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「くら寿司」の逆襲! 「海外への店舗展開」と「くらの逸品シリーズ」で寿司テロによる逆境に立ち向かう2つの挑戦

集英社オンライン / 2023年5月12日 11時1分

今年に入り、飲食店での“迷惑動画”が世間を騒がせ、社会問題にまで発展した。発端となった「寿司テロ」だけでなく、飲食業界を困らせる不条理な事件に対し、大手回転寿司チェーンの「くら寿司」もいち早く対応。迷惑行為の再発を防止するため、全店舗に新AIカメラを導入し、監視体制を強化した。くら寿司株式会社広報・マーケティング本部の岡本愛理さんに話を聞いた。

“寿司テロ”対策の裏には「見えないところを大切に」する

2023年2月、各回転寿司チェーンに火の粉が降りかかった。回転寿司店にて「しょうゆ差しや皿を舐める」という迷惑動画がSNSで拡散され、瞬く間にその様子は大勢の人の目に触れることになった。



「くら寿司」も例外ではなく、突然の有事に晒されたが、その対応は迅速だった。事件が起きたわずか1か月後に記者会見を開き、新AIカメラシステムの導入を発表。

広報の岡本さんは「お客様からの信頼を取り戻すため、一刻も早く会社の方針や対策を明示する必要があった」と話す。

「実は以前から、抗菌寿司カバーにあるQRタグで、『この寿司ネタはレーンに何皿流れているのか』というのをAIで検知していました。衛生面の観点から、一定時間経ったら廃棄するシステムの一環で、AIテクノロジーを活用していたんです。それを迷惑動画を防止するために、システム改修を行うだけで済んだのが、スピーディな導入につながりました」

しょうゆ差しなど、備品はすべて片付けの際に入れ替える「クリーンテーブル」も全国で順次導入している

今回の件を受け、今後の回転寿司業界は「寿司をレーンで流すお店」と「レーンにお寿司を流さず、注文だけで対応するお店」の二極化が進むと岡本さんは予測する。

「創業以来、くら寿司はお客様に楽しんでもらうのを非常に大切にしてきたので、『お寿司を回すために何ができるのか』をしっかりと考え、対策を打ちました」

幸いにも、集客面や売り上げにはあまり影響が出ずに事なきを得たという。

「社内の風土として『見えないところを大切に』というのが根付いていて、日頃から安心・安全を心がけ、有事に備えていることを知ってもらうきっかけになりました。新しいAIカメラシステムを導入したことで、迷惑行為を行う模倣者が出ないよう、切に願うばかりです」

くら寿司は、大阪を起源とする回転寿司文化の継承・発展させていくためにも、コロナ禍での苦境や迷惑動画に屈せず、粛々とビジネスを展開していくそうだ。

上海を皮切りに海外進出を加速させる

そんななか、事業成長の鍵を握るのはコロナ禍で足踏みを余儀なくされていた「グローバルの出店攻勢」と、10年以上の構想を経て実現した新商品「くらの逸品シリーズ」だ。

前者で言えば、既存のアメリカ46店舗、台湾50店舗に続く、さらなる海外展開に注力していくとのこと。

「今年中に中国本土へ初進出する目処が立ち、まずは上海に1号店を出す予定です。それを皮切りに中国市場でも本格的に出店を進め、くら寿司のブランドを根付かせられるように尽力していきたい。グローバルの店舗数は2030年までに400店舗を目指しているので、引き続き出店できるエリアを見定めながら、粛々と準備を進めていければと思っています」

5月9日台湾・高雄市に開店した「くら寿司 グローバル旗艦店の高雄時代大道」は世界最大の店舗面積となる876.75㎡

一方、国内に目を向けても、直近ではインバウンド需要が復調傾向にある。

コロナ禍になった3年前と比べると約7倍の訪日外国人客が店舗に戻ってきているという。

加えて、コロナ規制緩和による日常回帰の機運が高まっていることもあり、集客状況もコロナ以前の水準に戻っていくのが予想される。

明るい兆しが見えてきているなか、くら寿司は新たな付加価値を見出し、新たに国産天然魚に着目した“寿司ネタ”で勝負をかけている。

それが後者の新メニュー「くらの逸品シリーズ」である。

「皿うどん寿司」を出した過去

同シリーズは、くら寿司が2010年から漁業創生の一環として「天然魚プロジェクト」を立ち上げ、その集大成として日の目を見た肝入りのメニューとなっている。

10年以上の時間をかけ、全国116の漁港・漁協と直接取引を行う仕組みづくりを推進し、産地直送の新鮮な国産天然魚の提供を可能にするエコシステムを構築してきた。

だが、順風満帆に進んできたわけではない。

2011年に五島列島の地魚を全国販売する「ご当地フェア」を実施し、地元でしか食べられない地魚を寿司ネタとして提供していた。

『【苫小牧漁協】天然 生ほっき貝(一貫)』@北海道

【三浦半島有名漁港】天然 釣り金目鯛(一貫)』@東京

だが、その当時は「地魚の安定調達や、お客様に地魚の入荷状況をタイムリーに知らせる仕組みが整えられずに断念した」と岡本さんは振り返る。

「五島列島の天然魚を十分に確保できず、苦肉の策で『皿うどん寿司』などを販売していましたね。このような『ご当地フェア』での失敗から、国産天然魚を安定調達するために、地域の漁業者や水産会社とのネットワークを強化してきました。

過去には長崎名産「皿うどん寿司」というアイデアメニューの提供も

水揚げされた天然魚を最寄りの加工場で捌き、くら寿司の各店舗に配送する仕組みを整えられたこと、さらにここ数年の間でSNSが浸透したことで、ソフトとハード両面が揃った。当社としても、満を持して発表したのが『くらの逸品シリーズ』だったんです」

毎週獲れる天然魚を「寿司ネタ」として
提供するのは業界初

全国の約530店舗を22のグループに分け、各地域ごとに水揚げされた国産天然魚を数量限定で販売するという。(水揚げ状況によって販売する種類が変わり、販売の有無は店頭ののぼりでお知らせ)

時期や季節によっても漁獲状況が変わり、その週にどんな魚が水揚げされるかはわからないわけだが、週替わりで旬の地魚を味わえるという楽しみやワクワク感がある。

くらの逸品シリーズでおすすめの寿司ネタを岡本さんに聞いた。

「北海道の『【苫小牧漁協】天然 生ほっき貝(一貫)』、東京の『【三浦半島有名漁港】天然 釣り金目鯛(一貫)』、そして福井の『【三国漁港】天然 越前 甘えび』がおすすめですね。特に福井の寿司ネタはブランド海老として知られていて、地元の人でもなかなか食べられない一品になっています。また、7月には沖縄の珍しい地魚『【沖縄近海 美ら海】天然 なんようぶだい(一貫)』を提供する予定です」

『【三国漁港】天然 越前 甘えび』@福井

『【沖縄近海 美ら海】天然 なんようぶだい(一貫)』@沖縄

今後は47都道府県ごとに地元の地魚を、地元のお客様に週ごとに楽しんでもらえる“地魚地食”を目指し、提供回数や魚種数を増やしていく見込みとのこと。

大手回転寿司チェーンが、毎週にわたって各地域の地魚を店舗で提供するのは初の試みとなっており、さまざまな困難に晒されながらも、くら寿司の挑戦は続いている。

取材・文/古田島大介

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