【ノッポさん追悼】「新しいやつはすぐ喋って面白くない」と非難轟轟も、ノッポさんからバトンを受け継ぎ23年。わくわく氏「途中からNHKには『老けないでくれ』と言われていました(笑)」
集英社オンライン / 2023年5月21日 9時1分
NHKの子ども向け教育番組『できるかな』のノッポさんとして親しまれた俳優で作家の高見のっぽさんが昨年の9月に心不全で88歳で亡くなった。ノッポさんの『できるかな』を継いだ工作番組『つくってあそぼ』で活躍してきたわくわくさんこと久保田雅人氏に、ノッポさんとの出会いや、その後23年間続く長寿番組となった『つくってあそぼ』について振り返ってもらうなど、胸中を語ってもらった。
伝説の最終回はノッポさんが
「ご挨拶をしたい」とマイクをつけて…
「あ~あ~喋っちゃった。今日はね、特別なんです。えーとね、長い間ね、みんなと友達でいましたけど『できるかな』は4月から『ともだちいっぱい』という新しい番組と変わります」
20年間の放送中一言もしゃべらなかったノッポさんが『できるかな』の最終回で突然声を発したのは1990年3月6日のこと。当時、このまさかの展開にギョッとした視聴者も多かっただろう。
パントマイム仕込みの動きと手先だけで工作を表現し、子供を魅了し続けたノッポさんが昨年の9月に心不全で亡くなっていたことが5月10日に発表された。
伝説と呼ばれた『できるかな』の最終回で共演した、わくわくさんこと久保田雅人氏(61)が当時を振り返る。
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「ノッポさんは工作番組に新しい道をつくった開拓者で大先輩です。私は当時まだ20代後半の駆け出しで、最終回では本来喋らないはずのノッポさんが喋って、ガチガチに緊張した私がまったく喋れないという状況でした(笑)。
実はノッポさんって最終回以外でも喋って収録はしているのですが、マイクをつけていなかったんですよ。ですが、最終回は自分の声でみなさんにご挨拶をしたいとノッポさん自らマイクをつけたというんです」
これがノッポさんとわくわくさんの最初で最後のコラボとなったが、久保田氏にとってはじつに貴重な体験だったという。
「ノッポさんが『僕たちの後を継いでくれるわくわくさんとゴロリくんです』と紹介してくれました。『色画用紙を折って、1回まっすぐ切るだけできちんとお星さまが作れてしまう』という工作を一緒にやらせていただきましたが、もうすべてのパフォーマンスが素晴らしくて、動きと手先だけですべてを表現していて。私にはそんなこと到底できません」
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昨年9月に亡くなったノッポさん(「ノッポさんの『小さい人』となかよくできるかな?―ノッポ流人生の極意―」(小学館)より
NHKが『できるかな』に変わる新しい工作番組を作りたいと出演者を探していたのは1989年のごろのこと。当時『おーい!はに丸』のはに丸の声を演じていた田中真弓氏の推薦で久保田氏はオーディションに参加した。
「当時私は『タッチ』で上杉達也などを演じた声優の三ツ失雄二さんが座長で、田中さんが副座長を務めていた劇団で声優をやっていました。その関係で田中さんが『ウチの劇団に手先が器用で喋らすとちょっと面白いのがいるからオーディションだけでも受けさせてくださいな』って言ってくださったんです。
で、受かるわけないなって思って受けたら、受かってしまったんです。それで試作としてやった番組のタイトルが驚くなかれ『わくわくおじさん』です。当時、私まだ27歳くらいですよ。なぜおじさんになったのかは今でもわからないんですけどね(笑)。とはいえレギュラーにはなるわけないないだろうって思ってたらレギュラー化が決定したんです」
NHKの降板最短記録作るんじゃないかなって
心配されていた
レギュラー化された新番組は『ともだちいっぱい』という教育番組で『つくってあそぼ』はその中のワンコーナーだった。工作の伝道師は20代後半のお兄さんという設定で、ノッポさんとは違って喋らせて進行させていきたいというNHKの意向があったそうだ。ただ、番組が始まった当初は色々な苦労もあったとか。
「私は普段から喋らないと生きていけないというくらい喋るのが好きなのですが、最初は『新しいやつはすぐ喋って面白くない』とか『新しいやつはヘタクソ』とか結構辛辣な投書が届いていましたね。いやいや、ノッポさんと比べられたらたまったもんじゃないわって思ってました。
NHKの上の方から『もう久保田はヘタクソだから降ろせ』って話もあったようですが、番組のディレクターと造形アイデアのヒダオサムさんが『まだド新人ですから長い目で見てやってください』って言ってくれて。NHKの降板最短記録作るんじゃないかなって心配されていたのですが、長い目で見ていただき、23年間続いちゃいました」
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番組がはじまった当時のわくわくさんこと、久保田氏(本人Twitterより)
軽妙な語り口で冗談を交えながら話す久保田氏。いつかしか届く投書は『わくわくさんと(『つくってあそぼ』に登場するクマのキャラクターの)ゴロリくんの会話が面白い』と評価されていくようになっていった。
番組を始めて約3年後には声優業もやめ、わくわくさん一本に絞った久保田さんはこの頃からゴロリとのコンビネーションもどんどん良くなっていったという。
「ゴロリは子供代表で5歳って設定なんですよ。その子供の発想を大人のわくわくさんが形にしてあげる。『じゃあゴロリこうしてみようね』って。それで作った工作でゲームして遊ぶんですけどゴロリがうまくてね。ペットボトルの中に1円玉をストンと落とすゲームでゴロリは3回で成功して、私が30回以上入らなくてNG出しをしてしまうなんてこともあったし、私がゲームがヘタクソすぎて、ゴロリがゴロリの声ではなく素の声を出して笑ってしまうなんてこともありました」
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番組収録の後はゴロリと居酒屋で…
そして「今だから話せますが」と久保田氏はニッコリ笑うと、番組をやっていた頃の秘話も披露してくれた。
「実は私もゴロリくんもお酒が大好き(笑)。本番直前のカメラが回る前に『今日行く?』って言って終わってから飲みに行っていました。ビールとかサワーとかを居酒屋で飲むという感じでした。ゴロリとは芝居の話から色んな話をしましたよ。
後はノッポさんも私も結婚をしていたのですが、手元のアップが映ることが多かったので指輪をしてはダメでした。それから日焼けをしたらいけなかったので、家族で海にも行けませんでしたね。放送時期が夏じゃないのに真っ黒に日焼けしてたらひっぱたかれますから」
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ニッコリと笑うわくわくさんこと久保田氏
だが、23年間続いた長寿番組ならではの問題もあったのだとか。
「20代後半の設定のわくわくさんが歳をとっていってしまうんです。NHKには途中から『老けないでくれ、歳をとらないでくれ』と言われるようになりました。私は『そりゃゴロリはいいよ。あいつは見た目老けないから。私は一応ナマモノなんで勘弁してください』って返していました」
そして2013年に『つくってあそぼ』は惜しまれながら最終回を迎えた。
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わくわくゴロリの紙コップ・紙ざらでつくろう(NHK出版より)
「番組が終わってもわくわくさんであることを終えたつもりはないですし、それはゴロリもそうなんです。工作の楽しさを変わらずこれからも伝えていきたいです」
最終回でノッポさんから渡されたバトンは今もなおしっかり受け継がれているようだ。
#2では工作を通して子供と向き合い続けた久保田氏ならではの視点で、変わりゆく子供たちや時代について語ってもらった。
撮影・取材・文・/集英社オンライン編集部ニュース班
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