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<神宮外苑再開発>「環境破壊」以外にもデメリットが山積。東京都が10年以上ひた隠しにしてきた再開発計画の「下準備」

集英社オンライン / 2023年4月28日 17時1分

今年3月から本格的に開始された神宮外苑の再開発。反対の民意を完全無視し、環境にもスポーツ界のレガシーにも無配慮なこの計画は、もはや東京五輪を利用した「巨大な利権問題」ともいえるのではないか。

神宮外苑再開発は単なる「環境問題」ではない

市民の反対の声や専門家の提言を徹底的に無視したまま、ついに今年3月に東京都は神宮外苑再開発を本格的に開始。3千本を超える樹木伐採が現実になろうとしている。

工事開始を受け、4月1日に約260名の市民がヒューマンチェーン(人間鎖)による抗議活動を実施。建国記念文庫の森(ラグビー場移転によって樹木が全滅する見通しのエリア)を囲み、改めて市民の反対の意思が示された。

4月1日に市民が実施したヒューマンチェーン(人間鎖)による抗議活動


*現地参加した筆者の360度カメラ映像は以下のYoutubeで視聴可

奇しくも翌2日、音楽家の坂本龍一氏の逝去が公表。同氏は今年2月に神宮外苑再開発に反対の意思を示して小池百合子都知事へ手紙を送っていたため、この問題が改めて注目を浴びるきっかけにもなった。

しかし、この問題を樹木伐採や景観破壊による「環境問題」と捉えている方がまだ多いのではないだろうか?

また、有名企業(三井不動産、伊藤忠商事等)が事業者に名を連ねているのだから、誠実に情報公開した上で計画が進められたと信じているのではないだろうか?

残念ながら、答えはいずれもNoである。なぜなら、神宮外苑再開発は野球ファン(プロ野球、六大学野球)やラグビーファン、スポーツ愛好者(ゴルフ、フットサル、野球)にとってもデメリットしかなく、もはや「環境問題」の枠を超えているからだ。

また、東京都および事業者は、東京五輪招致と密接に関係して遅くとも10年前(2013年)から水面下で準備(規制緩和、契約等)を進めていたにも関わらず、その間は徹底して情報を隠し続け、抗議活動の活発化を遅らせた。

本記事では上記の問題点を中心に神宮外苑再開発の実態をお伝えしたい。

*さらに詳しい全体像は筆者のtheLetter「樹木伐採だけでなく、野球・ラグビーの文化も破壊する神宮外苑再開発の全体像」(2023年4月6日)参照

懸念される神宮球場の「ビル風」「騒音」問題

まず、今回の再開発で神宮外苑がどのように変化するのか。再開発前後の図面を左右に並べたのが以下スライドだ。

*丸数字は再開発による被害8点。本記事ではスポーツ(野球、ラグビー等)に関係する部分のみ抜粋して紹介

最も大きな変化は、競技場の入れ替え。神宮野球場は現在の秩父宮ラグビー場の位置へ移転(⑥)。その秩父宮ラグビー場は現在の神宮第二球場および建国記念文庫の森(神宮第二球場の右上に位置する三角形のエリア)の位置へ移転する(⑦)。

さらに、実はこの図面では伏せられている移転もある。絵画館前の芝生広場(図面右上のU字のエリア)にある軟式野球場は廃止され、現在は3ヶ所に分散しているテニスコートがまとめて移転する(⑧)

この点について東京都は「別事業である」等を理由に軟式野球場廃止(テニスコート移転)および樹木伐採は図面やイメージ図に反映していない。もともと神宮外苑は3つの区(新宿区、港区、渋谷区)にまたがっており、事業や許可申請が分かれていることを東京都および事業者は悪用していると言える。

また、イメージ図からは被害の深刻さがさらに具体的に見えてくる。

まず神宮野球場の周囲に高層ビル群(事務所棟 190m、複合棟A 185m、複合棟B 80m)が乱立。(④)これによって神宮野球場は高層ビルによる日陰とビル風が常態化し、試合に悪影響を及ぼす可能性が高い。(⑥)。

さらに神宮野球場移転による被害は近隣の住環境にも及ぶ。イチョウ並木の先に位置する都営住宅に対する神宮野球場の騒音レベルは、実は現在も環境基準を超えている。それにもかかわらず、双方の距離が現在の160mから80mに半減するため、騒音問題の悪化は確実視されている。神宮野球場の声出し応援を制限したり、改善しなければ住民による提訴の可能性もあり得る(⑥)。

そもそも神宮野球場は1926年から東京六大学野球のリーグ戦に使用され、1934年にはベーブ・ルースを含む大リーグ選抜の来日試合など歴史的な試合も数多く開催。この日米野球での大敗が後の大日本野球クラブ(現在の読売ジャイアンツ)の結成に繋がり、まさに日本のプロ野球誕生にも関わっている。神宮野球場を安易に建て替え・移転することは、約100年の歴史を誇る歴史的文化財の喪失を意味するのではないか。

*神宮野球場の歴史的価値の詳細は、同球場に特化したオンライン署名の説明文参照

秩父宮が「ラグビーの聖地」でなくなる

試合や観戦の環境が悪化するのは、秩父宮ラグビー場も同様だ。東京五輪が開催された新国立競技場の左下に位置する建物イメージを見れば分かる通り、新しいラグビー場は屋根付きに変わる。この屋根は開閉しないため、天候を味方につけるラグビーの醍醐味も喪失するだろう(⑦)。

