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【漫画あり】「俺にとって一番難しいのが感動を描くことで、本当はアホなことを描くのが好きなんだけどね」。2年も続かないと思っていた『静かなるドン』が24年も続く人気漫画になった理由

集英社オンライン / 2023年5月17日 8時1分

“下着メーカーの平社員”と“関東最大の暴力団・新鮮組の総長”というふたつの顔を持つ近藤静也が、様々な問題を解決していく姿を描いた不朽の名作『静かなるドン』。2013年に「漫画サンデー」(実業之日本社)で24年にわたる長期連載を終えた同作が、10年の時を経て「グランドジャンプ」(集英社)で再始動する。新作『静かなるドン もうひとつの最終章』に込めた思いを、作者の新田たつお氏に聞いた。(前後編の後編)※本記事では『静かなるドン』の内容に触れています。未読の方はご注意ください。

『静かなるドン』が長期連載になったきっかけ

――1988年に『静かなるドン』を描き始めたころは、ここまで長期連載になるとは思っていなかったそうですね。



うん、2年も続かないと思ってた(笑)。

――それが変わってきたタイミングはありますか?

やっぱり秋野(明美)との恋愛が絡んできてからじゃないですかね。だから、子供のおかげなんですよ。うちは娘ふたりだから、お父さんがバカな漫画を描いてると思われたくなかった(笑)。
そのおかげか、いまも意外と子供に尊敬されてるところあるんですよ。ゴールデンウィークなんかも、娘が友達を3人連れて家に遊びに来ましたから。たぶん、『静かなるドン』の作者に会ってみたいってことだと思うんですけど。

仕事場にて24年間連載した『静かなるドン』を振り返る新田先生

――そういった若い女性の支持も電子版の影響なんでしょうか。

そうね。うちの娘よりももっと若い20代の女性にも読まれてるから。それは龍宝みたいなイケメンが出てくるからかなとも思う。線が1本違うとどうにもおかしな顔になっちゃうからイケメンは嫌いなんですけどね。まあ、新作は龍宝の出番も多いだろうから、女性ファンにも喜んでもらえるんじゃないかと思います。

実は、龍宝って途中で死ぬ予定だったんですよ。

ヤクザもので全員命が助かるなんておかしいということもあって、ここらでひとつ誰かに死んでもらおうと。でも、龍宝が死ぬと女性ファンが怒るかもしれないということで、代わりになったのが新鮮組の客分だった斎藤始。でも、死んでからやっぱりもったいなかったなと思っていてね。あれは、自分でもいい男に描けたなと思います。
生倉会の戦闘隊長だった小林(秋奈)もだけど、死なさんでおけばよかったなって思うキャラクターは多いですね。

女性読者から人気の高い龍宝国光 ©新田たつお/実業之日本社

――なぜ、いま『静かなるドン』が時代を超えて愛されていると思いますか?

それは作者にもわからない。でも、スティーブ・ジョブズが偉かったということかな(笑)。
昔は漫画をスマホで読むなんて思ってなかったからね。俺にはあの小さい画面では無理だけど、若い人には合ってたんでしょう。寝転がって読めるし、買いに行く手間はないし、それでいて長く楽しみたいってことで、そのニーズに『静かなるドン』がぴったりだったんですよね。

自分で言うのもなんだけど、『静かなるドン』にはすべての要素があるんですよ。ギャグあり、笑いあり、恋愛ドラマあり、バイオレンスも入れて、これで売れなかったらどうするんだっていうくらい一緒くたにいろんなものを入れた。あれがよかったね。俺にとって一番難しいのが感動なんですけど、それも入れたから。

本当はアホなことを描くのが好きなんだけどね。1970年代後半に描いた『怪人アッカーマン』みたいに、下世話で最低なクズ人間を描くのすごい好きなんだよ。

出版社をまたにかける一大プロジェクト

――そこは『静かなるドン』でも、新鮮組ナンバー3の生倉新八のキャラに活かされていますよね。

そうそう。人間の本能を丸出しでね。人間、本来はそういうもんで、それを体裁で繕っているだけだから。その人間臭さが漫画の全体にも出ているのかもしれないな。いまの若い人は頭がいいから、きれいごとを描くとすぐ見抜かれちゃうもんね。

――『静かなるドン』はもともと実業之日本社の「週刊漫画サンデー」で連載されていた作品です。新作は集英社の「グランドジャンプ」に掲載されるということで、版元が変わって続編が始まるのは稀有な例だと思いました。

