1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 芸能
  4. 芸能総合

山本圭壱に「おい、ブタ!」リスナーとの新たな関係性を築いた極楽とんぼ“伝説のラジオ番組”の革新性

集英社オンライン / 2023年4月25日 17時1分

TBSラジオ『JUNK』(月~金曜・深夜1:00~3:00)が20周年を迎えたのを機に、番組の統括プロデューサー・宮嵜守史(みやざき・もりふみ)さんがラジオ人生を振り返るエッセイ本『ラジオじゃないと届かない』(ポプラ社)を刊行した。宮嵜氏がかつて番組を担当していたお笑いコンビ・極楽とんぼとのやりとりを一部を抜粋、再編集してお届けする。

「間違ってもいいんだよって言った覚えがある」(加藤)

TBSラジオ『JUNK』の宮嵜統括プロデューサー(左)と極楽とんぼのふたり(右)


極楽とんぼのラジオは、今思えば革新的だった。リスナーとの新しい関係性を築いた。パーソナリティをいじるノリができた。パーソナリティに金品をたかるノリもできた。極楽とんぼのお2人は、真剣に物事に取り組むことやゲストとのヒリヒリする時間をエンターテインメントに変えた。この「吠え魂」には、けんか芸と呼ばれる極楽とんぼの真骨頂が詰まっていた。

宮嵜 僕がディレクターとして初めて担当した生放送の深夜番組が『極楽とんぼの吠え魂』なんです。
加藤 あれ、初めてか? そんな感じしなかったけどな。
宮嵜 26歳の時です。最初に『吠え魂』で学んだのはCMのことなんです。『JUNK』は1時台に5回CMを入れなきゃいけないというルールがあるんですが、僕は初めてだったので、まったくわからなくて。おふたりにトークバックで「CMに行ってください」って言っても、一向にCMに行ってくれなかったんです。もうこれ以上続けたらパンクするというところで、僕が話の途中で強引にジングルを打って、CMに行ってしまったと。そのとき、加藤さんは色つきのメガネをされていたんですが、CM中にずっと僕のほうを見ていて。
山本 にらんでたんだ。プレッシャーをかけてたんだね。
宮嵜 放送が終わったあと、「ホントにすみません」って謝って、事情を説明したら、加藤さんが「いや、そんなもんはお前がおもしろいと思ったところでぶった切ってもらっていいんだよ」って言ってくださったんです。
加藤 俺、覚えてるよ。はっきり覚えてる。
宮嵜 「それで、リスナーはCMが明けてもまた聴こうっていう気持ちになってくれるんだから、お前がおもしろいと思ったところで行けよ」って言ってくださって。
加藤 いいこと言うねえ(笑)。
宮嵜 それが今でも糧になっているんです。僕はディレクターであると同時に、最初のリスナーでもあるので、「あっ、おもしろい」と思ったところでCMに行ければ、結果リスナーも笑顔のままCMに行き、その続きをさらに聴きたくなるはずだと思って他の番組もやってきました。
加藤 「間違ってもいいんだよ」って言った覚えがある。間違ったとしても、残り何秒かで俺たちが「なんでCMに行くんだよ!」って言うからって。そうしたらCMが明けたあとにまた話ができるでしょって言った覚えがあるんだよね。
宮嵜 僕の中でホントに衝撃でした。実はそういう文化って、深夜に限らずTBSラジオにはあんまりなかったんです。パーソナリティからディレクターに逆キューをすることはあっても。

メール投稿でできたリスナーとの新たな関係

宮嵜 『吠え魂』を放送しているころにちょうどEメールが出てきたんですよね。ハガキやFAXじゃなく、Eメールで投稿できるようになりました。
加藤 ちょうど変わり目だったよね。
宮嵜 その変わり目で、『吠え魂』はパーソナリティとリスナーの新しい関係を作れたと思うんですよ。番組では武闘派リスナーって言いましたけど、それまでのリスナーとの関係性って、深夜ではパーソナリティが兄貴的なところがありました。そこで即座にリアクションが来るEメールができてから、『吠え魂』では“山本さんvs加藤さん&リスナー”という構図が生まれて、リスナーから「おい、ブタ」「おい、山本」と言ってくる関係性ができたなって思うんです。今でも「おい、○○」みたいな形はありますし、新しい文化を作ったんだなって。
加藤 あれって突発的にできたものだよね。俺も覚えてるんだよ。俺が何かの件で「お前やれよ」みたいなことを山本に言ったんだよね。そうしたら、山本が「リスナーなんて嫌いなんだよ」って言い出したんだよ。だから、「おいおい、ちょっと待てよ」と。このラジオ聴いてるリスナーは本当に武闘派なんだよ。ラジオの中で武闘派が集まっている番組なんだから、お前えらいことになるぞ」みたいに言ったんだよね。
山本 加藤が煽ったから。
加藤 それで武闘派リスナーになりすまして、みんながおもしろいメールを送ってくれるようになったんだよね。
宮嵜 きっとリアルでは根暗なキャラなのかもしれないけど。
山本 俺がお休みしてから戻ってきたとき、宮崎県でやったラジオの一発目に、武闘派リスナーからの「おい、山本」が多すぎて困ったんだよね。
宮嵜 Eメールだと気軽だし、お金もかからないし、手間も省けるし、ラジオに大きなものをもたらしたなって感じました。