ほかにも以下の理由で試合・観戦の環境が悪化する。

・天然芝から人工芝に変更されるため選手の怪我リスクが増大する 。
・ライブ、バスケ、アイスショーも可能な多目的施設になるため「ラグビーの聖地・秩父宮」としての価値が喪失する。
・収容人数が4割減(2万5千人→1万5千人)でチケット入手がさらに困難になる。

*秩父宮ラグビー場の価値の詳細は、元日本代表 平尾剛氏が同ラグビー場に特化して立ち上げたオンライン署名の説明文参照

また、その東に位置するU字型の絵画館前の芝生広場には、あたかも軟式野球場も樹木も現在と同様に残るように描かれているが、これは先ほど説明したのと同様の理由(別事業を理由にテニスコート移転は未反映)で実態とは異なる(⑧)。

ちなみに、移転してまで残る神宮外苑テニスクラブは、料金が高額(入会金は66万円〜、月会費は1万5千円〜)なため利用者は限られる。その一方、公益性の高い他施設(軟式野球場、ゴルフ練習場、フットサルコート、バッティングセンター等)は全て廃止。これはSDGsの目標である「不平等の根絶」にも反しており、今回の再開発が一部の事業者や富裕層の利益を最優先していると言われても仕方がない状況だ。

4月9日、都庁前の抗議デモに集まった市民

神宮野球場のさらに2年前(1924年)に完成した甲子園球場は、改修工事のみで今後も継続使用の方針で、神宮野球場及び秩父宮ラグビー場(1947年完成)も適切なメンテナンスを行えば今後も維持することは可能なはずで、現に神宮野球場は2014年~2016年に耐震補強・リニューアル工事を行なったばかりだ。また、明治神宮テニスクラブは、インドアテニスコートの改修工事を2015年に実施したばかりと、これらの施設はそもそも移転・建て替えの必要はないのではないか。

神宮外苑再開発も巨大な「東京五輪問題」ひとつ

一般市民は誰も得しない奇妙な再開発計画を理解するには、約10年間にわたる水面下の動きを時系列で知る必要がある。

本来、「風致地区」(良好な自然景観を維持するための厳しい基準が定められた区域)に指定された神宮外苑の建物の高さ制限は15mだったが、東京都は2013年(東京五輪招致決定と同年)に国立競技場建設を口実に高さ制限を一気に75mへ緩和

さらに容積移転(別の建物に容積を移転して高さ制限をさらに緩和させる手法)を駆使して、一気に190mの高層ビルの建設も可能にした。五輪招致(特に新国立競技場建設)と密接に関係しながら、遅くとも2013年から神宮外苑再開発は水面化で進んでいた。

くわえて東京都は並行して以下の規制緩和も実施している。

・五輪招致直後の2013年12月に都は「公園まちづくり制度」(未供用の状態が続く都市計画公園は、公園指定を解除して事業者による再開発を可能にする制度)を創設。「秩父宮ラグビー場は敷地が塀で囲われており、自由に通り抜けができない」という信じがたい理由で「未供用」と判断して2021年7月に同制度を適用し、公園指定を解除。

・都から要請を受けた新宿区が2020年2月に建国記念文庫の森および神宮第二球場の風致地区を規制が最も厳しい「A地域」や「B地域」から「S丙地域」に変更(格下げ)。しかも、新宿区はこの変更を丸3年間も隠し続け、2023年2月の区議会で初めて発覚。

一連の入念な下準備(新国立競技場建設を口実にした高さ制限緩和、公園まちづくり制度による指定解除、風致地区の変更、等)で高層ビル建設を含む大規模再開発を可能にした後、東京都は2021年12月に再開発計画の詳細を発表。計画の実態がようやく明らかになったことで2022年以降は抗議活動が活発化したが、すでに工事開始まで約1年を切っていたこともあり、残念ながら工事を止めるには至らなかった。少なくとも約10年に及ぶ水面下の動きに加えて、情報をギリギリまで隠す工作が功を奏してしまったと言える。

再開発を止めるには

坂本龍一氏の手紙を無視した都政(小池百合子都知事)と同様、残念ながら国政も神宮外苑再開発反対の声を無視する姿勢を貫いている。

*4月5日の衆議院文科委員会でこの問題の見直しを問われた永岡桂子文部科学相は「見直しを求める考えはない」「都が主体的に判断すべき」等の答弁に終始

こうした状況を打開するためにも、本記事でこの問題に関心を持った場合、まずはオンライン署名への参加をご検討頂きたい。

*主な署名だけで以下5つがあり、4月19日時点でのべ約26万人が賛同

神宮外苑1000本の樹木を切らないで-再開発計画は見直しを
東京都市計画審議会-神宮外苑の樹木1000本の伐採に強く反対します
野球の聖地-伝統ある-緑の神宮球場を守ろう
秩父宮ラグビー場をこの地で継承したい-ラグビーの聖地-の移転-改悪を止めよう
100年前の先人の思いを-坂本龍一さんの遺志を-未来に繋ぎ-外苑の景観と樹木たちを守るために神宮外苑を-日本の名勝-に指定してください


また、学生団体Amamoは自然環境の経済的価値を算出して東京都や事業者との交渉に活用することを目指しており、神宮外苑の環境価値は284億円を上回るという調査結果を4月26日の記者会見で発表。従来とは異なるアプローチとして注目を集めている。

*会見のノーカット映像(説明資料の投影あり)は以下のYoutubeで視聴可

問題の全体像をさらに詳しく知りたい場合は筆者のtheLetter「樹木伐採だけでなく、野球・ラグビーの文化も破壊する神宮外苑再開発の全体像」(2023年4月6日)を参照ください。本記事では割愛した被害全8点、東京都の進め方の問題10点を詳細に説明しています。


文/犬飼淳

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