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古今東西の賢人たちはハゲの悩みに何と答えてきたのか?

集英社オンライン / 2022年5月10日 15時0分

今日も誰かが悩んでいる。そして自分も悩んでいる。古今東西、たくさんの悩みにたくさんの賢人がアドバイスを贈ってきた。大量の人生相談本をめくりつつ、同じ悩みに対するさまざまな回答をピックアップしてみよう。今回のテーマは「ハゲ」。本人にとっては深刻で切実な訴えに対して、いかなる対処法が示されてきたのか。

ビートたけしの回答は

人間の値打ちは、毛髪の量とは関係ありません。男性としての魅力もしかり。それは誰もがわかっています。しかし、とくに若い男性の場合は、毛髪が減っていくことをハゲしく恐れるのが常。「気にしなくていいよ」という無難な慰めは、毛の先ほどの説得力も持ちません。賢人たちのありがたいアドバイスを聞いてみましょう。

最初に登場する賢人は、その独特の視点がピカリと光るタレントのビートたけしさん。薄毛に悩む26歳の青年が「このままでは30歳ぐらいで激しくハゲてしまいます。育毛や植毛をするお金もありません。カツラも嫌です。どうしたらいいでしょうか?」と救いを求めます。たけしさんの回答は、非常に?シンプルでした。

〈坊さんになれ! 以上(笑) 出家しなさい。出家しといて、儲かるから、ある程度、金儲けできたら遊び出しなさい。京都の坊さんなんかカツラだらけだからね。(中略)あるいは、「7:3」の入れ墨したらどうだ。きれいに「7:3」に分けた入れ墨。「浅草のアトム」がそうだから。1回入れれば、一生、床屋に行かなくて済むんだから。〉
※初出:ビートたけし責任編集ネットマガジン「お笑いKGB」。引用:ビートたけし著『たけしの人生相談 悩むの勝手~伊集院さんに聞けなかった話』(徳間書店、2019年刊)

さすが「毒舌」で名を馳せたビートたけしさん、悩みをきちんと受け止める気はまったくなさそうです。ただ、仮にたけしさんが心に響くアドバイスを授けたところで、この青年の毛量が画期的に増えることはありません。そもそも、たけしさんに相談している時点で、有益なアドバイスはたぶん求めてはいませんよね。そういう意味では、相談側のニーズにきちんと応えた誠実な回答と言えるでしょう。

「エロいことを考えると毛が抜ける」??

女性の意見も聞いてみたいところ。タレントの光浦靖子さんが、育毛剤のイベントで自分の頭頂部が薄くなっていることに気づいて絶望している31歳男性の悩みに答えています。「もう女性から相手にされないのでしょうか」という訴えに、光浦さんはこう答えます。

〈友達が言ってました。「エロいことを考えると毛が抜ける」と。アナタのように、女のことばかり考えているエロスな人間は、毛が抜けて当然ですよ。(中略)アナタの手紙をもらった後、友人とハゲについて話しました。友人は「何だかんだ言っても見た目だしね~。ハゲかあ……。男に全く縁のない超ブサイクな女を狙うんだねッ」と言ってました。その友人は『ハイスクール! 奇面組』の一堂零に顔がそっくりで、アダ名が「奇面」という女です。どうです? 女ってヤでしょ? 女が嫌いになるでしょう?〉
※初出:雑誌「TV Bros.」(東京ニュース通信社)の連載「脈あり?脈なし?傷なめクラブ」。引用:光浦靖子著『傷なめクラブ』(幻冬舎、2009年刊)

実際に「エロいことを考えると毛が抜ける」かどうか、真偽は定かではありません。光浦さんは、一堂零に似た女友達のコメントを紹介することで、相談者をさらに絶望のどん底に突き落とします。しかし、突き落としっぱなしではありません。「あなたが女嫌いになった時、必然的にエロいことを考えなくなった時、抜け毛がくい止められますよ」と希望らしきものを与えています。……うーん、光浦さんも悩みを解消してあげる気はないかも。

