新車価格60万円→中古750万円! カワサキZ1、ホンダNSR、ヤマハRZ…旧車バイクが超高騰する背景「もはや美術品を買うような感じになっている」
集英社オンライン / 2023年4月24日 19時1分
近年、国産のクラシックカーが高値で取り引きされているが、コロナ禍以降、価格高騰の波は古いオートバイ市場にも波及している。コロナ禍前の2倍の値をつけるバイクがあったり、発売当時の10倍以上の価格で販売されているモデルも。オートバイの「旧車高騰」はどこまで続くのだろうか。前編では、業者に高騰の背景を聞く。
「新車60万円→中古750万円以上」に高騰
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1986〜1999年に販売されたホンダNSR250R。世界GP(現MotoGP)の「ロスマンズ・ホンダ」のカラーリングを再現したレーサーレプリカが当時大人気に
「1988年、1989年製のホンダのNSR250Rは発売当時60万円ほどで、2000年代前半にはボロボロのものは20~30万円で売られていました。
うちはそのNSRをフルレストアして5~6年前には150万円くらいで販売していました。それでも高いと言われましたが、今は仕入れるバイクの値段がどんどん上がり、売値は300万円弱まで上がっています。
先日、750万円以上の値で売っているNSRの登録済未使用車があって驚きましたね」
こう語るのは、埼玉県で3店舗のオートバイショップを展開する「MotoUP(モトアップ)」岩槻本店・店長の渡部晋さんだ。
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「MotoUP」岩槻本店・店長の渡部晋さん(右)とメカニックの田邉宣人さん
NSRはホンダが1986〜1999年に販売した2ストロークバイクで、レース仕様のマシンをベースに公道で走れるように改良した「レーサーレプリカ」だ。ここ5~6年で約2倍、10年スパンでは5〜6倍に価格が高騰しているという。
同店でメカニックを務める田邉宣人さんは、今値上がりしているバイクを次々と挙げる。
「ホンダNSR、ヤマハTZR、スズキRGガンマなど1980〜1990年代前半に人気を集めたレーサーレプリカだけでなく、各メーカーの旧車の価格が上がっていますね。
1969年、国内で初めてナナハン(750cc)の大排気量のエンジンを搭載したホンダのドリームCB750フォアを代表とするCB系、1980年代にレーサーレプリカブームの火付け役となったヤマハのRZシリーズ。
それから40年以上もつくられた単気筒のロードバイクのヤマハSRや、Z1(1972年発売)とZ2(1973年発売)をはじめ国内外で高い人気を誇るカワサキのZ系、スズキ初の4ストロークエンジンを搭載したGSシリーズ、日本刀をモチーフとしたデザインで人気を集めたカタナ系が代表的です」
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1980〜1990年代前半に巻き起こったレーサーレプリカブームを牽引したスズキRGガンマ
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1992年に登場したホンダCB400スーパーフォア
高騰に火をつけたコロナ禍
バイクショップに話を聞いてみると、旧車が値上がりした要因のひとつがコロナ禍だと証言する。
東京都内で2店舗を運営する「BIG FUN(ビッグ・ファン)」高円寺店の河田祥さんはこう話す。
「ブームのきっかけはコロナだと感じます。家にいる時間が増え、その息抜きとしてアウトドアが人気になり、オートバイにも注目が集まりました。
あと最近はYouTubeの影響も大きいですね。芸能人やYouTuberがバイクに関する動画をたくさんアップして、その人気もブームを後押ししています」
前出の渡部さんも同様に語る。
「コロナ禍でバイクでも乗ってみようかという人が増えました。うちの店は筑波サーキット(茨城)で走行会をしていますが、サーキットの走行ライセンスの取得率が前年比で200%になったと聞きました。
若い頃にバイクに乗っていた40〜50代のリターンライダーだけでなく、若者や女性も増えています」
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旧車ブームの背景を語る渡部さん
コロナ禍でオートバイが注目され、免許取得者が増えたのは事実だろう。だが、なぜ古いバイクの価格が上がるのか。
実は車同様、半導体不足などの影響で新車を購入しづらい状況が続いており、旧車人気を後押ししている側面があるのだ。渡部さんは言う。
