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10年間で飛躍的に伸長した「サッポロ生ビール黒ラベル」は、なぜ20代の心まで掴んだのか。「ブランドの若返りを狙って、訴求ターゲットを若年層に合わせたのではありません」

集英社オンライン / 2023年5月31日 11時1分

サッポロビールの主力商品である「サッポロ生ビール黒ラベル」(以下、黒ラベル)。近年、 “若者のビール離れ”が進んでいるといわれるが、黒ラベルは20代の若年層から支持され、ファンの裾野を着実に広げている。なぜ、黒ラベルは若者の心をつかみ、好調を維持しているのか。サッポロビール株式会社 マーケティング本部の野並祐介氏に話を聞いた。

45年以上の歴史を誇る「黒ラベル」に起きた改革

黒ラベルといえば、「丸くなるな、星になれ。」のキャッチコピーや、「大人エレベーター」シリーズのCMでおなじみのビールだ。

現在の「黒ラベル」という名称が採用されたのは1989年。ビール党からは「黒ラベル」の愛称で親しまれており、それがブランドの正式名称に選ばれた。前身の「サッポロびん生」から数えると、45年以上の歴史を誇る。


2011年から2022年で20代~30代の購入率は飛躍的に伸長している

野並氏は「当初から生のおいしさを追求し、独自の世界観を貫く姿勢が評価されている」と話す。

「発売当時から変わらない『生のうまさ』はもとより、常にお客様起点で考え、いかに共感してもらえるか。そのようなことを意識しながら、黒ラベルならではの生ビール体験や、完璧を目指すための工夫の積み上げが、お客様から長年ご支持いただいている理由だと考えています」

しかし、2000年代に入ると新ジャンル(第3のビール、麦芽を原料としないビールテイスト飲料)や缶チューハイやカクテルといったRTD(Ready to drink)がビール各社から次々と市場に投入され、生ビール時代を拓いた先駆者・黒ラベルの勢いに陰りが生じ始める。

多種多様な種類が並ぶアルコール飲料に埋もれてしまい、黒ラベル本来の魅力が訴求しにくくなったのだ。

このような状況下で、黒ラベルの持つブランドストーリーや生ビールの王道として生のうまさにこだわるという原点にもう一度立ち返り、黒ラベルらしさや独自性を見つめ直すようになる。

「ブランドの若返りを狙って訴求ターゲットを若年層に合わせたのではなく、黒ラベルが大切にしてきたものや価値、姿勢など、ブランドの原点を再度見直しました。お客様とどのようなコミュニケーションをしていけば、時代に求められる商品になるのか。そのように考えて、黒ラベルの世界観が伝わるよう、実直に趣向を凝らしてきた結果として、若年層にも受け入れられたのだと思っています」(野並氏)

2010年には「ブランドパーソナリティの強化」にも着手。黒ラベルの特徴である探究心やこだわりといったブランドの個性を具現化し、自分なりの価値観を持った“大人”が飲む憧れの存在としてアピールする方針を打ち出した。

時代性、個性、20代にも刺さったCMキャスティング

その最たるものが「大人エレベーター」シリーズのCMである。

「黒ラベルのブランドメッセージ『丸くなるな、星になれ。』にあらためて着目し、黒ラベルに対してお客様が思うイメージを、アンケートやヒアリングを通して可視化していきました。すると、『憧れの存在』や『芯の通った大人が選ぶビール』といった声が多かったんです。

こうしたお客様のイメージをコンセプトの核に据え、新たな付加価値として打ち出せれば、ブランドの成長に寄与する……そう考えて、取り組んだのが『大人エレベーター』シリーズのCMだったんです」

期間限定で発売される遊び心あふれる「コラボ缶」も若者から人気

CMに起用したタレントや芸能人のキャスティングは、社員みんなで議論しながら、選定していったそうだ。時代にマッチしているか、自分らしさを持っているか、20代にも刺さる人なのか。「大人」や「憧れ」という言葉にぴったりな人選と絶妙な起用のタイミングなどが相まって、同CMシリーズは黒ラベルを象徴するもののひとつとなった。

