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「うつ病は物質的な病で理由なく起こる脳のバグみたいなもの」相原コージが自身のうつ闘病記を漫画で描こうと思ったワケ

集英社オンライン / 2023年5月18日 17時1分

ある日突然、37年間続けてきたマンガが描けなくなった相原コージさん。原因はうつ病だった。その過程をドキュメンタリータッチで詳細に描いた『うつ病になってマンガがかけなくなりました発病編』に続き、『入院編』を刊行した相原さんに詳しく話を聞いてみた。

闘病生活のことをマンガにしようと思ったワケ

――闘病生活のことをマンガにしようと思ったのは、闘病中ですか? それとも寛解後ですか?

相原 退院した後ですね。退院して、仕事を再開しようとするんだけど、マンガが描けない。たとえば発病前に連載してた時事ネタの四コマとか、考えてはみるんだけど、本当になにも思いつかない。

「発病編」の冒頭でも少し描いたけど、カラッポになっちゃって。その時に妻から「自分に起こったことをそのままマンガに描けばいいじゃん」って言われて、「それならできるかも」と。それで、Sさん(担当編集)に相談したんです。



編集S 相原さんから、こういうマンガを描きたいって言われて、正直最初はちょっと心配だったんですけど、ネームを読んだ段階ですごくおもしろいし、これなら大丈夫だと思いました。

相原 うつ病のマンガを描くことについては、いちおう主治医にも相談したんですよ。そしたら、グループセラピーみたいに自分の体験を話すこともあるし、マンガを描くことで治療の妨げになるようなことはないだろうって。

ただ、病院って撮影禁止なんですよ。資料として撮ってもいいか、いちおう聞いてみたんですけど、それは無理だと。『入院編』では病室とか、院内の様子を自分で描くのにディティールがわからなくて大変でしたね。

――今も治療は続けてらっしゃるんですか?

相原 通院はしてますね。

――闘病中のご自身の姿をマンガにしてみて、あらためて気づいたこととや、客観的に見えたことなどありますか?

相原 うーん……そういうのはないですね。今はとにかく、自分が経験したことや、実際に起こったことをできるだけリアルに描こうとしているだけで。だから、今から振り返ったらこう思う、とかはあんまりないんですよ。

実を言うと、この連載がどういう風に終わるかも、まだわからないんです。

――そうなんですか?

相原 いや、なんとなく決めてはいるんですけど、でも同時に、次回さえも描けるかどうかわかんないっていう、わりと綱渡り的な感じで。

普通の連載だと、だいたい終わりは見えてくるんですよ。『真・異種格闘技大戦』とか『ムジナ』とかも、最初は決まってなかったけど、描いていくうちに見えてきた。でも、この作品に関しては全然見えない。どうしたら終わらせられるか。もちろん、最後には光というか、希望のようなものを描きたいとは思ってるんですけどね。

―『発病編』は発売後すぐに増刷がかかったとのことでしたが、読者に受け入れられた理由はなんだと思いますか?

相原 それはある種のスキャンダリズムじゃないかと思っていて。昔『スナッフ』や『グレートハンティング』って映画があったじゃないですか。

「本当の殺人シーンやライオンに人が食い殺される映像を収めた」という触れ込みで公開された、モンド映画と呼ばれるジャンルがあるんですけど。それと同じで、読者の「怖いものをみたい」という好奇心を満たしてるのではないかと。

――1巻で描かれる首吊り自殺を試みるシーンが衝撃的でした。

相原 はい。でも結局、愛猫の“きゅんきゅん”に見つめられて断念するんですけどね。この子の前では死ねないと(笑)。その後も溺死を試みたりするのですが、辛くてやめてしまったり。

そういった細かな感情の動きもできるだけリアルに伝えてくて。そういった意味で、モンド映画のような「やらせ」はないですね。

愛猫のきゅんきゅんに見つめられて自死を思いとどまる相原氏(第6話収録)

――では、読者に向けて何かコメントを求められても難しいですか?

相原 そうですねえ。

でもあるとしたら、あんまり「心の病気」と思いすぎないでほしい、ってことですねかね、うつを。仕事のストレスとか、人間関係とかで塞ぎ込んでうつになっちゃう、みたいなイメージが強いと思いますけど、そうとは限らない。

ある日突然、なるんですよ。棋士の仙崎学の『うつ病九段』でも描かれてましたけど、特に心の問題を抱えていなくても、誰でも突然なる可能性がある病気なんです。

――『発病編』を読んだ後に、相原さんの『Z 〜ゼット〜』を読み直してみたら、少し似ている感じがしたんです。ある日突然、みんなゾンビになっていくんですけど、原因や謎が明かされないまま淡々と日常が描かれていく。その理不尽さというか、理由のなさみたいなものが共通しているのかもしれません。

相原 理由のない笑いが好きなんですよ。伏線回収とか種明かしとか、そういうのは極力したくない。諸星大二郎さんの『鯖イバル』って短編があるでしょ? あれが大好きで。

砂漠で遭難してさまよっていたら、突然、バカでかいサバ缶が現れて、なんとか開けようとするんだけど開けられなくて、結局みんな死んじゃう。あのサバ缶に理由なんてないし、種明かしも伏線回収も何もない。でもそれでも笑えるというか、おもしろいものが素晴らしいと思っちゃうんですよね。

――ただ、ギャグマンガ家としての相原さんは『サルまん』とか『コージ苑』とか『相原コージのなにがオモロイの?』とか、かなりロジカルでコンセプチュアルな作品を描かれてきたと思います。

相原 コンセプトって、「企画書」を書く感じなんですよね。もともとそういう企画書みたいなものを書くのは好きだったんで、それをそのままマンガとして描く感じ。

――なるほど。ある日突然、理由なく生まれる「ギャグ」を描き続けてきた相原さんが、ある日突然、理由なく「うつ」になる世界を描く、という作品だったんですね。

相原 そうかもしれませんね。うつは「脳の病気」で、物質的な病なんだと主治医に言われて、ぼくはちょっと楽になったというか、前に進めたんで。ある種のバグみたいなもんですよね。そういうことは描きたいと思ってますね。

――ここから先、どのように復活していくのかも気になります!

相原 ありがとうございます。ぜひ楽しみにしていただければと思います。



マンガを一話ずつ読みたい方はこちら

「うつ病になってマンガが描けなくなりました 発病編」

相原コージ

2022/10/20

1,650円

184ページ

ISBN:

978-4575317480

「ベテランギャグマンガ家・相原コージ、コロナ禍の中、突如うつ病に。病いと戦う日々を真摯に淡々と描いたドキュメンタリーコミック!」
コロナ禍の中、けがをきっかけに突如ネームが進まず悩み、仕事に支障が出るように…。コロナで外出がままならず、孤独な状況が続く。食欲がない日々が続き、体重は激減。
ついには自宅の仕事場で自殺未遂を…。そして入院。閉鎖病棟にて病いと戦う日々に。

新刊情報はこちら!

「うつ病になってマンガが描けなくなりました 入院編」

相原コージ

2023/5/17

1,650円

152ページ

ISBN:

978-4575317992

「ベテランギャグマンガ家・相原コージ、コロナ禍の中、突如うつ病に。病いと戦う日々を真摯に淡々と描いたドキュメンタリーコミック!」コロナ禍の中、けがをきっかけに突如ネームが進まず悩み、仕事に支障が出るように…。コロナで外出がままならず、孤独な状況が続く。食欲がない日々が続き、体重は激減。ついには自宅の仕事場で自殺未遂を…。そして入院。閉鎖病棟にて病いと戦う日々に。

取材・文/安藤 優己人

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