特撮映画におけるカタルシスは、自分たちの良く知る街や世界的に有名なランドマークが巨大生物に難なく壊されてしまうありえなさにあります。よほどのことがない限り、半永久的にそこにある建造物であるからこそ、破壊される架空の物語を楽しめるわけで、これが本当になくなってしまうことは考えられない。しかしながら、ジャン=ジャック・アノー監督の『ノートルダム 炎の大聖堂』は2019年4月15日、794年の歴史を持つこの大聖堂がまさに火災に遭うという、信じがたい出来事を詳細なリサーチを得て、劇映画となりました。
未だ火災の直接の原因を司法は調査中として明かしていませんが、この映画では、この日からスタートしていた修復工事の作業員たちに禁煙が厳守されていなかったこと、スプリンクラーなど消火機能が古く、役に立たなかったこと、当日、警備員が初日出勤だったこと、他にも様々な要素が重なり合って、被害が広がったと考えられています。
アノー監督は過去に『薔薇の名前』、『セブン・イヤーズ・イン・チベット』と、宗教と人を題材にした作品を作っていますが、今回は数々の困難に直面しながら、ノートルダム大聖堂と、所蔵していた歴史的な宝物を、死傷者を一人も出さず、救出に尽力した消防士たちの「あの日、何があったのか」を詳細にひも解いて描いています。本物のそっくりのセットを作り、実際に火を使って撮影したといいますが、今作で描きたかったことをお聞きしました。