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「懲役中に、中澤さんのカレーが食べたいと思っていました…」 のべ120人以上の不良の更生を手助けした伝説の保護司・中澤さん、名物「更生カレー」の物語

集英社オンライン / 2023年4月29日 11時1分

20年間保護司として活動し、これまでに120人以上もの不良の更生を手助けした中澤さん。道を踏み外してしまった多くの青年達に彼女がふるまってきたカレーは「更生カレー」と呼ばれている。人と人とを繋ぐ一皿のカレーの物語。

これまでに120人以上もの不良の更生を手助けしたという伝説の保護司が東京都江東区にいる。20年間、保護司として奮闘し続けた中澤照子さん(81)だ。

保護司とは犯罪や非行をした人の立ち直りを支える非常勤の国家公務員だが、給与は支給されない、いわば民間のボランティア。

かつて保護司の定年は75歳だったが、中澤さんは2年間延長して77歳まで務め、4年前に定年を迎えた。



誰よりも不良少年たちに信頼された保護司がふるまう、1皿のカレーは「更生カレー」と呼ばれ、今も愛され続けている。

更生カレー

東京・地下鉄有楽町線の辰巳駅から地上に出ると、古くからの団地がズラリと並んでいる。

約50年前、東京湾の埋立地に作られた総戸数3300戸の辰巳団地だ。都内でも有数のマンモス団地はどこかノスタルジックな気持ちにさせる一方で、辰巳桜橋を渡った先には団地の群れに対面するように東雲の高層タワーマンション群がそびえ立っている。

中澤照子さんが店主を務めるカフェLALALAは、辰巳駅から徒歩1分。お店を訪れると「はじめまして」ととても優しい笑顔で中澤さんが出迎えてくれた。

中澤さん

この日はかつて中澤さんが担当した「対象者」の人達もお店に遊びに来ていた。彼らに中澤さんについて尋ねてみる。

「中澤さんのことは小学生の頃から知っていましたよ。中澤さんが住んでる団地は小学校の目の前というか隣ですから。小学校の低学年の時は、知らないおばさんがやっほーとか、おはようと声をかけてくるので、不思議な大人だなと思っていました」

自営業の男性Aさん(29)

そう語るのは自営業の男性Aさん(29)。Aさんは少年時代に共同危険行為と傷害を行い、保護観察処分中に中澤さんが保護司を担当した。

その後も付き合いは続き、かれこれ15年以上が経つという。

「小6とか中1の頃には、周りの先輩が中澤さんのお世話(担当)になっていましたから、中澤さんのことは知っていました。自分は保護司についてもらったのはトータル2年間くらいだったかな」(Aさん)

実際に中澤さんに更生の指導を受けたというAさんに、伝説の保護司と呼ばれた中澤さんの手腕を聞いてみた。

更生カレーが生まれたきっかけ

「中澤さんは面談中、基本、寝てましたね(笑)」(Aさん)

お店で働いていた中澤さんが、すかさず「面白いこと言うね!」と合いの手を入れる。Aさんは子供が悪戯を見つかった時のようににっこり笑うと続けた。

「それは冗談です。月に1回とか2回の面談を受けていましたが、その時は普段の緩い中澤さんではなく、シャキッとされていて、親とか友達を悲しませるようなことしたらダメだよって本気で向き合ってくれました。

その頃自分は既に働いていたんですけど、寝坊がひどくて2日連続で寝坊したりしていたんですよね。そしたら保護観察期間中の誕生日に、中澤さんから目覚まし時計をもらって。それから今日まで、病気以外ではずっと無遅刻無欠席ですね」(Aさん)

やはり中澤さんを裏切れないという思いだったのだろうか。

「その時はそういう深い感情はなかったんですけど、とにかくうるさい目覚ましで、物理的に起きてしまうんです(笑)。でも、中澤さんとは今でもご飯を食べに行ったりしますし、本当に家族みたいに思ってるんですよ」(Aさん)

Aさん(右)とAさんの母親(左)と中澤さん(中央)

中澤さんを慕ってお店を訪れていた、自営業のBさん(29)も語ってくれた。

「自分は刑務所から最近出てきたのですが、保護司として直接中澤さんに担当してもらったことはないんです。それでも中澤さんとは仲良くさせてもらってます。

カレーも昔はよく食べさせてもらいました。味はもちろんうまいんですけど、ガキの頃に仲間と食ったカレーという感じで。特別な思いがあって一言では語れないですね」(Bさん)

Bさん

中澤さんの代名詞でもある「更生カレー」だが、これはお腹を空かせた1人の暴走族の少年に、中澤さんの自宅でカレーを腹いっぱい食べさせたところ、食べられなかった暴走族の仲間が続々と集まりだしたとのがきっかけだという。

中澤さんは笑って語る。

現在は、カフェLALALAで食べたい人だけに提供しているという

「その日に食べられなかった子や、呼んでもらえなかった子が、俺も、俺もと言って食べに来るようになりました。私も『ウチはカレー屋じゃないんだよ』、と言いながら、四六時中家でカレーを作るようになっちゃってね。

狭い団地だったから、みんなの靴で玄関が溢れかえっちゃって。そのうちウチの家で賄いきれなくなり、日付を決めてカレー会という形に変えたんです」

懲役中に食べたいと思っていた

中澤さんのもとには、Bさんのように直接保護司として関わりがなくても、カレー会や地元の繋がりを通して多くの不良少年が集まってきていた。

そしていつしか、中澤さんが少年たちにふるまっていたカレーは「更生カレー」と呼ばれるようになる。

Bさんが続ける。

「この辺の伝説的な不良の先輩から、中澤さんに迷惑かけんな、中澤さんを泣かすんじゃねえぞ、って言われていました。

仮に言われなくても、自分らが世話してもらってる先輩を世話してくれてる中澤さんには、自主的に迷惑はかけないようにって思っていました。ガキの頃のそういう思いもあって更生カレーって呼ばれてるのかもしれないですね」(Bさん)

もちろん食べた人間が全員更生する魔法のカレーではない。だが、「更生カレー」には人と人を繋ぐ何かが存在するのかもしれない。

Bさんが、「自分、懲役中に夢ができたんです。中にいる間、色々勉強して資格もとったので、これからお金を貯めて起業したいんです。懲役中にも更生カレーを思い出して、食べたいと思ってましたね」と言えば、中澤さんは「中でテレビなんか見るヒマないってくらい勉強してきたんだね。中での生活を無駄にしなかった。これからよねぇ、記者さん、この子すごいんだから。この子の頭脳がどうなってるのか見てみたいわ」とまるでわが子を自慢する母親のように話していた。

Bさんが勉強した科目や、取得した資格


世間では、特にネット上では一度道を踏み外した人間に対しては石を投げつけてもいいというような風潮がある。

中澤さんはその逆ですべての事柄を肯定的に受け取る。そこに伝説の保護司と呼ばれた秘密があるのだろうか。

後編では中澤さんの経歴や保護司時代を振り返ってもらい、その素顔に迫っていく。

取材・文・写真/集英社オンラインユース班

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