ネトウヨの都合いいアメリカ観…沖縄米兵の少女暴行には「被害女性が悪い」と絶対的擁護しつつも、中国・韓国に抱く憐れな憎しみ
集英社オンライン / 2023年6月9日 19時1分
50歳以上の「シニア右翼」の乱心は決して一過性の社会現象ではない。内側から見た実像を解き明かしながら、「シニア右翼」の来歴と根底に迫った『シニア右翼-日本の中高年はなぜ右傾化するのか 』(中公新書ラクレ)から著者・古谷経衡が「自称リアリスト」たちに本当にいい加減にしてほしいと語る理由を一部抜粋、再構成してお届けする。
沖縄米兵が少女に暴行しても「被害を受けた女が悪い」
「無思慮型親米保守」というのがある。これは「面従腹背」などという思慮が一切存在しない垂直的な親米姿勢である。アメリカに負けて悔しい、アメリカに同胞を焼き殺されて悔しい―という戦争の原体験が存在しない戦後しばらくしての「保守」に一様に見られ、とくに現在のネット右翼はほとんどこの類型に当てはまる。
よって彼らは在日米軍の存在を肯定し、沖縄の反基地運動を「反日、パヨク、中韓から金をもらってやっている反日工作員」と決めつけて呪詛する。彼らは敗戦の原体験が無いから「面従腹背」という発想すらない。
大統領予備選で「日本や韓国から(駐留負担の観点から)米軍を撤退させる」とまで公言したトランプが大統領になると、無思慮なまでにすり寄っていく。いつかはアメリカと対等な日本にする―という稀有壮大な野望さえ持っていない。アメリカに付き従っていれば日本は安泰であり、とりわけ膨張する中国人民解放軍から国土を守るためには在日米軍は絶対に必要であるという。よって沖縄の米兵が少女に暴行しても「被害を受けた女性の方が悪い。そんな時間に外を出歩いていた女性の方が悪い」などという異様な主張を展開して、アメリカや米軍を絶対的に擁護する。
彼らは「自衛隊はいつも頑張ってくれている」と手放しで自衛隊を擁護する一方、「有事になったらアメリカ軍がいないといけない」とする。裏を返すまでもなく自衛隊は国土を守ることのできない非力な組織にすぎない、と言っているに等しく、まるで分裂している。しかし自分の理屈が矛盾しているという自覚すらない。これが「無思慮型親米保守」である。
ネトウヨたちが信じたい真珠湾攻撃の奇説
このようにして考えると、戦後発生した「親米保守」も、戦争経験がまだ鮮やかだった時代の「面従腹背型」と、戦争経験が薄らいでいく時代の中でそれに取って代わった「無思慮型」の二タイプの流れがあると言える。しかし現在主流となった「無思慮型」の人々も、「日本国憲法はアメリカの押し付け」と言い、靖国神社に参拝することを全肯定するのはほとんど変わらない。なおも存在する大きな矛盾を「無思慮型」の彼らはどう考えているのか。
それは戦前、戦中、敗戦直後のアメリカと今のアメリカは違う、という理屈である。ここから発生したのが日米開戦当時政権を握っていた米民主党は「反日」で、米共和党は「親日」だったとするトンデモ理論である。
米民主党悪玉論は1990年代の所謂「ジャパン・バッシング(当時のクリントン大統領がアジア歴訪の際、日本に寄らず中国を訪問して帰国したこと)」で盛んになったが、現在の彼らはクリントン政権のことなど忘れているので、理屈としては「太平洋戦争当時、ルーズベルトはコミンテルン(ソ連)の手先となっていたので日本に真珠湾攻撃をやるように仕向けた。一方、共和党のタフトやフーヴァーは親日派で日本圧迫に反対していた」というものだ。
この理屈は必ず歴史修正主義者の中から出てくるが、端的に言って出鱈目であり、真珠湾攻撃を受けてアメリカ議会は即時対日宣戦布告を審議(1941年12月8日)したが、上院において全会一致、下院においても388対1で対日宣戦布告は可決されている。米民主党が、米共和党が云々というのは関係がない。
「無思慮型」の人々は、「現在のアメリカは、日本の憲法改正と軍事的自立を望んでいる」とし、「日本国憲法を押し付けたのは過去のアメリカ」であると解釈して「アメリカによる憲法押し付け論」を正当化し、批判の対象はあくまでかつてのアメリカであり、現在のアメリカではないとしている。
ネトウヨたちの「とても都合のいい」アメリカ観
しかし戦後一貫してアメリカは日本の軍事的復活を警戒しており、この傾向はバブル期に日本経済が世界を席巻すると益々鮮明になった。むしろ在日米軍の存在は日本封じ込めの一環としてとらえられていた。これを在日米軍が日本再軍備の重しになるとして、「瓶のふた論」と呼ぶ。瓶とは日本による軍事大国化の野望で、ふたは在日米軍である。
アメリカは現在でも真珠湾攻撃の屈辱を忘れては居らず、そして過去と比べて減りつつあるがアメリカ世論の約6割は二発の原爆投下を「戦争を早く終わらせるために必要だった」とする肯定論を支持している。戦前、戦中、敗戦直後のアメリカと今のアメリカは違う、などという勝手な解釈は、「無思慮型」の人々が現実を都合よく解釈し、自分たちの意見にアメリカも賛同しているのだ、と思い込みたい願望から生まれた屁理屈にすぎない。