女性たちが「ステキ!」

脳科学者の茂木健一郎さんなら、画期的な解決策を示してくれるはず。脳と髪の毛は近所だから、きっと造詣も深いことでしょう。「僕はハゲています。若ハゲです。コンプレックスで自分自身つぶされそうになります」と悲痛な叫びをあげる32歳男性。「僕はどのようにハゲをとらえていけばよいでしょうか」という相談に対して、茂木先生は女性を笑わせることができる人はモテると説きつつ、「『若ハゲ』は、実はチャンス!」と断言します。

〈すべての笑いの中で、もっとも価値があるのは、自分の欠点、ダメなところを乗り越える笑いです。(中略)若ハゲになってしまったこと自体は、残念かもしれませんが、メタ認知(自分を外から見ているかのように客観的に観察する脳の働き)の階段を上がって、自分の劣等感を見つめ、笑いを通して生きるエネルギーに変えるチャンスであるとも言えます。最初は難しいかもしれませんが、少しずつ、チャレンジしてみてください。必ず、女性たちが「ステキ!」と目を輝かせるような、魅力的な人になると思いますよ!〉
※初出:月刊誌「第三文明」(第三文明社)の連載「茂木健一郎の人生問答――大樹のように」。引用:茂木健一郎著『脳科学者茂木健一郎の人生相談』(第三文明社、2014年刊)

そんなに念入りに「ダメ」とか「残念」と言わなくてもいい気はしますが、救いを与えてくれる回答ではあります。茂木さんはカツラの人を例に、どう劣等感を乗り越えればいいかを指南。夏の暑い日に、待ち合わせた喫茶店に入ってきたとたん、さっとカツラを外して「暑い日には、カツラはつらいねえ」と言いつつ、おしぼりで頭を気持ちよさそうにふく――。「こんな人がいたら、私たちは、この人は乗り越えている、さすがだ、と思うんじゃないでしょうか?」と言います。思うでしょうけど、実行するのは容易ではありません。

人間がいまひとつアテにならないときは、動物に頼ってみましょう。「最近、髪が薄くなってきました。まだハゲと呼ばれたくありません」という37歳男性の悩みに希望の光を与えてくれるのは、「赤ハゲ珍獣」とも呼ばれているハゲウアカリ。南アメリカ北西部に棲息する小型のサルです。ハゲでブレイクした“成功例”をあげて、代弁者がハゲましの言葉を贈ります。

〈薄毛・尻顔・赤ら顔という三重苦を抱えるのは猿界広しといえどもわれわれだけでしょう。でも驚くなかれ、メスに人気があるのはより赤ら顔のオス。これは血色の良さの表れで、「健康そう!」と、強い子孫を残したいメスにモテまくるわけです。毛が薄いほど顔の面積も大きくなるので、ハゲも大切なモテ要素。(中略)最近はその強烈なビジュアルから人間界でも人気急上昇中です。何の特徴もないフツーな顔より、薄毛でも個性があったほうが印象に残りますし、思わぬきっかけでチャームポイントに転じることも。〉
※引用:小林百合子・文、今泉忠明・監修『いきもの人生相談室 動物たちに学ぶ47の生き方哲学』(山と渓谷社、2018年刊)

「『ハゲ=カッコ悪い』という先入観を捨て、ひとつ個性が増えたと思って前向きに捉えてみては?」とも。たしかにそのとおりです。本人が否定的に捉えている限り、ハゲてしまうことは悲劇ですが、言ってみれば毛がなくなるだけのこと。命が脅かされるわけではありません。「ハゲウアカリの世界ではハゲているほうがエライ」と念入りに自分に言い聞かせれば、ハゲをプラスの個性として捉えることができるでしょう。たぶん。

何人かが言ってくれているように、ハゲたらモテなくなるわけではないし、毛があればモテるわけでもありません。ハゲること以上に怖いのは、ハゲに強いコンプレックスを抱いて卑屈になったり暗くなったりすることです。そして、ハゲをバカにしたくなる誘惑にも、男女を問わず十分に警戒したほうがいいでしょう。天は「ハゲ」という存在を通して、すべての人間に大切なことを教えてくれているのかもしれませんね。

(イラスト、マンガ/ザビエル山田)

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