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子供向け「マネー本」が児童書の棚にズラリと並んでいる理由。「金融教育必修化と成人年齢引き下げだけではない。親世代も読んでいます」

集英社オンライン / 2023年5月27日 18時1分

書店の児童書コーナーに足を運ぶと、「マネー本」をはじめとする自己啓発本の類が多く並んでいるのが目につくようになった。なぜ今、子供に向けたお金の本の刊行が相次いでいるのか。その背景には親心にとどまらない事情があった――。

15万部超えのヒットとなったシリーズも。
子供向けマネー本の数々

近年、マネーリテラシーにまつわる本のヒットが相次いでいる。

100万部突破の『本当の自由を手に入れる お金の大学』(両@リベ大学長著/朝日新聞出版・2020年)、48万部を超えた『ジェイソン流お金の増やし方』(厚切りジェイソン著/ぴあ・2021年)など、難しい金融知識よりも「稼ぎ方」や「増やし方」、「守り方」など、実利的なことをわかりやすく紹介するものが人気だ。



そしてこの傾向は大人向けだけにとどまらない。書店の児童書コーナーに足を運ぶと、絵本の老舗版元や大手出版社が刊行する「10歳から〜」「小学生から〜」といった子供向けの「お金の本」が多数並んでいる。

旺文社の人気子供向け実用書シリーズ『学校では教えてくれない大切なこと』からは、「お金のこと」(シリーズ3作目・2015年)「お金が動かす世界」(シリーズ33作目・2021年)と、「お金」をテーマにしたものがすでに2冊刊行。

『アンパンマン』で知られるフレーベル館からは『100歳2億円にふりまわされない! 12歳からはじめる Oh! 金の学校』(2022年)が出ている。

そして絵本を中心とした児童書の専門出版社、えほんの杜からは、親子のための金融教育をうたう「キッズ・マネー・ステーション」を主宰する八木陽子氏監修の本が出版されている。

『10歳から知っておきたいお金の心得~大切なのは、稼ぎ方・使い方・考え方』が2019年に15万部を超えるヒットとなり、2022年には続刊『今から身につける「投資の心得」~10歳から知っておきたいお金の育て方』も刊行された。

また、小学館からは投資家の村上世彰氏による教育マンガ『おかねの攻略法~ミライの攻略法~』(2022年)が出版されている。こちらも帯には「10歳から」と大きくうたわれている。

15万部超えのヒットとなった『10歳から知っておきたいお金の心得~大切なのは、稼ぎ方・使い方・考え方』(えほんの杜刊)

これらの本を読んでみると、「子供向けのお金の本」というイメージ通りの「おこづかいの使い方」から、「景気の変動」「円安・円高」「年金や社会保障」などをイラストやマンガで解説することで学校教育の補足になりそうなもの、さらには子供も利用する機会が増えた「キャッシュレス決済」の解説まで、取り扱う内容は実に幅広い。

過去にも『お父さんが教える 13歳からの金融入門』(デヴィッド・ビアンキ著/日本経済新聞出版 ・2016年)といった子供に向けた金融本のヒットはあったが、ここ数年で一気に増加した感がある。
書店に並ぶこうした本の背を見ていると、余計なお世話と思いつつも、「子供にお金の話をする本がこんなに流行するのはいかがなものか?」という思いも生まれてくる。

「もっと早くに知りたかった」…背景にある親心

『10歳から知っておきたいお金の心得~大切なのは、稼ぎ方・使い方・考え方』の冒頭には、監修の八木陽子氏によるこんな一文がある。

「稼ぎ方や使い方に、社会を良くするための『思い』や、人を幸せにする『願い』が込められていれば、お金の話をすることは、カッコイイことになるでしょう」

『10歳から知っておきたいお金の心得~大切なのは、稼ぎ方・使い方・考え方』(えほんの杜刊)

本書を刊行している、えほんの杜・立川宏氏に話を聞いた。

「2018年に『10歳』シリーズ(第一弾『10歳の君に贈る、心を強くする26の言葉 哲学者から学ぶ生きるヒント』)を創刊したのは、学校では教えてくれない生き方について提示できるような児童書を作りたいと考えたのが発端でした。

なかでも『お金』は生きていく上で欠かせないものであるはずなのに、それに反して『教育』があまりなされていないジャンル。それはよくないことなのでは……というところから企画が生まれた経緯があります。

『お金』や『投資』の話というと『どうやって儲けるか』につながるイメージがあるかもしれませんが、たとえば投資をすることは『どんな会社なのか、そこに投資をすることで社会にどんな影響があるのか』を考える機会になります。自分のためだけでなく、世の中をよくするためにお金について学ぶことが大事なのだと考えています」(立川氏)

発売当初から売れ行きは上々とのことだが、「弊社が子供たちに伝えたいと思っていたことと、時代がたまたまマッチしたから」と立川氏は言う。

「10歳」を掲げた理由については「小学3〜4年生くらいの、柔軟な心を持っている時期に読んでほしかった。なので、あえてシンプルでかわいい絵柄にして、『読んでいて疲れない』本を意識しました」とのことだ。

金融にまつわる多数の著書を持つ経済アナリストの森永康平氏は、子供向け書籍『小学生から知っておきたい 使い方 貯め方 増やし方 守り方 マンガでわかる お金の本』(大和書房)を2022年に上梓。

こちらはやや広い年齢層向けではあるが、表紙に学ランの少年が描かれた『森永先生、僕らが強く賢く生きるためのお金の知識を教えてください!』(アルク)も2023年に刊行している。同氏は、子供向けの「お金の本」が今求められているのには複数の理由があると語る。