そして、2014年には飲食店向けに展開する取り組みである「パーフェクト黒ラベル」をスタートさせる。

生のおいしさにこだわり続け、極限まで品質や味わいを追い求めてきた黒ラベル。

そこから、さらに「完璧な生ビール体験」を提供し、最高の一杯を目指したのがパーフェクト黒ラベルとなっている。

生ビール本来のおいしさや香りが生きる徹底した温度管理、ミクロン単位のきめ細かい泡、丁寧に洗浄されたクリアなグラス。

クリーミー、クリア、コールドの3つにこだわったパーフェクト黒ラベルは、厳しい基準をクリアした飲食店のみが提供を許されるもので、黒ラベルのブランド価値を引き上げる大きなきっかけになった。

「ターゲットを若年層に合わせたのではなく…」

また、2015年から西日本への販売網の強化や、黒ラベルの世界観を体験できるリアルイベント施策を本格化するようになったことも飛躍の一因だという。

ワゴン販売やポップアップ店舗、ビアガーデンへの出店など、リアルでのブランド接点を作ったことで次第に若年層にも黒ラベルの魅力が伝わるようになっていく。とりわけ、ライブやフェスといった若者が多く集うイベントへのブース出店は、黒ラベルの世界観を訴求するのにうってつけだった。

ホームページでも出店するフェスを「黒ラベルフェス」として告知している

だが、単に白いテントで出し、ビールを販売するのではなく、黒ラベルの「黒」を基調にディテールにこだわり抜いたブースを設営することのを大事にしているという。

「シックでクラシカルな雰囲気をまとった重厚感のある黒ラベルのブースでは、大人が語り合いあえるバーのような空間を意識し、他のブースとは一線を画すような存在感を出すことに注力しています。

採算についても度外視というわけではありませんが、黒ラベルの世界観を出すことにかなりこだわっているので、目先の売り上げよりもブランディングや黒ラベルのファンになってもらうことを優先に考えています。

黒ラベルらしさを追求したブースに立ち寄っていただけたお客様の中には、注ぎ立てのカップを掲げ、写真を撮ったりしている方も多く、ブランド認知の向上に大きな効果を発揮していると実感しています」

また、フェスで提供するビアカップにも工夫を凝らしている。環境に配慮し、植物由来の生分解性素材を95%以上使用したプラカップで、泡や温度、注ぎにこだわったパーフェクト黒ラベルを提供しているという。

植物由来の生分解性素材を95%以上使用したプラカップ

こうした随所に見られる黒ラベルの世界観の体現は、新たな競争軸として機能し、自然とお客の心をつかんでいったのではないだろうか。

あのブランドとの意外なコラボも…

2019年からは通年型フラッグシップ店の「サッポロ生ビール黒ラベル THE BAR」を銀座にオープンし、完璧な生ビール体験をより多くのお客様に届けるために取り組んでいる。

銀座で常設されている「THE BAR」は一人2杯まで

今年は西日本エリアの大阪や福岡でTHE BARのポップアップを展開し、マーケティング活動を行っていくという。

直近ではビールのみならず、フィジカルアイテムの販売にも手を広げており、黒ラベルの会員サイト「CLUB黒ラベル」内のオンラインショップでは、キャップやデイバッグといったアパレル商品が並んでいる。

また、アウトドアブランドの「カリマー」とコラボしたバックパックには保冷機能が付いており、ビール党の心をくすぐるユニークな商品も販売している。

「カリマー」とコラボしたバックパック

「2022年に、麦芽やホップを収穫する際に廃棄される茎や葉を再利用したアップサイクルジーンズを販売したんですが、予想を大きく超える反響を呼んで、30本限定の抽選販売に対し、なんと1600件もの応募があったんです。今は普通に購入できるようになっていますが、ビール以外のフィジカルアイテムでも黒ラベルのブランド体験や世界観を訴求できるようにしていきたいですね」

ビール市場の縮小、酒税の一本化、物価高騰…など外的環境は厳しい状況にあるといえるが、今後も黒ラベルのブランド成長につながる取り組みを行っていくと野並氏は話す。

「お客様の求めている体験の質やニーズの一歩先を見越して、『機能的価値』と『情緒的価値』の両輪でブランド訴求していくことが大切だと捉えています。コロナ禍でできなかったリアル体験を軸に、黒ラベルの魅力をもっと多くに人に広めていきたい。今はそう考えています」

取材・文/古田島大介 画像提供/サッポロビール株式会社

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