2023年3月、埼玉。最後のジャンプを降りたところで、宇野昌磨(25歳、トヨタ自動車)は口元に笑みを浮かべていた。スケートの楽しさが満ちると、それが無邪気なほどに溢れ返る。
ステップシークエンスに入ったとき、身体中の細胞が弾けるように躍動した。瞬間の充実を一つひとつ確かめるようだった。
スピンを回り切って最後のポーズをした後、力を使い果たしたようにころんと転がって、ファンの万感を乗せた絶叫を浴びた。
「演技直後はホッとしたというか。久々に練習以上を(試合で)出さないといけない気持ちがあったので。地に足がつかない演技ではありましたけど」
宇野はそう振り返ったが、歴史に刻まれる演技だった。男子シングルの日本人初の世界連覇だ。