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「男の子なんだから泣いちゃダメ」はもはや死語? 友達づくりにも役立つ“弱音を吐く”ためのレッスン

集英社オンライン / 2023年5月16日 7時1分

これまで1200人以上の恋バナを聞き集め、「恋愛とジェンダー」をテーマにコラムやラジオなどで発信している清田隆之氏。大学時代は女子との会話の糸口すらつかめない日々を送っていた清田氏だが、ある日を境に変化が。迷える大学生に向け、新入生の12ヵ月を徹底ガイドした『文庫版 大学1年生の歩き方』より一部を抜粋、再編集してお届けする。

学費と青春をドブに捨てる日々

5月といえば、天気はいいし、日照時間は長いし、暑くも寒くもないし、花粉や蚊にも悩まされないという、すべてが奇跡的にちょうどいい季節です。ましてや大学1年の5月なんて、希望と可能性に満ちあふれた、まさに青春の絶頂と呼べる時期……のはずですが、私は当時、大失恋の真っ只中にいました。


高校時代から付き合っていた恋人がイケメン美容師に心変わりをしてしまい、私が20歳を迎えた記念すべき日(5月20日!)に「他に好きな人ができたから誕生日は祝えない。私と別れてください。本当にごめんなさい(原文ママ)」というメールをもらって2年間の恋が終わりました。

学校生活も早速つまずきまくりで、この頃にはすでに半分以上の授業で怠け癖が始まっていました。4月に欲張って授業を取りまくったせいで毎日慌ただしく、準備も復習もできず「ただ出ているだけ」という状態になり、習ったことがちっとも身につかない。そして段々と授業がおっくうになり、ひとつ、またひとつとサボるようになっていく……。

こうして、小さなつまずきが連鎖していつの間にか取り戻せないくらいのビハインドになってしまうのが怠け癖の恐ろしいところですが、そこに失恋のショックが加わった私は、実家でふて寝ばかりして学費と青春をドブに捨てる日々を送っていました。

大学生活を救った偶然の「自己開示」

しかし意外なことに、この一件が私の大学生活を救うことになります。それまでイマイチ距離を詰められなかった語学のクラスメイトたちが、親身になって失恋話に耳を傾けてくれたのです。

私は男子校生活が長かったため、「女子のクラスメイト」はかなり縁遠い存在でした。それなのに、こともあろうか女子が8割を占める文学部のフランス語クラスに入ってしまい、緊張と混乱の連続。何を話せばいいかわからないし、自分から変なニオイがしてるんじゃないかという妄想に取り憑かれ、女子の隣では授業にまったく集中できない。同じ班のよしみでお昼ご飯に混ぜてもらうものの、会話の糸口すらつかめない日々が続きました。

写真はイメージです

そんな中、思わずこぼしてしまった失恋の愚痴。すると……女子たちはキャッキャと盛り上がり始め、「私もこないだ彼氏と別れてさ」と痛みを共有してくれたり、「それは清田くんにも非があったかもね〜」と冷静に経緯を分析してくれたり。しまいには「元カノの写真見た〜い♡」なんて展開にもなり……これを機に、みんなとの距離がグッと縮まっていったのです。

当時、私の中には「どうせ俺の失恋になんか誰も興味ないだろう」という気持ちがありました。また、「元カノに未練タラタラの男なんて気持ち悪がられるのではないか」という恐怖もありました。しかし、失恋のつらさに耐えかね、つい弱音を吐いてしまった。それによって意図せず「自己開示」をすることができたのです。

弱音を吐けない男の「ジェンダー規範」

私は人々から恋バナを聞き集める活動をしていますが、恋愛にまつわるあれこれを考える上で避けて通れないのが「ジェンダー」の問題です。これは社会的・文化的に形成された男女差を意味しますが、そう聞いてピンと来た人には当たり前すぎる話でしょう。しかし、ジェンダーは「知らない人はまったく知らない」という類の問題でもあります(特に男子!)。

私たちは社会やメディア、あるいは他者から「男とはこういうものだ」「女とはこういうものだ」というメッセージを知らず知らずのうちに受信しています。望む/望まないにかかわらず、期待や役割、理想像やイメージといったものを背負わされているわけです。

たとえば「男の子なんだから泣いちゃダメ」といった言葉や、「女の子が好きな色はピンク」というレッテルなんかがその典型ですね。こういったジェンダー規範を空気のように吸い込みながら暮らしていると、自分自身の中にも「男/女とはかくあるべし」という意識が根深く形成されてしまう。これを「内面化」と言ったりしますが、特に男子校出身者の私は、かなり偏ったジェンダー規範を内面化していたように思います。

男は弱音を吐いてはいけない。元カノに未練タラタラの男なんてみっともない。男の恋バナはキモいだけ。自分の失恋くらい笑い話にできなくて何が男だ──。当時の私はこういった意識にバリバリ囚われており、また一方で、女子に対しては無知や妄想がベースになってできあがった偏ったイメージを抱いていました(女の人は足が臭くならないとか、女の人はタバコを吸わないとか、本気で思い込んでました)。

それゆえ、自分から女友だちに悩みを打ち明けるだなんて到底考えられないことだったわけですが、あまりに悲しかったこと、20歳の誕生日にフラれたという切なさ、慣れないクラスメイト相手に会話のネタがなさすぎた……などの要素が合わさった結果、ついぽろっと失恋の話をしてしまった。この自己開示は偶然の産物に過ぎませんが、これがなければ私の大学生活はまったく別の方向に進んでいたかもしれません。

つらいときは思い切ってつらいと言ってみる

プライドや狭い視野によって自分自身を苦しめてしまうのが「若さ」というものかもしれませんが、ダサくても、みっともなくても、つらいときは思い切ってつらいと言ってみる。そうすると、今まで見えなかった道がいきなり開けたりするものです。

私もたまたま心を開けたことでクラスメイトとの間に接点が生まれ、それが互いのことを知り合うきっかけになりました。そして、女子たちとおしゃべりする中で少しずつ男女の違いや共通点を学び、偏ったジェンダー意識が徐々に矯正されていったように感じます(本当に少しずつではありますが)。

写真はイメージです

私はその後、友だちと恋バナをするのがライフワークとなり、今では「恋愛とジェンダー」をテーマにした文章を書いて生計を立てています。そう考えると、これは大学生活のみならず、私の人生を救う一件でもありました。

新しい環境の友だちというのは、つい気を遣ったり空気を読んだりして慎重に接しようとしてしまいがちです。そうやって恐る恐る関係性を築いていく姿勢はもちろん大切なのですが、もしかしたら、ときには思い切って自分からお腹を見せちゃうことも仲良くなるための秘訣かもしれない。

相手だって、お腹を見せられたら「自分も本音で接しなきゃ」と思うはずなので。特に我々男は弱さをさらけ出すことが苦手なので、「閉じるなキケン!」からの「開けば海路の日和あり」ということで、ぜひとも自己開示の練習を積んでみてください。

文/清田隆之 写真/shutterstock イラスト/小幡彩貴

文庫版 大学1年生の歩き方

著者:トミヤマ ユキコ
著者:清田 隆之

2023年3月17日発売

770円(税込)

文庫判/232ページ

ISBN:

978-4-08-744505-3

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