今シーズン、阪神タイガースの遊撃手として開幕スタメンに名を連ねたのは、プロ5年目・22歳の小幡竜平選手でした。
“勢い”の小幡 vs“安定感”の木浪!? 鳥谷敬が見たタイガースの「遊撃手争奪戦」
集英社オンライン / 2023年5月4日 14時1分
プロ野球歴代2位となる1939試合連続出場。最激務と言われる遊撃手として驚異的な数字を残した鳥谷敬。プロ2年目の2005年にはレギュラーに定着し、岡田彰布監督のもとリーグ優勝に貢献した。あれから18年間、優勝のないタイガースだが、その重い扉を開こうとする後輩たちの姿に何を思うのか。連載第2回は今季の「遊撃手争奪戦」について語る。
阪神は遊撃手・小幡をどう育てるのか
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今季、ショートの開幕スタメンを掴んだ小幡竜平。延岡学園から2018年ドラフト2位でタイガースに入団。右投げ左打ち
初スタメンとなった開幕戦では、以前から評価の高かった守備で好プレーを見せたうえに、3安打2打点1盗塁と躍動。しかし、6試合連続で先発出場した後、4月8日の東京ヤクルトスワローズ戦からは控えにまわっています。
自分が22歳の時は、プロ1年目。開幕戦から5試合連続で先発出場させてもらった後、5月の半ばまで先発出場できないという経験をしました。小幡選手は、既にプロとしての経験を4年間積んでいるので自分とは状況が違いますが、心中を察するものはあります。
チームには勝ってほしいし、自分の代わりに出ている選手にも活躍してほしい。でも、その選手が活躍すると自分のポジションがなくなってしまうのでは……と、複雑な気持ちでいるかもしれません。こういった葛藤は、プロ野球選手である限り、どうしてもつきまとうものでしょう。
ただ、今は、野手であれば何がなんでも全試合出場、投手であれば同じクローザーが5連投・6連投をするような時代ではありません。チームとしても、個人としても成績を残すために、積極的な休養が推奨されるようになりました。
自分が千葉ロッテマリーンズに在籍していた時には、佐々木朗希投手の将来を見据え、チームとして長期的プランのもとに起用していくという育成方法も目の当たりにしました。
評論家としてチームの外から見ている立場なので確証はありませんが、阪神タイガースは、小幡選手に、いきなり遊撃手としての責任を全て抱えさせないように考えているのではないでしょうか。他の選手と併用しながら、まずは1年間を乗り切り、数年後、本当のレギュラーになれるような計画を立てているのかもしれません。
“勢い”の小幡 vs“安定感”の木浪⁉
22歳の小幡選手は、肩が強く、送球も安定していることから守備面での評価が非常に高く、盗塁ができるスピードもあります。
これに対し、同じ遊撃手を争う28歳の木浪選手は、小幡選手ほどのスピードはありませんが、打撃・守備ともに安定感があります。
岡田監督は、「打たなくても守ってくれればいい」との思いで、小幡選手を開幕戦から起用したのだと思いますが、いい意味で期待を裏切られたのではないでしょうか。
小幡選手は、守備で期待通りのプレーを見せてくれたのはもちろん、打席に立っても、相手投手に球数を投げさせる、粘って四球を選ぶなど、自分の役割をしっかりと理解しているように感じました。
一方の木浪選手も、さすがというか、開幕スタメンこそ逃したものの、4月8日に初めて先発出場して以降、結果を残し、存在感を見せています。
これは、岡田監督の「木浪がいるから、小幡を開幕スタメンで起用できた」という言葉が生んだ効果と言えるのではないでしょうか。
木浪選手は、開幕スタメンを外れたことで、小幡選手とのレギュラー争いに負けてしまったと感じた可能性があります。
そんな時に、「“安定感”のある木浪選手がいるから、“勢い”のある小幡選手を起用できた」という意味合いの発言を監督がしたと耳にすれば、小幡選手の勢いに陰りが見えた時、必ず自分にもチャンスがくると感じたはずです。
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今年2月のキャンプで臨時コーチを務めた鳥谷敬氏に指導を受ける(左から)小幡、中野、木浪
岡田監督が、木浪選手と直接、言葉をかわしたかどうかはわかりませんが、木浪選手のモチベーションを下げさせなかったことは確かです。木浪選手も、監督の意図をしっかりと理解していたからこそ、その日に向けて準備を続け、自分の順番がきた時に、結果を残せたのでしょう。
小幡選手も、試合に出ていない期間は不安だと思いますが、次のチャンスが自分に巡ってきた時に、しっかり結果を残すという気持ちで、まずは1軍の雰囲気とスケジュール、環境に慣れることが、レギュラーとして活躍するための第一歩だと思います。
自分がプロ野球選手として1年間を過ごす中で、最も大変だったのは睡眠時間を確保することでした。毎日8時間は睡眠時間にあてたいと思っていても、ナイターの翌日がデーゲームの場合などは、どうしても睡眠時間が少なくなってしまいます。試合時間が長い日もあれば、短い日もありますし、試合後に先輩と食事をして遅くなる時もあります。
就寝時間や起床時間がずれやすい日々の中で、バランスよく時間を使うことには、とても苦労しました。慣れてきてからは、1年間、整った体調をキープするため、寝る時間と、起きる時間をできるだけ一定にするように調整していました。
慣れない頃は、ナイターの試合後に室内練習場でバッティング練習をすることもありましたが、徐々に早く帰宅して早く就寝するというパターンを確立し、やるべきことは試合前に終わらせるというのが自分のスタイルでした。
「鳥谷は誰よりも早く球場にきて練習する」と様々な方に言ってもらえていたのも、そういうルーティーンがあったからで、何か特別な事をしていたわけではありません。
今年の春季キャンプで臨時コーチをさせていただいた時に、小幡選手から技術的な質問を受け、話をしました。年齢もかなり離れているので、正直なところ、どう思われているかはわかりません。自分が20歳も年上の人から何か言われたら、それに対して、違うとは絶対に言えませんから。
でも、しっかりとした考えや他の人にはない部分を持った選手だと感じています。
長くレギュラーとして活躍する上で大切なこと
そう言えば、同じ春季キャンプで、大山悠輔選手からは、技術面ではなく、食事のことや、身体のケアのことについて質問を受けました。
これは大山選手が実績や成績を残してきたという自信から、体調さえ整っていればある程度の結果は残すことができるという思いがあったからだと思います。選手としては、技術的な心配をする段階から、さらに上の段階にあがったと言えるでしょう。
千葉ロッテマリーンズで2年間チームメイトだった佐々木朗希投手からは、佐々木投手が、プロ2年目・20歳の時に食事のことや身体のケアに関する質問を受けました。これも、技術に対する自信と、将来に対する高い意識があったからこそだと思います。
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鳥谷敬氏
プロ野球という世界には、毎年、高い能力を持つ選手がたくさん入ってきます。いくら食事が大切だ、身体のケアが必要だと感じても、気づいた年齢によっては、もう取り返しがつかなくなっているというケースは多々あるでしょう。
プロ野球選手として、自分がどの位置にいるか、何を考えるべきか、どの方向に進んでいくのかということを客観的に把握することが、長くレギュラーとして活躍する上では、とても大切なのです。
小幡選手に関しては、1年間を通じてどころか、目先の試合に出場できるかできないかという段階。まだまだ数年後のことまでは考えられないと思いますが、いずれは試合前や試合後のルーティーンや食事、身体のケアのことなどにも興味が出てくるのではないでしょうか。
まだ22歳、将来性を考えると、非常に魅力的な選手だと思います。
構成/飯田隆之 写真/共同通信社
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