そしてこのような屁理屈があるから、靖国神社を総理が訪問しても、昔のアメリカと今のアメリカは違うから―という願望を引っ張ってきて、ややもすれば「アメリカも賛成してくれている」などとするが、大きな間違いであった。第二次安倍政権が誕生して翌年の2013年、安倍首相(当時)が靖国を参拝した。「保守派」は大いに溜飲を下げたが、アメリカから異例の「クレーム」が来た。
翌年3月6日、ケネディ駐日大使は「地域情勢を難しくするような行動は建設的ではない」と安倍首相の行動を牽制し、当時のオバマ大統領は「失望」を表明した。極東国際軍事裁判でA級戦犯となり絞首刑になった人々が祀られている靖国参拝に現役総理大臣が参拝するのは直接的に「第二次世界大戦後の国際秩序」を否定するものだから、アメリカが異例の対日批判を行うことは当たり前である。安倍首相は在任期間中、これ以後一度も靖国を参拝しなかった。
約2400人を焼き殺した日本はいつまでも「警戒の対象」
敗戦国日本と戦勝国アメリカ、在日米軍と日米安保を通じたアメリカと日本の従属関係は現在も何ら変わることなく継続しているが、「無思慮型」の人々はこの現実を認識せず、「今のアメリカはかつての遺恨を不問にして、我々を支持してくれている」という理論に飛びついていく。アメリカからしてみれば、であるが、全てを都合よく解釈して「アメリカは味方なんだ」と信じている。
根底にこの価値観があるからこそ、トランプやバイデンが羽田や関空ではなくエアフォースワンで都心近傍の横田基地に直接乗り付けても、それを主権侵害とも屈辱とも思わず無思慮に大統領専用機を写真に収めて「日本とアメリカの絆!」などと、嬉々として米兵が焼いたBBQの肉を頬張っていられるのである。
―いつかはアメリカと対等に、と辛うじて夢想していた「面従腹背」の人々の「いつか」は日本の国力増進を前提にしたものだったが、もはや日本の国力が衰退に向かっていく現在、その「いつか」は永遠にやってこないかもしれない。そもそも日本の国力が絶頂を迎えていた1980年代末から90年代前半の時代ですら、日本は対米追従を見直すことなく何もやってこなかった。その「いつか」というのも、またぞろ先送りの精神で本気ではなかったのかもしれない。
「中国と韓国は過去の戦争のことでいつまでも難癖つけてくる」
残されたのは、同胞を焼き殺され首都圏(ばかりではないが)の空を占領され、横浜で米軍機が墜落して無辜の子供二人が焼け死に(横浜米軍機墜落事故)、沖縄(に限らないが)で米兵の粗暴事件があっても、「アメリカとの絆!」という虚構を謳うだけの「面従腹背型親米保守」だらけになってしまった。そしてこの矛盾を指摘されると、彼らは一様にムッとした表情になり、「現実的にはしかたがない」と繰り返す。所謂「自称リアリスト」である。
そして彼らは口をそろえて「中国や韓国は過去の戦争のことでいつまでも難癖をつけて批判してくるのに対し、アメリカはそういうことをしない。水に流してくれた」というが、すでに述べた通りアメリカも「大々的な難癖」を付けている。アメリカが本当に太平洋戦争を水に流しているのなら、オアフ島で沈没した戦艦「アリゾナ」をいつまでも展示していない筈だが、ハワイに行ったことがないのだろう。そして中韓米のみならず日本の侵略戦争の被害に遭ったフィリピンでは毎年「バターン死の行進」の合同慰霊祭が開催されているが、こちらも問題にされない。フィリピンに無関心なのだろう。
その口で特攻隊を称えるのだから、本当にいい加減にしてほしい。
『シニア右翼-日本の中高年はなぜ右傾化するのか 』(中公新書ラクレ)
2023/3/8
¥990
新書 : 288ページ
978-4121507907
あなたの隣にいる!
久しぶりに実家に帰ると、穏健だった親が急に政治に目覚め、YouTubeで右傾的番組の視聴者になり、保守系論壇誌の定期購読者になっていた――。こんな事例があなたの隣りで起きているかもしれない。中にはネット上でのヘイトが昂じて逮捕・裁判の事例が頻発している。そのほとんどが50歳以上の「シニア右翼」なのである。若者を導くべきシニア像は今は昔だ。これは決して一過性の社会現象ではなく、戦前・戦後史が生みだした「鬼っ子」と呼ぶべきものであることが、歴史に通暁した著者の手により明らかにされる。
そして、導火線に一気に火を付けたのは、ネット動画という一撃である。シニア層はネットへの接触歴がこれまで未熟だったことから、リテラシーがきわめて低く、デマや陰謀論に騙されやすい。そんな実態を近年のネット技術史から読み解く。 かつて右翼と「同じ釜の飯を食っていた」鬼才の著者だからこそ、内側から見た右翼の実像をまじえながら論じる。
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