで多くの作品を世に送り出してきた「プリキュア」シリーズですが、企画の立ち上げ段階では「女の子だって暴れたい」というコンセプトがあったとお聞きしています。ある意味、“女の子らしさ”というものに反発したコンセプトに思えますが、当時どのように考えていたのでしょうか?

当時、私は女の子向けのアニメのノウハウがないまま担当することになりまして、監督である西尾大介さんとともにシリーズの方向性を模索していました。「女の子が主役」という作品のイメージは私も西尾さんも全くつかめていなかったので、「それならいっそ自分たちの考える主人公でやってみようか」と開き直ってみたんです。

そこで考えていくうちに、誰かを頼らず、自分の力で立ち向かっていけるというキャラクター像が浮かび上がってきまして。作品をとおして描くことができれば、とてもかっこいいんじゃないかと思ったんですよ。私はこのコンセプトを「自分の足で凛々しく立つ」ことと呼んでいます。

プリキュアの生みの親・鷲尾天氏

――自分の力で立ち向かっていくというと、シリーズ1作目「ふたりはプリキュア」に登場する美墨なぎさ(キュアブラック)と雪城ほのか(キュアホワイト)は、性格から所属するコミュニティーまで何もかも正反対なふたり。鷲尾さんが思いついたコンセプトを描くには、かなり難しい関係性だったと思うのですが、なぜこの設定にされたのでしょうか?

幼馴染だとか、運命で導かれたふたりだとか、特殊な設定にしたくなかったんですよ。むしろ、同じクラスで顔は知っているけど仲はそこまでよくないふたりをバディとして組ませたらどうなるんだろうという気持ちのほうが強かった。友人や家族を頼らず、ふたりのみの関係を築き、かけがえのない相棒へと至り、自分たちの力で敵に立ち向かっていく姿を丁寧に描きたかったんです。西尾監督とはずっとそんな話をしていました。

しかし、なぎさとほのかならではの関係性が理由で製作するのが難しかったポイントもありました。中学生って精神面でどうしても未熟で衝突も描きやすいのですが、そもそも彼女たちはあまり接点のないふたり。現実に照らし合わせると正面切ってぶつかり合うことなんてないので、仲よくなっていく様子を描くのは本当にしんどかったです(笑)。

それでも作中では、ふたりの仲のぎこちなさを発端としてギクシャクした過程を詳細に描きました。結果、きちんと仲直りして、他人に近い関係から親友にまでのぼり詰めることができましたし、また「ふたりはプリキュア」という作品を作る上では必要な流れだったんだなと思っています。西尾監督はこの二人の感情の機微を本当に丁寧に描かれていました。

女の子向けアニメだからこそ気を付けていたこと

――幼い女の子が観るアニメだからこそ、表現にはより一層気を付けていたのかと思いますが、具体的にはどのような工夫をされていたのでしょうか?

主人公の女の子に残酷なことはさせませんでした。具体的には、顔やお腹を殴るといったことはNG。敵に吹っ飛ばされても、痛々しく描写するのではなく、岩やビルにぶつけられた瞬間に崩れるといった具合に衝撃の強さを表わしていました。そうすることで、キャラクターへのダメージの大きさを表現しつつ、現実じゃあり得ないようなシーンとすることで子どもも真似しないのではないかと思っていて。子どもは見たものを真似してしまうので、細心の配慮を心掛けていたんです。

またプリキュアでは明確に「敵」、「正義」みたいな言葉は使っていません。プリキュアとしては、敵を殲滅するなんてことは考えておらず、あくまで自分たちのテリトリーを侵略しないでほしいというスタンス。だから初代プリキュアのキメセリフは、「とっととおうちに帰りなさい!」なんですよね。

第1作目「ふたりはプリキュア」(左)と最新作「ひろがるスカイ!プリキュア」(右)

プリキュアの転換期となった2作品とは?

――「ふたりはプリキュア」は、2005年に続編「ふたりはプリキュア Max Heart」として再スタート。そして、2006年には「ふたりはプリキュア Splash☆Star」が放送開始しました。こちら鷲尾さんのお気に入りの作品とお聞きしましたが……?

