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【開店から3日間は55円】金沢カレーの火付け役「ゴーゴーカレー」はなぜ5月5日に創業したのか? いわくつきの地下物件に大行列ができた理由「やっぱり本気で汗をかくと人の心に届く」

集英社オンライン / 2023年5月5日 10時1分

今や国内外に約80店舗以上を展開している金沢カレーの人気店「ゴーゴーカレー」。巨人やニューヨーク・ヤンキースで活躍した松井秀喜選手のホームランに感動して脱サラしてわずか1年でコゴーゴーカレーを創業した宮森宏和さんの著書『カレーは世界を元気にします~金沢発!ゴーゴーカレー大躍進の秘密』(光文社)より、2005年5月創業当時のエピソードをお届けする。

5月5日に5人組で新宿に1号店を出店

創業時のスタッフ、通称「ゴーゴーメンバー」はぼくを含めた5人で、学生時代や添乗員時代の仲間が中心でした。2004年5月5日のオープンが刻一刻と迫ってきて、全員、寝る間がほとんどないくらいテンテコ舞いになりました。

創業時の新宿1号店の入口(現在は閉店)。たった8坪の狭い物件からの創業だった


「あれがない!」「これはどうした?」とやらなきゃいけないことが次から次へと出てくるのです。店を出すのはもちろん初めての経験なので、すべてが手探り。計画もなにもあったものではありません。

いちばん困ったのが、店の内装や設備でした。物件を決めたはいいものの、店を出すには造作を整えなければなりません。しかし業者さんは最初、「この日数では絶対にできない」と言って工事を請けてくれませんでした。物件を決めたのが遅かったことに加えて、テナントが入ったビルなので、日中はほかの店舗の業務に支障をきたすという理由で、夜中しか工事ができなかったのです。

しかし、それではオープンできないので、「じゃあ自分たちでやります!」と告げると、業者さんには資材だけ運び込んでもらいました。

そして、「ゴーゴーメンバー」だけじゃ人手が足りないと、金沢から友人の中村正臣さんにも来てもらい、床材にドリルで穴開けをしたり基準線出しをしたり、プロがやる仕事を自分たちは一晩でやりきったのです。普通ならあきらめるようなことでもぼくは、「できるか? できないか?」ではなく、「やるか? やらないか?」とだけ考えるのです。

「ゴーゴーメンバー」には、金沢の繁華街・片町の飲み屋でボーイをしていた中山弘季さんがいて、その彼がたまたま大工をやっていた経験があり、「そういうことなら、オレができますよ」とみんなを引っ張ってくれて、ネックとなっていた床を作っていく工事を全員で黙々と仕上げました。我ながら、いい仲間に声をかけたものだと思いました。

営業時間後に店内でカレールーの仕込みがスタート。キッチン内で、初代店長の中山弘季さん(右)と宮森さんの2人

この無理を実現させた素人集団のがんばりを見た工事業者さんが翌日、「この人たちは本気だ……」と思ったのか、これ以降の仕事も請けてくれました。

いわくつきの地下物件にできた奇跡の大行列

内装や設備と並んで懸案となっていたのが、「地下なんだから、ちゃんと告知しないとお客さんは来ない」という問題。これについても店を決めたときからずっと考えていました。
地上では朝から晩まで大勢の人たちが切れ目なく行き来していますが、物件が地下であれば視認性はゼロ。東京に下見に来たときには人混みの光景に圧倒され、これだけ人がいたら繁盛しないはずがないと思っていたのですが……。

地下の店舗に降りていく地上部分。地下というハンデを「街宣」とポスティングで克服したオープン時には大行列ができた

そこでチラシを大量につくり、それを手にみんなで街頭に出て「ゴーゴーカレーでーす!」「5月5日オープンでーす!」と、元・大工がつくったプラカードを掲げて声を張り上げながら配りました。

街頭のチラシ配り以外に、近隣のマンションやビルをしらみつぶしのように回ってポスティングも行ないました、その合間に誰かが必要なものを揃えるために買い物に行く。このように、学園祭の準備とほとんど変わらないドタバタのまま、5月5日のオープンを迎えたのです。

5月5日のオープン日。ぼくたち「ゴーゴーメンバー」は、いきなり失態を犯してしまいます。目が覚めたら、もう10時過ぎ。前日まで不眠不休で準備に追われ、なんとかオープンできるメドが立ったので、気持ちが緩んでいたのでしょう。いきなりの大寝坊です。

「やべえ! 早く行かなきゃ!」

店の近く、青梅街道近辺に借りた2DKを寮のようにしていて、一緒に雑魚寝していた仲間たちを叩き起こし、甲州街道沿いの店にダッシュすると、そこには信じられない光景が広がっていました。店があるビルの地上に、なんと大行列ができているのです。

「これ、ウチの行列なのか……」

半信半疑で階段を降りようとすると、行列はゴーゴーの店に続いていました。開店早々、大行列をつくったのです。

「うおー、これはやるしかない!」

なにがなにやらわからないうちに、記念すべきオープン初日は過ぎていきました。「なにをやってもうまくいかない」と言われていた、いわくつきの物件に大行列ができたのには理由があります。街角で配りまくりポスティングもしたチラシに、「開店から3日間は55円!」と大々的にうたっていたからです。