『小学生から知っておきたい 使い方 貯め方 増やし方 守り方 マンガでわかる お金の本』(大和書房刊)

「児童書を買うのは子供ではなく親です。お金の本を進んで欲しがる子供はそう多くはないと思います。ではなぜ親が子供に『お金の本』を読ませたいかというと、近年『老後2000万円問題』※を発端にして、NISAやiDeCoなどを含めた投資の勉強を始める人が増えました。

それに伴って『もっと早くこの知識を学びたかった』、『子供にはこの苦労をさせたくない』と感じている親が多いのではないでしょうか。僕の本に対しても『自分が子供の頃に読みたかった』という感想をいただくことが多いです。そんな親心が第一にあるのだと思います」(森永氏)

※「老後2000万円問題」
2019年に公表された「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書『高齢社会における資産形成・管理』」内で夫65歳以上・妻60歳の夫婦(無職とする)が「老後」を過ごすにあたって約2000万円が不足するという試算が報告された。「老後2000万円」というインパクトのある数字が呼び水となり、大きな議論になった。あくまでモデルケースの試算であるため「絶対に2000万円必要」というわけではないのだが、この報道をきっかけに投資や投資の勉強を始めた人も多い。

金融教育の必修化と成人年齢引き下げの影響

2022年4月から高校の家庭科授業で「金融教育」が必修になったというニュースも記憶に新しい。
金融庁HPで配布されている資料をみると、家計管理やマネーリテラシーを高める内容であることがうかがえる(「高校向け金融経済教育指導教材の公表について」)。
https://www.fsa.go.jp/news/r3/sonota/20220317/20220317.html

この改定が行われた大きな理由のひとつは、2022年に成人年齢が18歳に引き下げられたことにある。18歳で親の許可なくクレジットカードを作ったりローンを組んだりすることが可能になるため、それに伴うトラブルも予想されるからだ。これも子供向けの「お金の本」が求められる理由のひとつではないかと、森永氏は推測する。

「18歳で大学生になると人間関係の幅が広がります。そこから金銭トラブル、たとえば悪徳商法にひっかかったり、そそのかされて高額なローンを組まされたりしてしまうこともある。これまでは18、19歳は未成年だったので、契約後に取り消すこともできました。それが成人の場合は自己責任になってしまう。それを踏まえて、早いうちからお金に関する知識を身につけておいてほしいと考える親御さんが多いのではないでしょうか」(森永氏)

さらに現代は、親世代が子供の頃に比べて「お金」の使い方も複雑化している。キャッシュレスが当たり前になって現金に触れる機会が減った上に、スマートフォンアプリゲームや動画サイトの「投げ銭」機能で、親の想像を超えた高額な「課金」をしてしまう子供の話をSNSやテレビの情報番組で見かけることも少なくない。

これに関して森永氏は「自分の時代の感覚で子供を頭ごなしに否定するのはよくありません」と言う。

「僕のところにも『ゲーム課金や投げ銭などの無駄遣いをやめさせたい』と相談に来る人は多いのですが、それを『無駄』と思うのは親の価値観ですよね。頭ごなしに否定する前に、ご自身でも一度試してみて、その上で判断してほしいとアドバイスしています。やってみたいのに『ダメ』と言われても、子供は反発するだけですよね」

『森永先生、僕らが強く賢く生きるためのお金の知識を教えてください!』(アルク刊)

「もっと早くに知りたかった」という後悔や、自分の子供時代とは環境が違うという戸惑いのほかにも、親たちが子供向けのお金の本を購入する理由が存在する。

「お金のことについて子供から聞かれても、どう説明していいかわからない親御さんは多いと思います。そういった方に支持されているのかなという感触はありますね。我々大人世代はしっかりしたお金の教育をあまり受けてこなかったので、子供に伝えるのがなかなか難しい。そうした場合に役に立つという側面もあるのではと思っています」(立川氏)

実際、こうした子供向けの「お金の本」には、「クラウドファンディング」や「暗号資産」「NFT」など近年話題のトピックスも解説されている。たしかにこれは大人でもなかなかすんなり説明できるものではないだろう。

「昔から『子供向け』の新聞を読んだり、ニュース番組を見たりして学び直す大人はいたはずです。自分自身が執筆する際は、当然ながら子供たちに向けて書いていますが、『小学生から』『10歳から』という触れ込みなら……と手に取る大人の存在もあるのではないでしょうか」(森永氏)

さまざまな知識をアップデートしていくことが必要な令和の社会ではあるが、忙しい現代人はできるだけコスパよくそれを獲得したい。森永氏の『小学生から知っておきたい 使い方 貯め方 増やし方 守り方 マンガでわかる お金の本』の帯には「将来お金に困らない大人になってほしい!」とある。

そして『10歳から知っておきたいお金の心得~大切なのは、稼ぎ方・使い方・考え方 』の帯には「人や仕事に恵まれる大人になる」とある。

ここにはもちろん「子供にこうなってほしい」という親心があるだろうが、「こうなりたい」という大人もまた対象に含まれている気もしてくる。

少なくとも筆者(42歳)は「お金に困らない大人」「人や仕事に恵まれる大人」……になりたい。子供向けの「お金の本」のヒットの背景にも、さまざまな思惑があるのだろう。


取材・文・構成/藤谷千明 編集/斎藤岬 写真/shutterstock

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