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〈エホバの証人信者&元信者アンケート〉217人中162人が「小学校入学前までに鞭打ちされ始めた」クリスマス、お正月など“異教徒のイベント”は参加NG

集英社オンライン / 2023年5月9日 17時1分

ムチ打ちや輸血拒否など「エホバの証人」の“宗教虐待”に対し、同団体の二世信者たちが声を上げ始めている。「JW児童虐待被害アーカイブ」という団体で広報を担当する奥田咲里栄さんもそのひとり。信者&元信者たちへのアンケートから見えてきた彼らの「壮絶な体験」と「苦しみ」とは?

「死者は復活する」という教義

「子どもの頃から、どうやってエホバの証人から抜けるのか考えていました」

そう話すのは奥田咲里栄さん(30代)。九州で育った「エホバの証人」2世だ。地域の信者で組織される「会衆」には40〜50人が集まり、学校の同じ学年には信者の子どもたちが3人いた。咲里栄さんは中学2年生のときにバプテスマ(洗礼)を受けたが、18歳の頃に脱会した。


エホバの証人信者2世の奥田咲里栄さん

現在は、「JW児童虐待被害アーカイブ」という団体で広報を担当(「JW」は、エホバの証人の略称)。団体の代表の綿和孝さんは、こう話す。

「昨年、宗教2世が注目されるきっかけになった事件の前から、エホバの証人の信者2世らにアンケートを取っていました。集団的に行われてきた児童虐待の体験について沢山の声が集まりました。でも、教団はその事実を認めません。虐待の被害者は心を壊している人も多く、このことをちゃんと記録として残さなければと思い、調査を始めました」

咲里栄さんは、母親が入信した経緯や自身がバプテスマを受けた事実についてこう語る。

「母親は子育ての悩みがあったようで、私が2歳のときに信者になりました。『信者になり、本当のことがわかった』と言っていました。母の父をがんで亡くしましたが、『死者は復活する』という教義は魅力的だったようで、死の恐怖がなくなったそうです。母親は私に、『エホバの教えのもとで育たないとうちの子ではない』と言っていました。エホバの証人では、早い子は小学生でバプテスマを受けます。私は中2でした」

母親は宗教活動にのめり込んでいき、咲里栄さんを連れて多くの時間を費やした。父親はどうしていたのか。

「エホバの証人としての活動に反対だったようです。そのことだけが原因か分かりませんが、私が2歳のとき、父は家を出て行ったと聞いています」

クリスマス、お正月など異教徒のイベントは参加NG

エホバの証人の信者は、子供を保育園・幼稚園に入らせないことが多い。咲里栄さんも通っていない。

その理由について綿和代表は「園で一般的に行われる、お誕生日会、七夕、クリスマス、お正月などの〝異教徒のイベント〝に参加させられないからです。日本では年が明けたときに年神様をお迎えして、『あけましておめでとう』という挨拶をしますが、こうした新年の挨拶を入れた年賀状を送るのもダメです」と説明する。

写真はイメージです ©pixta

咲里栄さんはこう振り返る。

「私の場合、年賀状は出しました。でも、『あけましておめでとう』とは書かずに、『今年もよろしくお願いします』とだけ記入していました」

エホバの証人以外の友達と遊ぶことを含めて、一般的な日常生活は、宗教活動を減らすことに直結する。そのため交友範囲は制限されたという。

「私も福岡市内の駅前で、マガジンラックを立てた布教活動や、家への訪問勧誘もしていました。私は学校では明るい性格でしたので、布教活動をしている姿を友達に見られるのが最悪で、一番辛かったです。自分と家族がエホバの証人であることは誰にも言えませんでした。ただ仲の良い友達と遊ぶときは、母に『きっとこの子にはエホバを分かってもらえるから』と言っていました。布教はしませんが、そう言うことで、信者ではない子と遊ぶ許可を取り付けました」

咲里栄さんは本音ではもっと友達と好きな男の子やアイドル、音楽の話をしたかった。そして中学生になった。

「部活動は許されませんでした。夕方は家族で聖書や教団の書籍の勉強をしなければいけませんでした。好きな音楽はこっそり聴いていました。当時で言うと、ORANGE RANGEやHY、モーニング娘。
とかですね。でも聴きすぎると、母に『エホバとどっちが大切なの?』と叱られました」

2世の多くが小学校入学前までにムチ打ちを経験

エホバの証人では「鞭打ち」が推奨されていた。「JW児童虐待被害アーカイブ」が現役信者と元信者に行ったアンケートでは、217人中、「鞭打ちされ始めた年齢」は「3歳〜小学校入学前」が98人と最多。ついで「3歳未満」が64人、「小学生」が45人と、低年齢に集中。また、「鞭打ちの終期」は「小学生(高学年)」74人、「中学生」が68人と、中学入学前後に集中している。こうした環境が、咲里栄さんが脱会を考える理由になっていく。

写真はイメージです ©shutterstock

「6歳くらいから、エホバの証人から抜けたいと、ずっと考えていました。だって学校は楽しかったし学校では叩かれない。勉強も楽しかったから」

母親から鞭打ちを受けたという咲里栄さんだが、アンケートでも鞭打ちを受けた相手は「母親」が圧倒的に多い。また、信者の親にもよるが、読書や観られるテレビ番組、趣味は制限されていた。咲里栄さんの場合はどうだったのだろうか?