連日の大繁盛で〝いらっしゃいませ恐怖症〟に

この55円キャンペーンと「街宣」(街頭に立って宣伝することです)のアイデアは、「立地の悪さをなんとかしなければ」という危機感の中でひらめきました。ありきたりのことをしたところで、忙しい東京の人たちはたぶん来てくれない。そこから店の名前にちなんだ、カレー一皿55円という大胆なアイデアが浮かんだわけです。

「ゴーゴーカレー」の目印ともいえるゴリラの看板(写真は現在は閉店している小川町スタジアム店)

オープン日がひとまず無事に終わって迎えた3日目。創業メンバーの1人で中高時代の同級生だった友人が、営業中にいつの間にか出て行ったっきり戻って来ないので、みんなで心配していました。そして雑魚寝していた〝合宿所〟に帰ると、全員の荷物が散乱していた2DKが少し広く感じられる。

「あれ? あいつの荷物がないぞ!」
「バックレやがった!」

無理もありません。それだけハードな毎日を過ごしていたのです。残された4人は言葉もなく立ち尽くしました。

55円キャンペーンを打った3日間、店には大行列ができ、その後も行列は続きました。というのも、3日間の55円キャンペーンだけでは終わらせず、5月いっぱい500円キャンペーンを行なったからです。これが噂になったこともあり、開店から閉店まで、途切れることのない行列となりました。

しかし慣れとは怖いもの。5月下旬あたりになると行列が当たり前という感覚になり、しまいには恐ろしくなってきました。営業時間が終わったら夜中に毎晩ひたすらカレールーをつくらなければいけないので、寝る時間がないからです。

「あー、またお客さんが来たわ……。今日も全然休めんわ……」

〝いらっしゃいませ恐怖症〟とでも言うのでしょうか、次から次へと店に入ってくるお客さんを見るのが怖くなってしまったのです。

3日間の55円、さらには5月中は500円という大胆なキャンペーンが当たり、連日、行列ができる人気店となりました。「最近見かける、あの行列はなんだ?」と行列を見た人がまた行列に並ぶので、客足がまったく途切れない。

「あー、今夜も眠れない……」

スタッフ全員が、立ちながら寝てしまうような状態でした。幻覚が見えて、カレールーと間違えて油をかけそうになったり、営業後にラーメンを食べながら寝てしまい丼の熱いスープに顔を付けてしまって「あちー!」とヤケドしたり……。

「東京って一筋縄じゃいかんね」

そんな状況の中、6月になってキャンペーンが終わると、それまでが噓のようにパタリと客足が止まったのです。それは予期しない出来事でした。キャンペーン中、毎日のように並んでくれたお客さんはたくさんいました。すごく仲良くなっていた人もいたのですが、みんな6月1日を境にピタッと顔を出してくれない。

「東京の人ってこんな冷たいんか……」と人間不信に陥りそうでした。

現在は国内外に約80店舗以上を展開している(写真は秋葉原中央通り店)

広告塔の役目を果たしていた行列がなくなったこともあって、忘れていた地下のハンデをあらためて痛感することになりました。「あー、信じられんわ……」とスタッフ全員でボヤいていました。

「あんなに仲良く話しもしてた人ら、どこ行ったんやろ」
「違う店でランチ食べとるんかな」
「東京って一筋縄じゃいかんね」

「もう大丈夫やろ」という気持ちがわずかとはいえあったことは認めなければいけません。
すぐに客足が止まってしまったことで、現実を突きつけられ、素直に自分の考えが甘かったことを反省しました。いわくつきの地下物件の店に大行列ができたのは、街宣やポスティングをなりふりかまわずやったから。

「よっしゃ! また街宣やっぞー!」

ぼくらは気合いを入れ直して、再び自分たちでポスティングと、朝昼晩の街宣を始めました。目立つようにプラカードやのぼりを持って、誰にも負けない大声を張り上げます。これが本気度をアピールする最大の力になります。そうすると人が集まってきて、メディアにも注目されるようになっていきました。

「いま、噂のゴーゴーカレーです!」
「クセになる味、ゴリラのゴーゴーカレーです!」

やっぱり本気で汗をかくと人の心に届くようです。新しい常連さんがじわじわと増えてきて、少しずつ客足が戻りました。こうして店内は、再び活気に包まれたのです。初心に返って「本気」がキーワードであると目覚めさせてくれた、6月最初の出来事でした。

『カレーは世界を元気にします~金沢発! ゴーゴーカレー大躍進の秘密』(光文社)

宮森宏和

2023年4月19日

1760円

‎224ページ

ISBN:

978-4334953720

世界にフランチャイズを広げるゴーゴーカレーの創業者が綴る、叩き上げのビジネス論とハートフルな生きざま。
29歳の添乗員時代に、松井選手のホームランに感動し脱サラし裸一貫で上京。
金沢カレーブームをつくり、M&Aを推進、カレーの専門商社として躍進してきた山あり谷ありな激動の20年。
そこから生み出された、「パーフェクトポジティブ」で真摯な挑戦の記録と、にじみ出る人間味が、55項目の見出しに詰まっています。

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