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日本ではなぜ「片方が外国人」というだけで同性カップルが冷遇されるのか? 金銭的不利益、ビザ、親権…世界の常識からかけ離れたその実態

集英社オンライン / 2023年4月26日 11時1分

G7(先進7カ国)の中で現在、同性婚を認めていないのは日本だけ。さらに「片方が外国人」の同性カップルともなると、その冷遇ぶりは「この国から出ていけ!」と言わんばかりの有様だ。日本を深く愛しているのに、このままでは日本を捨てざるを得ない…そんな悩める同性カップルのリアルな現状を追った。

G7で同性婚を認めていない唯一の国、日本

「日本ではあなたは結婚できないよ、と言われた時はびっくりしました」

穏やかな口ぶりとは裏腹に、落胆した面持ちでそう切り出したのは、スペイン・カタルーニャ人のアンナさんだ。大阪市生野区にある築100年の長屋を改修し作った工房。土間にある電気釜ではちょうど素焼きが始まったばかりだ。コーヒーカップを持ち上げた爪の先に、先ほどまでこねていたであろう土が微かに張り付いている。



バルセロナで陶芸家として活躍していたアンナさんが、色彩豊かなスペインの焼き物にはない、土の風合いを直に感じる日本の陶芸に魅せられ来日したのは2019年。直後、大阪で現在のパートナーである角元リョウさんに出会った。2人は生涯のパートナーになる約束を交わしたが、日本では同性同士の自分たちは夫婦になれないと聞かされ、耳を疑った。日本はこんなにも文化的で成熟した国なのに……。

アンナさんと、そのパートナーであるリョウさん

「日本には素晴らしいものがたくさんありますが、時々、驚くほど世界の常識と離れていると感じるところがあります」

同性婚は、2001年のオランダを皮切りに、ヨーロッパ、北米、南米、オセアニア各国が続々と法制化されている。アンナさんの母国スペインでは2005年から、アジア諸国では唯一、台湾が2019年から合法化している。「多元主義」という共通の価値観を掲げるG7(先進7カ国)のうち、同性婚を認めていないのは日本だけだ。

少し前にも、荒井勝喜元首相秘書官による「同性婚を導入すると、社会が変わる。国を捨てる人、国にいたくないと言って反対する人は結構いる。隣に住んでいたら嫌だ。見るのも嫌だ」という発言が、世間を憤慨させたばかりだ。政治家がLGBTQへの直接的なヘイトを口にし、あらゆる法制化にとかく時間がかかるこの国で、同性婚が認められるようになるには、まだまだ時間がかかるだろう、というアンナさんとリョウさんの見解は一致していた。

2人は、夫婦になるためにスペインに渡ろうかとも考えた。しかし、日本で、日本の土を使って陶芸を作りたいアンナさんも、地元・大阪で会社を経営するリョウさんのどちらも、簡単には日本を離れることができない。リョウさんは怒りを露わにする。

「なぜ同性婚にこだわるの? 事実婚じゃダメなの? と聞かれると正直、腹が立ちますね。僕らは別に愛の証なんて感傷的な理由で結婚したがっているわけじゃないんですよ」

「片方が外国人」というだけでなぜ?

アンナさんは昨年3年ぶりに帰国。バルセロナでリョウさんを家族に紹介した

結婚によって得られるものは、異性愛者同士の場合、夫婦となる幸福感や社会的立場の変化に注目しがちだが、それはあくまでも個人的なもの。
婚姻制度の枠組みの外にいるということは、扶養控除や遺族年金受給の対象外になるなど金銭的不利益も大きい。つまり日本に住む者として当然の権利を享受できないということだ。

「それに、同性婚を認めるか否かという議論において、片方が外国人である僕らのようなケースは完全に置き去りにされていますよ」

日本では、日本人と外国人の異性カップルが結婚した場合、入管法で定められた「日本人の配偶者等」の在留資格を取得することができる。いわゆる配偶者ビザだ。通常申請から1〜3ヶ月で取得でき、日本在留の権利や就業・就学などの自由が手に入る。

