――『プロハンター』から藤さんの出演作を拝見してきました。今日はインタビューさせていただけて大変光栄です。
そうですか、『プロハンター』というと、ずいぶん昔ですね。
――1981年のテレビドラマです。この度公開される主演映画『それいけ!ゲートボールさくら組』(2023)は、「人生には、遅すぎることなんてひとつもない」というメッセージが込められた、シニアの青春物語です。藤さんがこの映画で特に気に入っているのは、どんなところでしょうか?
明るいところですね。コロナ禍では、友人と気楽に会って、ご飯を食べたり騒いだりすることもなかなかできず、お互いに気遣って電話をするくらいで。そんなときにこの映画の話が来て、明るくていい話だなと思いました。
年を重ねてもあんなに社会と関わりが持てるなんて、ちょっと夢物語みたいでいいですよね。なんかうらやましいなと、台本をいただいたときに思いました。
――好きなシーンは?
(山口)果林さんが演じるサクラに告白のようなことをするシーンは、ほっこりしていいですよね。おばあちゃんとおじいちゃんですが、映画の作りとして、あのシーンがあることで、全体が生きてくるんです。
81歳で映画主演の藤竜也。「今でも役に入る前は怯えるし、怖がりながら準備をする。“1年生”感覚はずっと抜けないです」ジョン・ウェインに影響を受けた、仕事に対する好奇心の行方
集英社オンライン / 2023年5月11日 11時1分
5月12日公開の映画『それいけ!ゲートボールさくら組』で主演を務めた藤竜也。1960年代から現在までの長い役者人生について語ってもらった。
おもしろがれなくなったら、もうおしまい
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『それいけ!ゲートボールさくら組』
©2023「それいけ!ゲートボールさくら組」製作委員会
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――20代でデビューされて、アクション俳優として活動し、30代は任侠ものや『愛のコリーダ』(1976)で主演を務め、40代はダンディな俳優として人気を博し、近年は優しい祖父役も演じていらっしゃいます。ご自身のキャリアの変遷を振り返ると、どのような役者人生だったでしょうか?
それはもう、ありがたいという言葉に尽きます。20代から70代まで、それぞれなんとなく自然にというか、10年ごとに節目みたいなものがありましたね。いただける役も変わってきて。ただ、「同じような作品はやらないようにしよう」「この系統はもうやった」と、そんな風に考えながらやってきました。長く続けるためには、飽きちゃうといけないですから。
おもしろがって取り組めるものが一番ですね。役をいただいて、「どういう風にしたらいいんだろう」と考えるのがおもしろいんです。おもしろがれなくなったら、もうおしまいですよ。
ただ、今でも役に入る前は怯えたりしますね。自分にできるんだろうかって。怖がりながら準備するのは、昔からずっと変わりません。1年生感覚は、ずっと抜けないですね。
――この作品でもそうでしたか?
そうでしたね。いつも「やれる」と思うまでには、相当時間がかかります。この作品は今まで演じてきたのとはまたちょっと違うコメディだし、いかにもおじいちゃんっていう感じの人たちが出てきて、自分の役もそのひとりでしたから。
金太郎飴みたいに思われるのはおもしろくない
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――長く俳優の仕事を続けていらっしゃいますが、キャリアを積むと、自分ができることや得意なことをなぞってしまいがちです。経験したことがないことやおもしろいと思うことを追及する姿勢は、いつ頃から培われたのでしょうか?
ジョン・ウェインという俳優がいますよね。僕からすると、彼は圧倒的なアメリカを代表するスターです。「何をやってもジョン・ウェインだ」と、僕は思っていたんです。だからこそいいんだ、とね。
ところが、あるインタビューで、「私ほど、ひとつひとつの役をじっくりと考えて演じている俳優はいない」と語っていて、僕はビックリしたんです。どの作品でも「いつものジョン・ウェインだ」と安心して見ていたので。
作品ごとに役をとことん工夫して演じていたと知ったとき、だからあそこまで長く続けられたんだと思いました。
それからですね。慣れで同じような役を演じるのは嫌だと考えるようになったのは。金太郎飴みたいに、どこを切っても「あの俳優だ」と思われるのはおもしろくないですよね。
――出演作を選ぶ際にも、新しいことを意識していらっしゃるのでしょうか?