そうですね、思い入れは強いです(笑)。初代の成功がきっかけで「プリキュア」は子どもたちに受け入れられましたが、制作側としては常に4歳から6歳くらいの新しい視聴者を引き込むため、3年目から登場人物を一新して新しいシリーズを作ることにしたんです。そうして生まれたのが「Splash☆Star」でした。

しかし、残念ながら視聴率は思うように上がらず1年で終了に。本当は続編の計画もあったのですが、シリーズの継続どころではなくなってしまって。私含めスタッフから愛されていた作品だったのでショックでしたね。

さすがにシリーズ打ち切りかと思っていたのですが、「もう1作やりましょう」ということで新しいプリキュアを作ることになったんです。それがシリーズの転換点となった「Yes!プリキュア5」でした。

――プリキュアの人数が一気に5人に増えて、それまでバディものの側面が強かった作風からチーム主体の物語へと変化しました。結果として、その後のシリーズの礎となる作品になったと感じます。

チーム主体の作風となって、一番注意したことはシリーズの原点となった「自分の足で凛々しく立つ」ことを忘れないこと。「プリキュア5」はチームとして戦うけど、決して仲間頼りにはなっていません。夢原のぞみ(キュアドリーム)にせよ、ほかのメンバーにせよ、自分がピンチでもほかのメンバーを巻き込もうとはしないんですよ。

かといって、仲間たちも見捨てるわけではなく、そんなメンバーの想いをくみ取って、颯爽と助太刀にやってくる。阿吽の呼吸じゃないですが、そうしたチームの構成員一人ひとりが個々として自立していて、そのメンバーのために一生懸命になれるようなチームって最高じゃないですか(笑)。

起死回生で「プリキュア5」がヒットとなり、続編である「Yes!プリキュア5GoGo!」も放送されました。その後のシリーズ存続にもつがなり、今日に至っているんでしょうね。

一度プリキュアから離れた納得できる理由

――鷲尾さんは「Yes!プリキュア5GoGo!」が放送終了し、一度「プリキュア」シリーズから離れていました。交代は鷲尾さん自身のご意向とのことでしたが、なぜでしょうか?

ひとりの人間が長く居続けてしまうと、新しいアイデアって生まれにくくなっちゃうんですよ。いわゆる前例主義が出来上がってしまい、似通った作品が作られてしまう。上司とも「5年で一旦交代したい」と話していましたし、その方が新しいスタッフが自由に作っていけると思いました。

その後、「フレッシュプリキュア!」から「ハピネスチャージプリキュア!」は、ありがたいことに関連の玩具もたくさん売れ、多くの人々に愛される作品になり、本当によかったです。

――その後、鷲尾さんは2015年の「Go!プリンセスプリキュア」から再び企画担当としてシリーズに携わり始めました。本作は主人公の春野はるか(キュアフローラ)が花のプリンセスを目指して邁進するストーリー。“プリンセス”というと、古典的な女の子の夢のイメージが強いので、モチーフに驚いたファンは多かったかと思います。

お姫様をモチーフにすると決めたとき、いかにプリキュアでやる意味を盛り込めるか、けっこう時間をかけて詰めていたんです。そこで「つよく、やさしく、美しく」というキャッチフレーズをみんなで考え、見た目の華やかさではなく心の強さで気高く美しくあれと訴えることにしたんです。

お姫様というと、身分制度、階級社会といった観念がつきものですが、そういったことを抜きに「本当の清らかな精神とは何か」と探求することが「Go!プリンセスプリキュア」のテーマ。「自分の足で凛々しく立つ」という大元の信念があるからこそ、プリンセスというテーマが持つ内面を掘り下げるようにしたんです。

――女の子の憧れである「お姫様」だからこそ、改めてその定義を考えなおすと。その次作の「魔法つかいプリキュア!」がスタートしましたが、魔法というとあまりプリキュアっぽくないテーマですよね?

おっしゃるとおりで、私も企画の当初から「プリキュアは魔法ではない」と断言していたこともありました(笑)。

「魔法つかいプリキュア!」では、朝日奈みらい(キュアミラクル)とリコ(キュアマジカル)が出会い物語が進んでいくのですが、彼女たちはそれぞれナシマホウ界(人間界)と魔法界に属する立場も違えば、住む世界も違うふたりです。

魔法界はもともとナシマホウ界とひとつの世界でして、ふたつは同じ世界でした。この設定は中世の魔女に関する学術書を参考にしています。当時の権力者が薬学者や助産師など、民衆の尊敬や信頼が集中しそうな人々を排除するために「魔女」と称し迫害した。逃げのびた彼ら・彼女らが独自のコミュニティーを作り上げた歴史をなぞっています。そこで、本作では、分断されてしまったコミュニティー同士の人間が出会って、「魔法を超えて生まれた奇跡がプリキュア」と理屈づけたんです。

たとえ違う世界に生きる者同士でも困難に立ち向かう勇気を忘れていなければ、手を取り合って仲よくできる……。これが本作を通じて私が伝えていきたいメッセージであり、どの作品にもいかにプリキュアでやる意味を盛り込めるかを真剣に考え続けていたので、今があるんだと思います。


プリキュアシリーズ公式ポータルサイト

「ひろがるスカイ!プリキュア」


毎週日曜 朝8時30分から ABCテレビ・テレビ朝日系列にて放送中!
https://www.toei-anim.co.jp/tv/precure/

取材・文/文月(A4studio) 撮影/下城英悟

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