世界のエンターテインメントの中心であるロサンゼルス近郊に暮らしていると、「俳優」にたくさん出会う。スターになることを夢見てハリウッドにやってきたばかりの若者から、自称俳優、全米俳優組合(SAG−AFTRA)の会員、さらには、テレビシリーズや広告でよく見かける人まで、みなさん、さまざまなステージで活動していらっしゃる。
アメリカ国内のデータによると、16歳以上の俳優の就労人口は4万2千人。おそらく、この4万人強の方々は、舞台から映画まで、なんらかのかたちで演技をしてギャランティをもらったことのある人たちということのようだ。
子役にも大型テレビ&冷蔵庫付きのトレーラーは当たり前! 知られざるハリウッドの撮影現場
集英社オンライン / 2022年5月14日 12時41分
3人の子供たちが全員子役として活動している、ロサンゼルス在住のフリーライター・麻生美重さん。自身も全米俳優組合(SAG−AFTRA)の会員である彼女が、普段なかなか垣間見ることができない、ハリウッド作品の撮影現場をレポートする。
息子がスティーヴン・ソダーバーグ監督作に出演
実は我が家にも「自称子役」が3人いる。今年16歳の長女ユズは、1歳の誕生日を前にモデル事務所大手の「The FORD Models」と契約して以来、オーディションを受ける日々だ。次女のアカリ(13歳)、長男コーヤ(10歳)も、小学校に上がる頃から活動を始め、今ではオーディションを受けるのが日課のようになっている。
昨年コーヤが撮影に参加した作品は、スティーヴン・ソダーバーグ監督の新作映画『KIMI/サイバー・トラップ』。動画配信サービスのHBO maxで2022年2月に全米配信された。日本では6月3日にDVDレンタルが開始される。
『KIMI/サイバー・トラップ』
© 2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.
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オーディション情報を受け取ったのは昨年7月。マネジャーから送られてきたメールにソダーバーグ監督の名前を見つけた私は、「わぁぁぁ」と声を上げた。しかも『ストレンジャー・シングス 未知の世界』のキャスティングディレクター、カルメン・キューバの名前もあるではないか。マネジャーからの但し書きには「セリフのない役ですが、それでもよろしければ」とある。「いい、いい、いいってもんじゃないです! 受けます!」と即答した。
オーディションでは、自身の大切なエピソードをシリアスなトーンで話すことが要求された。自己紹介用動画(スレート)も「同じトーンで」という要望。こんなリクエストは他では聞いたことがない。映画の内容がどんなにシリアスでも、オーディションでは笑顔で元気よく自己紹介するのが通例だ。監督とキャスティングディレクターのこだわりが伝わってきた。
ソダーバーグ監督を前にしても堂々としていた息子
一見エキストラか、またはそれ以下の背景(アトモスフィア)のようにも思われるこの役。だが、合格してみると、そのような役に対しても予算のかけ方はお見事だった。いざ現場に行ってみれば、素敵な子供部屋のセットが微に入り細にわたり作り上げられていた。衣装さんはパジャマを3種類用意。さらにはコーヤが使用するトレーラー(大型テレビにエアコンに冷蔵庫付き!)まであるという豪華さ。
コーヤに用意された豪華なトレーラー
そのソダーバーグ監督は撮影中、私とコーヤが小道具で遊んでいる子供部屋に飛び込んできた。全身真っ黒の服で、キャップも黒。言葉は非常に少なめ。「いつも寝るときはどんなふう?」。“きゃー! ソダーバーグ!”と舞い上がる母の横で、コーヤは冷静に、いつものとんでもない寝相を監督にして見せた。かけ布団は蹴られ、両脚は全開だ。「よし、それで行こう」。監督の決断は早かった。
ロイター/アフロ
『エリン・ブロコビッチ』、『トラフィック』、『オーシャンズ』シリーズなどで知られるスティーヴン・ソダーバーグ監督
できあがった作品を見ると、出番は作品冒頭のワンシーンのみ。ベッドで寝ている我が子を父親役の俳優が眺めるというもの。時間にして数秒。映し出されたのは、引きと寄りのワンカットずつ。その後はすぐに主演のゾーイ・クラヴィッツのシーンに移り変わる。
それだけの出演のために、スタジオがコーヤにかけた時間とお金たるや。ハリウッドの凄さを垣間見た思いだった。
もともと親としては、本人に興味があれば……ぐらいのスタンスで子役活動をやらせているのだが、いかんせん、遊びたい盛りの小中学生。キャスティングのために送るセルフテープ(自分で撮るオーディション動画)撮りや練習をめぐって、母子の衝突はざらに起きる。その度に私は、子役活動から引退したいかどうかを確認するのだが、子らは「やめない」と言い張ってカメラの前にしぶしぶ立つのだ。
「オーディションに落ちても落ちてもなぜやめないか」としばしば考える。それはつまり、ハリウッドの撮影現場がどんなに楽しいところか知っているからなのだと思う。合格して、またあのワクワクを味わい、おもしろい大人たちに交じって働きたいからに違いない。
さて、先日受けた大作、結果はどうなったか……。いや、終わったオーディションは忘れて次に進むとしよう。
『KIMI/サイバー・トラップ』(2022) Kimi上映時間:1時間29分/アメリカ
スマートスピーカーによる音声チェックを生業とするアンジェリーナ(ゾーイ・クラヴィッツ)は、ある日殺人事件を疑わせる音声を耳にする。女性の悲鳴、殴られる音、ぶつかる音……そして、銃声。外出できないほどの広場恐怖症を抱えるアンジェリーナが勇気を出して向かった先には、彼女の命を狙う謎の暗殺者たちが待ち受けていた。
6月3日DVDレンタル開始
「KIMI/サイバー・トラップ」
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
© 2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.
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