先ほど『プロハンター』をご覧になったとおっしゃっていただきましたが、当時は1作品につき26話、今の2クール分が当たり前だったんです。ある程度ヒットすると「次も同じような感じで行きましょう」という話になり、いくつかシリーズの話が来ましたが、僕はやらなかったんです。どんなに頼まれても、違うものをやりたいと思ったんですね。
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――当時から、作品選びの考え方は一貫していらしたのですね。
そうやって飽きないように、チビチビやってきたから、81歳になっても続けられているんだと思います。
仕事をするとね、時間が急に長く感じるんです。この映画も2週間くらいで撮影しましたが、「終わりの日までたどり着けるのだろうか」と思ってしまうぐらいでした。「終わったら誰と会おうかな。どこに行こうかな」なんて思いながら、クランクアップを待ち焦がれていました。
『愛のコリーダ』のときの話ですが、撮影当時、大島渚監督と何人かの俳優で京都の小さい宿で合宿したんですね。共同の居間にスケジュール表があって、「〇月〇日、シーン〇〇」と書いてあるんですが、1日が終わると監督がそれをひとつずつ消していくんです。ところがあるとき、助監督か誰かがそれを消しちゃってね。大島さんが烈火のごとく怒って、「俺のたったひとつの楽しみを奪ったヤツは誰だ!」って(笑)。
「いつ終わるんだろう」と不安になるエンドレスのような撮影の日々を、ササッと何事もなくこなしていくよりも、1歩1歩、1日1日、1シーン1シーンを積み重ねていくほうがいい。「うまくいった、あと少しで終わる」という喜びを感じながらスタッフや共演者とセッションできるのが、この仕事の醍醐味なんじゃないかなと思います。
それでいいシーンが撮れたら、機嫌がよくなって、浮かれた気持ちになるときもありますよ。宿に帰って、ビールが1本増えたりね。
まだ引退するほど、仕事に飽きていない
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――プライベートのお話もお聞きしたいのですが、地域の仲間と親しくしている『それいけ!ゲートボールさくら組』の桃次郎さんのように、藤さんご自身もご近所付き合いをされていらっしゃるんですよね。
そうなんです。だけど、近所の人たちが集まっている店が、やっぱりコロナの事情もあって閉まっちゃいましてね。行き場がなくなってしまったんです。みんな僕が俳優の仕事をしていることを知っているし、年寄りだからと色々気遣ってくれたりもして……。以前はバーベキューをやったり、しょっちゅう集まっていたのに、ちょっとさみしいですね。
――早く集まれるといいですね。藤さんは、ご自宅でお料理もされるそうですね。
はい、毎日買い物して料理をします。
――スーパーで騒がれませんか!?
もう半世紀も住んでいるところのスーパーだから、全く騒がれません(笑)。でも、今日はもう料理はしないで、インタビューが終わったら崎陽軒のシウマイ弁当を買って帰ろうと思っています。
――シウマイの数、減っちゃいましたよね……。
えっ、そうなの!? いやぁ、スーパーに行っても、値段は前と同じでも、鮭の切り身が薄くなってたりするからねぇ。
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©2023「それいけ!ゲートボールさくら組」製作委員会
――『それいけ!ゲートボールさくら組』でのユニフォーム姿も、筋肉質でおじいさん感があまりなく、すごく素敵だなと思って見ていました。
錯覚ですよ(笑)。
――最近も鍛えていらっしゃるんですよね?
まあ、公園を散歩したり、階段をちょっと無理して上がったり降りたり、ベンチで腕立て伏せをしたり、鉄棒にぶら下がってみたり、その程度のことをできる範囲でやっているくらいです。ある程度、トレーニングしておかないとケガしちゃいますから。やっぱり、ちゃんと仕事に向き合える体でいないと。運動は昔からやっていたのでね。一応、アクション俳優もやっていましたから。
――これからも、藤さんの出演作をたくさん拝見できるのが楽しみです。
この映画のほかに、あと2本、すでに撮影が済んだ映画があります。また、だいぶ違う傾向の作品ですよ。まだ引退するほど、飽きていないですからね。体力が持つように健康でいないと。丈夫なほうが勝ちですよね。
――もし機会がありましたら、またテレビドラマにもご出演していただけたらうれしいです。
テレビは昔ずいぶんやったから、どうでしょうねぇ。でも、また機会があって、おもしろそうなら出演しますよ。
取材・文/清水久美子 撮影/石田壮一
藤竜也 ふじ・たつや
1941年8月27日生まれ、神奈川県出身。『愛のコリーダ』(1976)で報知映画賞最優秀主演男優賞、『村の写真集』(2003)で上海国際映画祭最優秀主演男優賞、『龍三と七人の子分たち』(2015)で東スポ映画大賞主演男優賞を受賞。そのほか、主な出演作に『愛の亡霊』(1978)、『アカルイミライ』(2002)、『台風家族』(2019)などがある。100 本以上の映画に出演し、1960年代から現在まで第一線で活躍し続けている。
『それいけ!ゲートボールさくら組』(2023) 上映時間:1時間48分/日本
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76歳の織田桃次郎(藤竜也)は、学生時代に青春を謳歌したラグビー部のマネージャーだった木下サクラ(山口果林)と再会し、彼女が経営するデイサービス“桜ハウス”が倒産の危機と知る。桃次郎は桜ハウスの知名度を上げるために元ラグビー部の仲間を集結させ、ゲートボール大会での優勝を目指すことに。
5月12日(金)全国ロードショー
配給:東京テアトル
公式サイト:https://gateball-movie.jp/
©2023「それいけ!ゲートボールさくら組」製作委員会
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