「新車をオーダーしたらいつ入ってくるのかわからない状態になっています。予約さえ受け付けてくれない車種がけっこうあります。
今のバイクはメイド・イン・ジャパンじゃありません。タイ、インドネシナ、インドなどいろんな国で部品がつくられていますが、コロナ後の需要の急拡大やロシアのウクライナ進攻の影響でコンテナの奪い合いになっているんです」
古いバイクは「唯一無二で個性がある」
バイク系YouTuberのねこかずさんは指摘する。
「新車が買えないので中古のバイクを調べていたら、古いバイクの魅力にハマってしまったという人も多いです。それも旧車高騰の要因のひとつだと思います」
ねこかずさんは、約5年前からバイク関連の動画をYouTubeにアップし、チャンネル登録者数16.5万人(2023年4月20日現在)。若者からリターンライダーまで幅広い年齢層から支持を集めるねこかずさんは、旧車の魅力をこう語る。
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バイク系ユーチューバーのねこかずさん
「現代のバイクは燃費がよく安全性が高いものばかりですが、エンジンやフレームを流用して、コストダウンしているのが見えています。
一方、かつてのバイクはスタイリングが唯一無二で個性があり、バイクにストーリーがあります。例えば、1980年代に一世を風靡したヤマハRZは、排気ガス規制の厳しい日本では二度と販売されないと思いますが、“ナナハンキラー”と呼ばれていました。
当時、国内で販売される二輪の最大排気量はナナハンでしたが、250ccのヤマハRZがナナハンよりも速かった。そういう伝説やエピソードを聞くと、萌えますよね(笑)。
また、1980年代はレーサーレプリカがブームでしたが、日本が豊かで本当にお金をかけてマシン開発をすることができました。
アルミフレームを贅沢に一個一個つくっていますし、エンジンやブレーキなどもレースで培った最先端の技術を全部突っ込めという意気込みで、市販モデルも予算を気にせずに開発していました。
レースに勝つために本気でマシンをつくるぞというメーカーの熱い意志が伝わってきていたんです。そういうところに、今の若い人も魅かれているんだと思います」
性能に関しても、各メーカーが資金をかけて開発した1980〜1990年代のバイクは現代のマシンに負けていないと、渡部さんが語っている。
「当時のレーサーレプリカは各メーカーが開発競争を繰り広げ、毎年のようにモデルチェンジをしています。そんなことは今では考えられません。
カウル(風防外装パーツ)がついているバイクに関しては、今のモデルと遜色ないどころか、当時のほうが性能も上です。そこも旧車が人気になっている理由でしょう」
コロナ禍の需要拡大、物資不足による新車の生産遅延に加え、自動車と同様に“投機マネー”の流入も旧車の価格を高騰させる大きな要因になっているようだ。
前出のメカニック、田邉さんは言う。
「最近、高額の古いバイクを購入する方はバイク乗りというよりも、コレクターが多いという印象です。
購入いただいた高いバイクを持っていったら、ガレージに大量の古いバイクやクルマが並んでいたというケースもありました。もはや骨董品や美術品を買うような感じになっています」
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人気の旧車について解説する田邉さん
旧車の人気車種は高騰し、もはやバイク好きが簡単には手を出せないような価格になっている。「それでも買う価値はある」とねこかずさんは語っている。
「例えば、カワサキのカウルのないネイキッドタイプのバリオス(1991年発売)やゼファー(1989年発売)などは、10年前には5〜10万円で購入できました。そうすると原チャリを買うような感覚で気軽に乗ることができました。
ですが最近はバリオスが50万円以上、ゼファーは100万円をはるかに超える価格になっています。若者が購入するのはなかなか難しいと思いますが、旧車の人気車種はリセールバリューが高いんです。
1980年代前半に発売されたホンダのCBX400F(新車価格約50万円)を300万で購入したとします。それを何年か乗った後にでも、おそらくそのまま300万円で売れるでしょう。購入価格よりも高く売れる場合もあると思います」
後編では、カワサキZ1やホンダCBX1000Fなどプレミア価格がついている旧車を所有している男性とバイク業者に、クラシックバイクの魅力や購入時の注意点などを聞く。
取材・文/川原田 剛
撮影/村上庄吾、五十嵐和博
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