そうなんだよ。そんなのありえんのかよって思った。俺としてはどっちでもいいんだけど、よく大手の集英社がそれを許したなって(笑)。

作中では下世話で最低なクズ人間として重要な役割を担っている生倉新八©新田たつお/実業之日本社

――完全移籍ではなく、集英社と実業之日本社の共同プロジェクトという形だそうです。

まあ手塚治虫の『火の鳥』なんかも、あちこちの出版社で描いてるからね。版権は作者にあるわけだから、出版社を通さずに自分で電子をやってもいいわけ。でも、そこで人間関係がごちゃごちゃするのはイヤだし、俺としては出版社のひとりの編集とやるのがわかりやすくていいんです。

ただ、「ドンやったらどこでもやれる」とは思ってました。実業之日本社で最後の担当編集だった森川(和彦)さんからも、「原作だけでもいいから」とよく言われてたんだけど、描こうにも実業之日本社にはもう雑誌がなかったんだよね。

長期連載にわたったため数々の表彰を受けてきた

大手は偉いもんで紙の雑誌を出し続けてるけど、紙はもう売れなくなってる。いまはみんな読みたい本しか読みたくないから、雑誌にお金を使わないんですよ。でも、そうなると多様性がなくなるじゃないですか。みんなが面白い漫画だけしか読まなくなれば、漫画は衰退していきますよ。

あと、俺なんかはアナログ人間だから、雑誌がないと描けないんです。デジタルで描くと絵が妙につるんとして。プロが見たら完全にわかるからね、そういうのって。みんな同じ絵になっちゃうでしょう。

映像化への唯一の注文は「原作を超えてくれ」

――『静かなるドン』の電子書籍化は1999年と割と早い段階でしたが、当時は抵抗なかったのでしょうか?

それは一切ないですね。自分が排泄したもんですから、それをどう処理してもらってもまったく気にしないというか。完成したものが雑誌に載ってるんだから、漫画の原画展というのはよくわかりません。

――ファンとしては新田先生の原画展を見てみたい気持ちもあります。

(仕事場の棚を指さして)その辺に全部積まれてますよ(笑)。ただ俺の原画はボロボロですからね。横着なもんで、一枚のページを切り分けてアシスタントに渡したりしてた。それをテープで貼って戻したりしてね。テープも黄色くなってるし、ポロポロと写植(漫画に貼られている文字)も落ちて、目も当てられなくなってますよ。

現在も漫画の執筆はアナログで制作している

――『静かなるドン』はこれまで何度も実写化されていますが、それについても、自由にやってくれというスタンスなのでしょうか?

そうだね。唯一、注文するとしたら「原作を超えてくれ」ってことだけ。テレビでも映画でも、携わってくれた方が損をしてしまうのが一番イヤだったので、原作を超えるくらい面白いものを作ってくださいというだけですね。

©2023「静かなるドン」製作委員会

――伊藤健太郎さんが静也役を務める新作映画(全4話)が5月12日から公開されましたが、これまで静也を演じた俳優で、特に思い出に残っている方はいますか?

香川照之さんが対談をしにここ(仕事場)にきたことがあったな。家の前に赤いアルファロメオが停まってて、約束の時間の前から遅刻しちゃいかんと待ってるわけですよ。謙虚さがあったんですけどね(笑)。

マフィアやヤクザ作品の最終回を超える最終回を…

――2016年には中国でも『静かなるドン』がドラマ化されると報じられました。

中国版は、完成して向こうの配信サイトで公開されましたよ。40話くらいまで作って、まとめて配信したみたいです。お金も豪快にくれて、中国人はお金があるんだぁと思いましたよ(笑)。

――最後に新作『静かなるドン もうひとつの最終章』で描きたいテーマを教えてください。

やっぱり一番でかいのは『赦し』だね。最終巻(108巻)で、「いつか神の赦しを得たなら、また再び巡り合って……」ということを秋野が心のセリフで言っているんです。だから、静也はいま神の赦しを得るために活動してるんだろうなと思っていて。

静也って、けっこう人を殺めてるじゃないですか。普通は、ああいうのがハッピーエンドを迎えるってあり得ないんですよ。実際、最終章でもハッピーエンドにはしなかったし、俺が一番好きな映画の『ゴッド・ファーザーⅢ』だって、最後は自分の娘を殺されたアル・パチーノがボロボロの人生になって死んでいく。マフィアやヤクザものは、だいたいああいう感じなんです。

そういう意味では、静也がハッピーエンドを迎えるためにはヤクザを辞める必要があるかもしれない。まだ、これからどうなっていくかわからないけれど、新作ではそうした『赦し』をテーマに描いていけたらと思っています。

『静かなるドン』伝説の第1話を読む(すべての漫画を読むをクリック)

取材・文/森野広明 撮影/松田嵩範

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