ラジオは最も“人”が出るメディア

加藤 今のラジオって自由度がなくなってるの?
宮嵜 あのころと比べたらなくなりましたね。radikoのタイムフリーもSNSも便利ですけど、誰でも切り取ってSNSに上げられるので、「実際に聴いてない」「深夜だから」という言い訳はもう一切できないですし。そのぶん、守りに入る人は守りに入るし、あんまり変わってないのはおぎやはぎぐらいだと思います。
加藤 まあ、それはしょうがないよ。できないことも多いだろうし。
宮嵜 今はradikoのアプリがあるから、スマホの中にラジオが1台あるのと変わらないじゃないですか。だけどスマホの中にはNetflixもあるし、YouTubeもあるし、音声アプリもあって、強敵がメチャクチャいる。普通に考えたらラジオは選ばれないんじゃないかって思ったりするんですけど、ラジオを選ぶ人は一定数いますよね。なぜみんなラジオを選んで聴いているんだと思いますか?
加藤 自由度が高い分、ラジオってその人が出るよね。映像のあるテレビがあとから生まれて、凝った企画をどんどん進めていったから、反対にラジオが衰退したわけでしょ。でも、そのテレビがある程度マックスの所までやるべきことをやっている状態になって、「テレビってこういうもんだ」というのをテレビ側で決めちゃってるから、逆にラジオに戻ってきていると思う。結局、時代は回るから、今度はテレビがどうなっていくのか気になるね。ラジオもスポンサーがいなくて、もうダメだって時代もあったから。ラジオは緩い中でもずっと演者に「覚悟させる」ことをやっていってほしい。テレビではみんな保険を打つから。
山本 今はコミュニティFMとか、ものすごくいっぱいラジオ局があるじゃない? 聴こうと思えば、商店街のちょっと話上手のオジサンが2時間喋っている番組まで聴けちゃう。キー局でやっている番組も含めて、そのときの肌感覚だったり、状況だったりも伝わってくるから、皆さんに寄り添えるものになりつつあるのかなと思うんだよ。知らないオジサンのラジオを50人でも100人でも200人でもずっと聴いている方は聴いているんで、みんな欲しがっているのかなって感じる。
宮嵜 加藤さんも山本さんも言うように、ラジオはホントに素が出るし、人柄や人間性みたいなところが出ちゃうものだと僕も思います。人柄が垣間見えるメディアって他にあんまりないなって。
加藤 ないね。テレビだと今はリスクヘッジもちゃんとできてるから。まあ、ラジオもできているんだろうけど、でも絶対こぼれるよね。
宮嵜 「あ、こいつあんまりいいヤツじゃないな」みたいなところすらわかっちゃうというか。そういう“人(ニン)”が出るメディアだと思うから、そこが今となっては強みになってるのかなって感じますね。おふたりはまさに人で勝負している感じがします。『吠え魂』のころを思い返しても、今でもそうですけど。今日はお会いして、あらためて素っ裸で闘っていらっしゃるのはカッコいいと思いました。
加藤 俺らは他に武器がないからね(笑)。



文/宮嵜守史 写真/shutterstock

ラジオじゃないと届かない

宮嵜 守史 (原著)

2023/3/22

¥1,760

単行本(ソフトカバー) ‏ : ‎ 384ページ

ISBN:

978-4591174838

【内容紹介】
日常の中に無限にある「楽しみ」の中で、ラジオにしかできないことってなんだろう? TBSラジオ「JUNK」統括プロデューサーのラジオに捧げた25年が詰まった初の書き下ろしエッセイ。ラジオとの出会いから、プロデューサーになるまでのエピソード、人気パーソナリティたちの魅力まで。極楽とんぼ、おぎやはぎ、バナナマン、ハライチ、アルコ&ピース、パンサー向井慧、ヒコロヒーとの読み応え抜群のロング対談も収録。

【本文より抜粋】
世の中から見たらこぢんまりとした業界だけど、聴く人の心をしっかり掴むメディアだ。他ジャンルとの優劣を比較するのではなく、ラジオ独自の個性がどこかにある。ラジオだったからできたこと、ラジオじゃなければ伝わらなかったことが、きっとあるはずだ。

この『ラジオじゃないと届かない』では、エッセイと対談を通してラジオやパーソナリティ自身の魅力を伝えたい。僕がラジオの仕事をしてきた中で得た経験から、ラジオの良さを少しでも伝えられたらと思っています。(「ラジオってなんなんだ?」より)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください