刊行後2年経っても毎月1万のDLが途切れない。『妻が口をきいてくれません』電子版大ヒットの理由を担当編集が語る。「家の本棚に置きにくいタイトルというのも一因なのでは(笑)」
集英社オンライン / 2023年5月23日 20時1分
大ヒットしたマンガ『妻が口をきいてくれません』の著者・野原広子氏の新連載『さいごの恋』は、46歳の独身女性が主人公。夫婦や家族関係を描き続けてきた野原氏の新境地ともいえる本作と、野原作品のすごさを担当編集の今野加寿子氏が語る。
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『妻が口をきいてくれません』登場人物
新作の主人公は46歳の独身女性
――『妻が口をきいてくれません』『今朝もあの子の夢を見た』はもちろん、『離婚してもいいですか?』『ママ友がこわい - 子どもが同学年という小さな絶望』など、主に既婚者が主人公のマンガを発表されてきた野原広子さんですが、独身女性が主人公の連載がスタートするそうですね。
『さいごの恋』の主人公・清美は、46歳の高校教師。恋人もおらず、仕事中心の生活を送っているという設定です。
46歳にしたのは、更年期や、親の介護といった問題がはじまるのが、このくらいの年齢からで、さらには自身の老後も考える時期ということですね。
――その年齢で、さいごの恋が……訪れることになるのですね?
それはどうぞお楽しみにお読みください(笑)。
――ある意味、野原さんにとっては新境地といえるこの作品ですが、着想のヒントは何だったのでしょうか?
昨年、お仕事が大変お忙しく体調を崩され、「ひとりで歳をとっていくこと」に思い至ったことがきっかけだそうです。野原さん自身、結婚、出産、離婚を経て一人暮らしになったことで、独身の方たちの生活に想像を広げることができたと。
病気になったらどうなるんだろう、死ぬときはひとりぼっちなのか…とか。
――確かに、心細いときに、誰かそばにいてくれるのか、頼れる人がいるのかというのは、人生百年時代の今、気になるところですね……。
昔はお節介なおばさんとかがちゃんといて、年頃になったら縁談を持ってくるなんてことがありましたが、今はそうしたお節介などはともすればハラスメントになってしまう時代ですから、自分からアクションを起こせない人は、頼れる人どころか、恋する対象にすら出会えない。
――46歳の清美サンは「今さら男とかときめきとかそんなの、もういいかな」と思っているわけですが、恋をめぐってどんな展開があるのか楽しみです。
原稿を見て鳥肌がたった瞬間
――野原さんとのお仕事はこちらの『さいごの恋』が3作目とのことですが、編集者として野原作品の「すごい」と思われるところは?
普段の野原さんは、穏やかで優しいお人柄なんです。プロットをきちんと作ってくださるし、雑談を交わしながらの打ち合わせは、私にとっても楽しい時間です。
これまでどんなに他のお仕事でお忙しくなさっていても締め切りに遅れたことはありません。そして、届いた原稿を見て思わず鳥肌が立ってしまう瞬間が頻繁にあるんですよ。
――たとえば?
『妻が口をきいてくれません』でいえば、クライマックスで夫が妻に「オレが悪かった」と叫ぶ場面。
こんなページの使い方なんてまったく聞いていません!!と驚きながら、興奮しました。あのいつもにこやかで穏やかな野原さんが、こんなに凄みのあるものを描いてくるのか!と。
プロット通りじゃなく、ご本人すらも想定外の何かが降りてきた!みたいなとき、作品に深みと凄みが加わるんですね。
そこが最大の「すごさ」です。
――カバーの背表紙にも驚かれたとのことですが?
そうなんです! 背表紙にコップに4本歯ブラシが立ててある小さなイラストがあるんですけど、1本だけ離して描いてるんです。これ、絶対に夫の歯ブラシですよね。
妻の独白の「歯磨きの音が嫌い」という1行がこのイラストに繋がるのか!と、気づいたときはまた鳥肌が立ってしまいました。このように、さまざまな場所に伏線やたくらみ、あるいは時に遊び心が溢れているんです。
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『妻が口をきいてくれません』背表紙より
――では『さいごの恋』も、アッと驚いて鳥肌ものの展開が?
おそらく待っていることでしょう(笑)。野原さんの作品ですから、深いところにググッと響くような、世の中の女性たちが「私のことを描いたの?」と叫びたくなるような物語になっていくと思います。
野原作品は本棚には置きにくい!?
――野原さんの作品に限らず、今はweb連載で人気に火がつく作品が多いですが、デジタルで読む良さはどこにあると思いますか?
野原作品で言えば、家の本棚に置きにくい、というのもあるのかもしれません(笑)。『妻が口をきいてくれません』というタイトルの本を妻なり、夫なりが持っていたら、双方ともに「ん?」となりますよね。
――なるほど!
もともと紙の本も部数を伸ばしていましたが、そういうこともデジタル版の売れ行きが伸びている一因かもしれません。また、野原さんの読者の多くは30代から40代の子育て世代。すき間時間にスマホでサクッと読めるというのもデジタルならでは。
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先が気になってしまうネット広告で人気に火がついた
『妻が口を聞いてくれません』より
――すでに紙とデジタル版を合わせて20万部を超えているとのことですが。
書籍の発売から2年以上経って、いまだに毎月約10,000もの電子版ダウンロードがある作品は、滅多にありません。
――『さいごの恋』も、そんな作品になりそうですね。
他の人のことが気になりつつも、ある程度年齢を重ねると、女性同士であまり突っ込んだ話はしなくなります。特に、性的な事柄は親しい友人ともなかなか共有できません。
独身女性同士でも「あなた、ずっと彼氏いないの?」とか「結婚する気、あるの?」なんて聞きにくいし、話しにくい。
そういう女性たちにとって『さいごの恋』の清美サンは、ダウンロードしてスマホに入れることで、読者の心の友になれるような気がしています。
取材・文/工藤菊香 漫画/野原広子
新連載『さいごの恋』はこちらから
『妻が口を聞いてくれません』
野原 広子
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2020年11月26日発売
1,210円(税込)
A5判/168ページ
978-4-08-788048-9
第25回手塚治虫文化賞「短編賞」受賞!メディアで大反響、夫婦の問題を掘り下げる賛否両論の話題作!
妻はなんで怒っているのだろう……。妻、娘、息子の四人家族として、ごく平和に暮らしていると思っていた夫。
しかし、ある時から妻との会話がなくなる。3日、2週間と時は過ぎ、やがて会話のない生活は6年目に。
家事、育児は普通にこなしているし、大喧嘩した覚えもない。違うのは、必要最低限の言葉以外、妻から話しかけてこないことだけ……。
ウェブサイト「よみタイ」の大好評連載、衝撃の描き下ろし最終話を加えて待望の書籍化。
外部リンク
- 上場企業勤めでも日本育ちでも「外国籍」というだけで住宅弱者に。自らの原体験から立ち上げた「FRIENDLY DOOR」が立ち向かう社会課題
- “住宅弱者”が直面する「同性カップルはトラブルが多いから…」「高齢者は支払いや孤独死の懸念があるから…」何も悪くないのに家を借りられない現実
- 【漫画】妻が口をきいてくれなくなって5年。限界を迎える夫のメンタルはどうなるのか。衝撃の展開『妻が口をきいてくれません』
- 【漫画】「あの日、私は夫と会話をすることをやめた」5年間夫と口をきかなかった妻の決意とどうしても許せなかったこと。問題作『妻が口をきいてくれません』
- 大ヒット漫画『妻が口をきいてくれません』担当編集が語る野原作品のすごさ。「主人」「奥さん」という呼び方は令和でも現役、メディアで語られる夫婦と実際の夫婦の在り方にはまだまだギャップがある
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