対して、同性カップルは法律上の婚姻が認められていないため、配偶者ビザが発給されず、配偶者として在留資格を得ることができない。すなわち、日本からの出国を余儀なくされることになる。

子供がいるケースでは、事態はより深刻だ。日本人・外国人問わず、日本で同性カップルが子供を養育する場合、親権はカップルのうちどちらか1人だけに与えられる。仮に外国人の親がそれを持つことになれば、出生地主義をとらない日本では、子供は日本で生まれていても日本国籍を取得できない。
万が一、親権を持つ外国人の親が先に死亡したら、子供と、残された日本人パートナーには戸籍上つながりがないことになる。
このように外国人LGBTQカップルには日本人同士の同性婚にはない、複合的な問題が生じるのだ。

「なんとか2人一緒に日本に居つづけられないか」

アンナさんとリョウさんは、配偶者ビザ以外のビザを取得する方法を模索し、経営・管理ビザの存在にたどりついた。外国人が日本で会社を設立し、事業の経営や管理、または投資を行うなどして取得できる在留資格だ。
事業の安定性と継続性を立証する必要があり、商法や入管法など専門的な知識を要するため、個人で申請することは難しいと言われている。

2人は、外国人ビザ問題に詳しい司法書士や行政書士に相談した。リョウさんの既存の会社を合同会社化し、アンナさんは幸い経営者ビザを取得することができた。

「やらないかんことが山ほどあって、金銭的にも精神的にもしんどいです。男女やったら紙一枚(婚姻届)出すだけですよ」

日本政府の対応は「稼げないなら出て行け」

2人の場合、両親からの援助やクラウドファンディングによる応援を受け、なんとか合同会社設立にはこぎつけたが、来期の会社の業績が芳しくなければアンナさんのビザは更新されない可能性もある。一年経ったらまた次の一年と、毎年肝を冷やしながらビザの更新を迎えることになる。
今はとにかく目の前の売上を伸ばすことに必死だ。
日本政府の外国人への対応は端的にいうと「稼げないなら出て行け」ということだ。

これほど手を尽くしても、日本滞在が難しいとなったら、今度こそ2人は国を捨てざるを得ないだろう。
ヘテロカップル(異性間カップル)が婚姻届を提出するだけで配偶者ビザが下りると考えると、リョウさんが不公平だと言うのも無理はない。

現在、アンナさんは陶芸家として作品作り、ショップ運営、マーケット出店などに励むかたたわら、スペイン語・英語・日本語・カタルーニャ語を使った陶芸教室に加えて語学教室を運営している。
後日工房を訪れると、スペイン語と英語で、カタルーニャの伝統的なモザイクアート制作のワークショップを開催していた。生徒は外国語教育に興味のある日本人の母親3人とその子供たち。英語で受けられるアクティビティーは増えているが、スペイン語で陶芸のレッスンを受けられるとあって、評判を呼んでいる。

「来日当初は日本で陶芸がしたいという個人的な想いでしたが、今はこの工房が国籍、性別、年齢問わずいろいろな人が集まる場所になって、1人でも多くの人に自分だけの作品を作る喜びを感じてもらえたら幸せです」

生野区の古民家を改装して作ったアトリエの土間に、電気釜を設置

工房を生野区に構えたのは、ここがマイノリティーの方々にとって歴史がある場所だと知ったから。近所には50年近くここに住み続けている在日コリアンのおばあちゃんや、ニューカマーの10代のベトナム人留学生も暮らしている。

「自分はマイノリティーの中のマイノリティー」

日本と日本文化を愛し、日本人のパートナーがいるアンナさんを日本に居させない理由がどこにあるのだろう。
前述の荒井元秘書官を更迭した岸田文雄首相は、同性婚導入について「家族観や価値観、社会のあり方が変わる」と言った。
最新の共同通信による世論調査によると、同性婚に賛成する人は64%。今、求められている「家族のあり方」は果たして、現政権が定義しているようなものなのだろうか。
このままでは国を捨てざるを得ない人たちが少なくないだろう。
同性婚の議論が1日でも早く進むことを願う。

陶芸を通して、日本とカタルーニャの架け橋になりたいと願うアンナさん

取材・文/福田優美

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