「母親は主体的に厳しくしていたと思います。私の場合、お利口な信者を演じていたので、教義に従わないという理由よりも、嘘をついたとか帰りが遅いといった理由で鞭を受けていました。門限である夕方の5時を過ぎて公園で友達と遊んでいて、遊びたい欲が勝ってしまったときなどです」

どんな理由であれ、鞭で叩かれるのは体罰であり、身体的虐待だと思われるが、咲里栄さんは虐待との認識は薄いようで、受け入れているように話した。姉が叩かれる姿を見て、どうしたら自分は叩かれずに済むかを学んでいった面もあるようだ。

「教団は信者自身の選択としながら様々な規律の種を蒔いています。それによって生まれる、家族ごと、会衆ごとに違うルールが、宗教2世問題をよりややこしくしている」(綿和代表)という。

「吉本ばななの小説や宇多田ヒカルの音楽など、母が好きだったものは楽しんでも大丈夫でした。基本的に、性的、残虐な描写がある作品、また魔法使いや妖怪、妖精、架空のものが登場するファンタジー作品はNGでした。なので『ポケットモンスター』『アンパンマン』『美少女戦士セーラームーン』は我が家ではダメでした。ただ私の名前は『魔法使いサリー』からとったらしいです(笑)。例外として、『名探偵コナン』は、父が家を出ていく前に買っていたものなので、母は許してくれました」

咲里栄さんは高校を卒業するまで信者として過ごし、実家で忍耐の生活を続けていた。家出などで反抗することはなかったのだろうか。

「好きな男の子には隠れてバレンタインのチョコレートをあげましたし、彼氏ができても徹底的に隠していました。バレると叩かれますから。母は『もしエホバの証人を抜けるなら家の柱に縛り付ける』『エホバから離れることがあったら監禁する』と脅すようなことを言っていました。支配下に置くためです。だから私は高校を卒業して働くことを選びました。働いて一人暮らしをすれば、楽になれると思ったんです」

脱会後も「精神的な後遺症」に苦しめられ

18歳になり、脱会した。だが、エホバの証人2世には後になって様々な精神的な後遺症が出てくるとも言われている。アンケートでは、「人格形成にネガティブな影響があった」が160人と最多。「精神的に後遺症がある」が121人などとなっている。咲里栄さんの場合はどうか。

写真はイメージです ©shutterstock

「19歳のとき、母に『出て行きます』と言いました。母は泣いていました。思うような娘にならなくて申し訳なかったです。自分では記憶にないのですが、当時は泣いて顔をはらした状態で頻繁に出勤していたと当時の同僚に言われます。また一晩中吐いていた時期もありました。母を裏切った罪悪感や、生き方を自分自身で決めることに不安があったのかもしれません。

それでも『自分は偉いじゃん』と思いながら生きています。私にはトラウマはないと思っています。人の目を気にするとか、気を遣いすぎるという性質はあるんですが、結果として、それにより社会でうまくいくことが多かったと感じています。この時にこれを言ったらまずいなとか、これを言ったら相手が喜びそうだなとか、自動的に思考に組み込まれている感じがあります」

脱会した今、小さい頃のことは思い出すのだろうか。

「よく布教活動に行っていたことを思い出します。そうした体験は、自分を形作っている要素の一つだと思っています。ただ、ポジティブに捉えることができるようになる2世ばかりではないと思います」

成人したのち、咲里栄さんは結婚した。相手は宗教2世であったことも受け入れてくれた。しかし、宗教とは別の理由で離婚した。

「離婚したとき、初めて精神的にきつくなったんです。すごく痩せたり、眠れなくなったりました」

離婚したとき、母親は「エホバの証人」に戻るように説得する絶好の機会だと思ったようだ。だが、咲里栄さんの気持ちは揺るがなかった。

「自殺とかを考える性格ではなかったのに、その時期は考えちゃいました。そのため、病院にも行きました。母からしたらエホバの証人に戻す〝チャンス〟だったと思います。猛アプローチを受けました。『エホバはいつでもあなたを受け入れるよ』『待っているよ』『あなたのことをいつでも考えているわ』と。手紙の場合もありましたし、電話の場合もありました。でも、戻ることは全く考えなかったですね」

現在、大学で、宗教2世と教育について研究している。苦しんでいる宗教2世の子どもたちへのアドバイスも話してくれた。

「研究のメインテーマは、『学校に宗教2世の児童・生徒がいたとき教員はどのような指導ができるか』『教員が相談できるシステムを作れないか』ということです。苦しんでいる2世には『学校教育で学ぶことが将来の選択肢を増やす』こと、私のように大人になってから学ぶ『リカレント教育』があることを伝えたい。

本当は高校を卒業して、大学に行きたかったです。でもエホバの証人は、大学進学を推奨してきませんでした。進路を決める三者面談で、『私はエホバの証人です』という証言をさせられ、大学進学を諦めざるを得なかった。だから、社会人になって自分と改めて向き合ってから大学に行くのも悪くないよと、今苦悩を抱えている2世たちに伝えたいです」


取材・文/渋井哲也

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