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〈衆院山口4区〉70年続いた「岸・安倍王国」で安倍政治総括ドキュメンタリーが上映!『妖怪の孫』内山監督が見た”妖怪の選挙区”のリアル

集英社オンライン / 2023年4月26日 16時1分

3月に公開されたドキュメンタリー映画「妖怪の孫」。“安倍政治の本質”を徹底検証する内容から、いまだ上映を躊躇する劇場も少なくないが、そんな中、4月中旬に安倍元首相の選挙区のど真ん中、下関市(山口四区)で全国初の自主上映会が行われた。衆院補選まっただ中のこの時期に現地入りした内山雄人監督が「妖怪の選挙区」と、緊迫の上映会の様子をレポートする。(前後編の後編編)

上映会直前には脅迫電話も

3月に公開された安倍元総理をテーマにしたドキュメンタリー「妖怪の孫」。“安倍政治の本質”を徹底検証する内容から、いまだ上映を躊躇する劇場も少なくないが、そんな中、4月中旬に安倍元首相の選挙区のど真ん中、下関市(山口四区)で全国初の自主上映会が行われた。



時期は、まさに衆院補選のまっただ中。こんな時期に利権渦巻く安倍元首相の本拠地で上映会を開いて本当に大丈夫なのか? 案の定、上映会直前に主催者チームには怖い電凸が来ていたようで……


「これ見て。電話が来たわよ。」

数日前、主催者問い合わせに来た電凸のメモを、受付にいた主催者チームの田辺さんが見せてくれた。震える手で書いたために読みにくいが、
「映画(について) 男(からの電話)。 お前、下関でこんな映画上映していいんか? 恥ずかしくないんか? お前人間やないのー」とある。

生々しい脅迫電話のメモ

相手は50~60代の男性。かなりの脅し口調だったようで、田辺さんはホール横の下関警察署に飛び込み、実情を伝えたのだが、他にもホールや映画センターへ苦情電話が数件あったという。やはりここは安倍元首相の本拠地なのだ。

しばらくして開場開始。やっと来たお客様も、一人二人程度で「まぁこんなものか…」と感じ始めた上演30分前。寸断なく人の波が訪れ、受付が追いつかなくなり、みるみる内に長蛇の列になっていった。

助監と二人で、建物外に怪しげな輩がいないかカメラ持参で巡回したが、幸い何もなく、その後は客席誘導員に徹した。

気づけば上映開始の時間。始まっても駆け込みのお客様が次々と表れ、ついに完全な満席。驚きの事態にスタッフ一同、「最高のスタートだね」と手に手をとって喜んだ。遅れて来るお客様がまだまだ続いたので、諦めて明日来てもらう案内を掲げた。

この写真をはりつけてツイッターで呟いたら、コメント欄がバシバシ動いた。人生で初めて「バズる」という体験をした

アンケートには厳しい言葉も。でもこれが民主主義

上映終了後、自然発生的に拍手が沸いた。私自身は映画鑑賞終了後、拍手をしたことがない。なのに、本作では拍手が多いと聞く。舞台袖で聞く拍手は格別で、涙がでそうになる。舞台挨拶では「安倍さんが亡くなる前から始動していた本作がいかなる苦難の果てに上映に漕ぎ着けたか」が決まりの話。

会場は満員の上、熱気もすごかった

この時、お客様は私を注視してくれているが、実はこちらが、お客様の「本作への関心度」を掴むのに最高の瞬間だ。もっと聞きたい、もっと知りたい…という視線や表情が突きつけられる。東京・吉祥寺での上映会もすごかったが、この夜の回は、それを超える最高の熱量だった。「待ってました」とばかりに、好奇心と嬉しさにあふれた表情、そして時に深いうなずきをまじえて聞いてくれる。監督冥利に尽きる瞬間だ…とつくづく思う。

翌日の上映も大盛況だった。年齢層は大半が50~60代から上の先輩たち。20~30代の主婦グループや若い姉妹、サラリーマンではなさそうな男性も少なくない。ただ大学生は殆ど見かけなかった。

舞台挨拶後に、お客様を出口で見送っていると、握手と共に「面白かった」「よかった」と興奮を伝えてくれる方や「危険はなかったのかい?」と心配してくれる方が大勢いた。
「こんな映画で安倍さんのことをきっちり明かして欲しかった。多くの人に伝えて欲しい」「早く次回作を作ってください」とアンケートにもしっかり興奮を伝えてくれている。

アンケートを熱心に書いてくれたお客様

一方で、舞台挨拶の前にそそくさと消える方、憮然とした態度で舞台挨拶する私を蔑視する方、あえてなのか深いため息を私に聞かせる方…も当然いた。厳しい言葉が並んだアンケートもあったが、これぞ本来あるべきカタチだ。違う意見をぶつけあって落とし所を探る…これぞ民主主義。だが、本来は“分断の反対側”にあるべきこうしたものに綻びが見え、様々な間違いが蔓延っているのがこの10年の日本ではないだろうか。

厳しい言葉が並ぶが、これも民主主義だ

結局、『妖怪の孫』の上映会は主催者チームの予測合計500人を遥かに超える大盛況ぶりだった。だが、人数以上に「映画を見て胸のすく思いがした」「心に重くのし掛かっていた蓋がとれた」」といった様子が、お客様の観覧後の言葉から見て取れた。

