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五月病は俗称…では診断名は? その正体は? 【京大・精神科指導医に聞く】

集英社オンライン / 2022年5月11日 15時1分

風薫るシーズンというのに、なんともけだるくやる気が出ない、会社に行くのが嫌でたまらない、テレワークでも仕事ができない、憂うつでしかたがない…。もしかしてこれは「五月病」というものなのか? そもそも五月病って病気なの? 病院に行くべき? 自分でケアはできるの? 京都大学大学院医学研究科社会健康医学の准教授で、精神科指導医・専門医の田近亜蘭(たぢか・あらん)医師に五月病の正体について聞いてみた。

五月病は「適応障害」のひとつ

――「自分は五月病では? ともやもやする」という人が毎年この時期、周りに現れます。五月病とはどういう状態をいうのでしょうか。

田近医師:かつては、新大学生や新社会人が、新しい学校や職場でがんばるものの、環境の変化についていけずにストレスがたまり、5月の大型連休に糸が切れたように心と体の不調に見舞われる状態を指していました。ですが、現在では年齢や職業を問わず、一般に使われています。症状は主に、程度の強弱はありますが、大型連休が終わるころから、学校や会社に行くことを考えると眠れない、食欲がない、不安になる、気分が落ち込む、といった心身の不調です。



ただし、五月病とは正式な病名ではなく、あくまで俗称です。学校や職場、家族、対人トラブルなど明確なストレスがあってこうした症状がある場合は医学的には「適応障害」にあたります(適応障害の診断基準は後述)。また、現実問題が解決しないために症状が改善せず、次第に考えるのも動くのも面倒だ、疲労感が強い、何も楽しめない、などの症状が一日中続き、長引く不眠や食欲低下がみられる場合は「うつ病」と診断されることもあります。

――休みが長いと、その後いろいろと面倒になることは多くの人が経験していると思います。大型連休だけでなく、ブルーマンデーという言葉もあります。それと五月病はどう違うのでしょうか。

田近医師:休み明けに、だるいな、寝ていたいなと思うことは誰にでもありますが、出社の時間になればなんとか出かけられるでしょう。また、たとえ不調があっても趣味の時間は楽しめる、おいしいものを食べたいと思う、睡眠はきちんととれている、といった場合は心配する必要はありません。

五月病(=適応障害)の場合は、先ほどお話しした心身の不調が現れて生活や仕事に支障が出ている状態を指します。

受診のタイミングと適応障害の診断基準は

――医療機関を受診するべきタイミング、またどの科を受診すればいいかを教えてください。

田近医師:学校や会社のことを考えると不安になる、気分が落ち込む、行くと症状が悪化する、など日常生活に支障が出ている場合は、早めに精神科、心療内科、メンタルクリニックを受診しましょう。

――適応障害の診断基準とはどういうものですか。

田近医師:アメリカ精神医学会が2013年に公表した「DSM-5(精神障害の診断・統計マニュアル)」にある次のことに基づいています。

A.はっきりと確認できるストレスに反応して、3カ月以内に症状が出現。
B.次の1・2のうち、少なくとも1つの症状がある。
「1.ストレスの原因に対して不釣り合いな症状や苦痛」
「2.社会的、職業的に重大な機能不全が起きている」
C.ほかの精神疾患では説明ができない。
D.身近な人を亡くした時の反応(死別反応)ではない。
E.ストレスの原因が消失すると、6カ月以上症状が続くことはない。

つまり診断のポイントは、「ストレスの原因が明確で、それに反応して症状が出ており、そのために日常生活に支障が出ていること」です。

ストレスを取り除く・減らす

――五月病のセルフケアの方法はありますか。

田近医師:何よりも、ストレスの原因を取り除くことが重要です。例えば職場で問題がある場合は、会社のしかるべき部署や上司、産業医に相談しましょう。ひとりで悩まず、家族や友人に相談して客観的な意見を聞き、場合によってはフォローしてもらうことも重要です。

うまく異動できて現実問題が解決することで、すっきりよくなるケースは多くあります。また、テレワークが普及してきた昨今、出社が難しくとも、テレワークに変更してもらうことでうまくいく場合もあります。

しかし、現実問題が、そう簡単には解決しないことも多いでしょう。症状が強くて出社が困難な場合、メンタルクリニックでは一定期間の休職が必要という診断になるケースがあります。その場合は診断書を会社に提出し、ゆっくり休んでください。ストレス環境から離れるだけで、ある程度、症状は軽減すると思われます。

気持ちを落ち着かせるのに薬による治療が有効なこともあります。そうして落ち着いた状態にもっていったうえで、前述のような対応を考えていきましょう。その仕事や会社が本当に自分に合っていないと思えるのであれば、転職もひとつの選択肢となるでしょう。

適応障害に季節性はない

――病院を受診するほどではないがつらいという場合はどうすればいいでしょうか。

田近医師: 問題が大きくて自分には解決できないと感じる場合は、その問題をいくつかの段階に切り分けて考えましょう。例えば、大きな仕事を任せられて、自分には到底できないと感じるとき、全体としては解決できないように思えても、切り分けることで意外に第一段階はクリアできることがあります。すると自信がつき、第二段階に進んでクリアできるかもしれません。そうすることでやればできるんだという「自己効力感」が増していきます。

しかし、どうしようもない問題にぶち当たった際には、気分転換をすることが重要です。また、いっそその問題から逃げる、というのも選択肢としてあることを忘れないでください。

――五月病をがまんしているとどうなるのでしょうか。

田近医師:ストレスが続くことで、症状が悪化していくケースはあります。この状態はいま、一般に、「六月病」「七月病」と呼ばれることがあるようですが、五月病と同じく、医療の現場で用いる病名や用語ではありません。

悪化してうつ病と診断がつく状態になるとセルフケアでの回復は難しくなり、適切な薬による治療が必要になります。

――ひとつ疑問ですが、適応障害は、季節性はない病気ですよね。5月、6月だけに多いわけではないと思うのですが、医療の現場ではどうでしょうか。

田近医師:適応障害は、花粉症やインフルエンザのように季節性はありません。その適応障害の説明として、「五月病」「六月病」などの表現が一般に多用されていることは、精神科の現場では違和感も覚えています。

ただ、適応障害がどういう病気なのかという説明として、「◯月病」という俗称のほうが患者さんにとってはわかりやすいのかもしれません。厚生労働省、自治体、保健協会、医師会などでも、予防の啓発のために「五月病」「六月病」という表現をよく使用している理由はそこにあるのではないでしょうか。

環境の変化はどの月でもあり、異動や対人トラブルなどで不適応を起こして精神科を受診される方は一年中いらっしゃいます。季節に関わらず、注意をしていきましょう。

――ありがとうございました。

五月病とは、心身に不調があってストレスの原因が明確であれば適応障害と診断される場合があること、また、単に気分的なものではなく病気であること、ストレスの原因である問題を取り除けずにがまんしていると悪化する可能性があるということです。こうした不調に思いあたる場合はできるだけ早く受診したいものです。

構成・文 海野愛子/ユンブル イラスト 星野スウ/PIXTA

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