テーマが子育て、宇宙人や男の子がプリキュアに…異例づくしのプリキュアだが「多様性は意識していません。子供は怖いですから」と初代Pが語る“守りたいもの”《プリキュアシリーズ20周年》
集英社オンライン / 2023年4月23日 7時1分
「プリキュア」シリーズが今年で20周年を迎える。近年では多様性にスポットライトが当たった作品も増えてきているが、作風の変遷とともにプリキュアが守り続けているものとは何なのか。プリキュアの生みの親である初代プロデューサー・鷲尾天氏に話を伺った。
2023年で20周年を迎える「プリキュア」。今年はシリーズ初となる大人に向けた作品も始動しており、10月から「キボウノチカラ~オトナプリキュア’23~」(NHK)の放送が決定。またシリーズ13作目の「魔法つかいプリキュア!」の続編も24年度に予定しており、周年イヤーにふさわしい盛り上がりを見せている。
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2023年10月よりNHK Eテレにて放送開始予定の「キボウノチカラ~オトナプリキュア'23~」
変化し続けることで「らしさ」をなくしていく
――2018年の「HUGっと!プリキュア」では子育てがテーマ、その次作「スター☆トゥインクルプリキュア」では主要キャラクターの肌の色が褐色、宇宙人がプリキュアになるなど多様性を意識した作品づくりが目立っています。最新作「ひろがるスカイ!プリキュア」でも、シリーズ初のメインキャラクターとしての男子プリキュアが登場しました。このように「プリキュア」シリーズでは、先進的な取り組みが数多くなされてきました。
近年では嬉しいことにそう評価していただくこともありますが、別に多様性に関して特別に使命感を持って描こうとはしていません。ただし、「ふたりはプリキュア」当初から女の子らしさ、男の子らしさという言葉は絶対に使わないと決めていました。企画立ち上げ段階で西尾大介監督がジェンダーという言葉を使っていたことを記憶していますし、抑制的なワードはプリキュアに不必要だったんです。
女の子だからといってリーダーシップを取らないのは不自然ですし、なぜいけないんだと思っていたので、我々としては普通のことを描き続けてきたという感覚でしたね。
ただ付け加えるのであれば、変化を受け入れる体制は大事にしています。
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メインキャラクターとしては初の男子プリキュアとなる「キュアウィング」
――変化、ですか。
先に申し上げたとおり、新しいことを始めるときには何かと前例にとらわれたり、縛られたりしてしまうものです。なので、「プリキュア」シリーズでは、常に変化のある作品作りを心掛けられるよう、スタッフの出入りが多くなっています。だいたい1シーズンに200人ぐらいの製作スタッフがいるのですが、翌年のシーズンになると半分ぐらいのスタッフがごっそり入れ替わることもあります。
実際には核となるスタッフが残っているものの、ほとんどのメンバーが毎回毎回変わり続けているので、作品に関する意見は一人ひとり異なりますし、作品にかける熱量も大きい。議論が白熱し、コンセプト決定まで長い時間かかることも珍しくありません。
しかし、それって集団作業の醍醐味でもあるし、全く新しいプリキュアが誕生できる理由にもなると思うんですよ。挑戦し続ける姿勢は、新しいカットにつながります。そのため、逆にすんなりコンセプトが決まると、逆に「今年は大丈夫か」となって不安になっちゃいますよ(笑)。
プリキュアらしさもどんどん変わっていい
――1シリーズにそれだけ熟考されるとなると、プリキュアらしさを貫くのも大変そうです。
極端な話、それも時代に合わせて、どんどん変わっていけばいいと思っています。最近ですと2017年の「キラキラ☆プリキュアアラモード」はアクションをさせないというプリキュアでは異色とも言えるコンセプトがネット上で話題になりました。ですが、子どもたちの反応はよく、きちんと受け入れてくれましたね。
大事なことは、メイン視聴者である4歳から6歳の女の子が観て面白いと思ってもらえる作品を作るということ。どれだけ多様性に配慮した設定にしたとしても、子どもにとって憧れの存在や喜んでもらえる作品になっていないと意味はありません。子どもは正直なので、義務感から付けられた設定なんて作りものっぽいってわかっちゃいます。製作側からすれば、メインターゲットの子どもたちはとっても怖い存在なんですよ(笑)。
設定ばっかりこだわって盲目的になるのではなく、あくまで「自分の足で凛々しく立つ」ことを忘れず、子どもたちが喜ぶものの一環として多様性を取り入れられればなあと。
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プリキュア初代プロデューサー・鷲尾天氏
――「ひろがるスカイ!プリキュア」では、メインキャラクターとしては初の成人プリキュアも登場しますし、10月からは大人向け作品である「キボウノチカラ~オトナプリキュア’23~」(NHK)も始まります。プリキュアというと、女子中学生が主役を張ることが通例とされてきましたが、そうじゃくなる日が来るかもしれませんね。
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シリーズ初の成人プリキュアとなる「キュアバタフライ」
そうですね。中学生って子どもから見れば少し親しみやすくてカッコいい存在になるので、主人公にぴったりの年齢だと私は考えていましたが、視聴者である女の子たちが受け入れてくれるのであれば、どんどん変わっていっても問題ありません。時代の波に合わせて子どもたちが憧れるプリキュアを描き続けることができればOKですので、スタッフには前例や使命感を覚えず、自由に発想してもらってほしいですね。
とうとうやって来た親子2世代に渡る視聴
――20年が経過しようとしているなかで、「ふたりはプリキュア」当時に子どもだった世代が母親になって子どもと一緒にプリキュアを観ることも現実的になってきましたよね。鷲尾さんとしては、そういった実感はございますか?
とうとう来たか……というのが正直な感想ですね(笑)。イベントでも子どもだけではなく、大人のお客さんもすごく増えました。昔の視聴者が自分の子どもと一緒に観る、番組開始当時は想像もつかなかった、すごい時代になったんだなと。
でもやっぱり当時の視聴者が観るとなると、面白いのはもちろんですが、子どもにも観せていいと思ってもらえる作品を作り続けていかなくてはいけませんね。「私が観ていたころとは違う」と思われるものを作ってしまっては意味がないので、ずっと好きと言ってくれる作品を作らなければいけない……。そう思いますね。
私としては女の子らしさ、という観念は特に気にせず、女の子、男の子問わずに自分の力で立ち向かえる作品を作ることがベストだと考えています。自分の足で凛々しく立つことができていれば、男女差は関係ないということは、作品を通じてはっきりと伝えていきたいです。
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超貴重な「プリキュア」企画立ち上げ時の企画書
――プリキュアの目指す未来は、今後どんどん予想できないものになっていきそうですね。
もちろん続けられるのであれば出来るだけ長く続けていきたいとは思っています。ただ、プリキュアとして製作していくことが難しくなっていくようなことがあれば、無理やり続けていく必要はないと考えています。終わりが来たら受け入れる覚悟は出来ています。
その日が来るまでに女の子、男の子限らず視聴者の子どもたちには、友情や助け合いを通じて自分の力で自立することの大切さを感じてもらえる作品を送り続けることができれば幸いですね。
プリキュアシリーズ公式ポータルサイト
「ひろがるスカイ!プリキュア」
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毎週日曜 朝8時30分から ABCテレビ・テレビ朝日系列にて放送中!
https://www.toei-anim.co.jp/tv/precure/
取材・文/文月(A4studio) 撮影/下城英悟
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