映画は娯楽でしかない。それでも人の心を動かすモノなら、娯楽を超えた力になるかもしれない。

「統一教会問題を一切、語らないのはなぜですか?」

二日目となる4月20日の夕方。上映時間の合間に自民党・吉田候補の演説会に向かった。公民館は警察や警備が車の誘導に駆り出されるほどで、観客は150名はいるだろうか。入口で金属探知機や荷物検査を受けたが、意外にも動画撮影を許されたので助監はつぶさに記録し始めた。

本作でも紹介した安倍元首相の弟分、元下関市長の江島参議院議員と共に、茂木幹事長の応援演説が始まった。話題のバッグ型折りたたみ盾を持つ、いかついSPが左右に控えている。会場全体が自民党スタッフのピリピリした緊張感に溢れ、応援に来ているのも温かい市民ではなく、“お仕事”できている人たち…のように感じたのは、あまりに穿った見方だろうか。

続いて「主人の…」で始まる、安倍昭恵さん涙を流さんばかりの演説で空気の重さがさらに増した。

演説で「圧倒的勝利」を強調する安部昭恵さん。

主役の吉田候補はといえば「地元の声援の温かさ話」だけで、政策話はゼロ。そんな中、突然、観衆のひとりが大声で「統一教会についてあなたは!」と発して、スタッフに制せられる一幕も。だが、それに対しても吉田候補は「私は今、あえて統一教会の話はここではしません」と訳のわからない返答をするだけ。

自民党・吉田候補。気持ちのよいくらい政策話はなし

だが、統一教会にまったく触れないあたりに、関係の根深さが透けて見える。彼はむしろ嘘をつけないタイプと感じた。その後、出口で握手のお見送り。ここは『妖怪の孫』のチラシを吉田候補に突きつける絶好のチャンスだ。

「『妖怪の孫』という安倍元総理の映画を今、下関で上映していまして…」
と私が言うと、突然、吉田候補の表情が険しくなり、さっとチラシを裏にして、私の手を払いのけた。

「統一教会問題について、一切語らないのはなぜですか?」
と、さらにたたみかけると、次の瞬間、自民党スタッフが無理やり私を押し除け、列の端に追いやられた。この決定的瞬間を当然、カメラが撮っているはずだ…と助監督をみると、首を振って絶望の表情。

その前からマークされていた彼は、カメラを構えた瞬間から払いのけられ、Recボタンを押すこともできなかった…なんたる無念。市民の疑問や意見を全く受け付けないこの空気…まぁ、こちらは下関市民ではないですけど。

「ゼロ打ち」と「過渡期」

ともあれ、無事に大盛況だった下関特別上映会。そして有田候補と吉田候補の一騎打ちに何かが起きそうな予感と期待を勝手に抱いていた。

そして3日後。

4月23日、20時ちょうどの開票速報。NHKはたった15分だけの速報番組を放送。スタートとともに結果が出たのは、山口4区だった。自民党・吉田候補と立憲民主党・有田氏の一騎打ちは、いわゆるゼロ打ちで吉田候補の勝利だった。「なんとかゼロ打ちは阻止したい」と話していた有田氏には、厳しい結果となった。

続いて(ネットで見ていたテレビ西日本の開票速報では)8時10分過ぎには山口2区の岸田信千世候補の当確が出た。中継では万歳唱和で「衆議院議員、岸田信夫当選!」といまだ身内にも名前を間違えられるご愛嬌ぶり。こうしてついに“妖怪の孫の甥”も議員となった。

その後、山口4区で敗れた有田氏の敗戦の弁が届いた。
「全くへこたれていない。私の街宣車の周りには常に熱狂が続いていた。みなさんの熱い期待と元気をもらえたから、これほど楽しく、愉快な選挙ができた」

山口4区の確定投票率は34.71%で、2年前の衆議院選挙を13.93ポイント下回る、過去最低の数字となった。おそらくこれは、林派が離脱した線が濃厚だろう。

得票数は吉田候補が5万1961票。目標としていた“圧倒的勝利”の8万票を大きく下回った。一方、有田候補は2万5595票。予想よりも健闘したが、前回 2年前 安倍元首相の80448票に対し、れいわ新選組の竹村克司氏が19096票だったので微増といったところか。

だが、有田氏は敗戦の弁でこうも話していた。

「1953年から70年続いた岸・安倍という風土が溶けつつある。今回は声援ももらえた。ポスターも貼ってくれた。これまでとは全く違った風景が見えた。今が過渡期だ」

過渡期であることを信じたい。

取材・文/内山雄人

「妖怪の孫」絶賛上映中!

「パンケーキを毒見する」の内山雄人監督が“日本の真の影”に切り込むドキュメンタリー。昭和の妖怪と呼ばれた政治家・岸信介の孫であり、連続在任日数2822日を誇るも凶弾に倒れた元総理大臣・安倍晋三。彼の政治を総括し、日本の姿、その根本にあるものを紐解く。企画は「かぞくのくに」「新聞記者」「i 新聞記者ドキュメント」など数々の問題作を生み出してきたスターサンズの河村光庸

https://youkai-mago.com/

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