「『NARUTO-ナルト-』があったからここまで生きて来れた」と言い切る『サスケ烈伝』の木村慎吾。岸本斉史へのほとばしる愛とリスペクトと切磋琢磨
集英社オンライン / 2023年6月2日 10時1分
「少年ジャンプ+」にて連載された『NARUTO-ナルト-サスケ烈伝 うちはの末裔と天球の星屑』(以下、サスケ烈伝)の下巻が発売中だ。本作の漫画を担当した木村慎吾氏に、『NARUTO -ナルト-』(以下、NARUTO)と岸本斉史氏に対する深い愛情や、マニアックすぎる“NARUTO研究”について話を聞いた。(全3回の第2回)(サムネイル、トップ画像:『NARUTO-ナルト-サスケ烈伝 うちはの末裔と天球の星屑』上巻表紙イラストの線画)
岸本先生の作業風景が映っているDVDを一時停止し、すべてチェック
【注意】このインタビューは、漫画『NARUTO-ナルト-サスケ烈伝 うちはの末裔と天球の星屑 』のネタバレを含みます。ご了承いただける方はお読みください。
――『サスケ烈伝』のタッチは、岸本先生の絵にとても似ていると個人的に感じています。岸本先生ご自身も「自分が描いてると思った」とおっしゃったそうですが、なぜ『NARUTO』にここまで絵を近付けることができたのですか?
上手くできたな、似せられたなって思う部分もあるんですけど、正直なところ、全体を通してはあまり似せられていないな、と自分では思っています。でも、そうおっしゃってくださっているのは、すごく嬉しいです。
――これまでに岸本先生の研究などをされましたか?
『NARUTO』の複製原画を拡大コピーして、実際の線の太さを確認したりしていました。僕が持っている複製原画は見開きでA3サイズなんですけど、本来はB4×B4で描かれているので、片方A4サイズのページをB4に拡大して、「岸本先生はこのくらいの線の太さで描いているんだ」みたいな。
今回、それを意識して描いていたんですけど、複製原画は見開きの絵なので、同じ線でコマ割りを描いちゃうと太くなり過ぎちゃうんです。『サスケ烈伝』の上巻は線が野暮ったいな、と今は感じています。
――今回、『サスケ烈伝』を描くことが決定してから、そのような研究を始めたのですか?
高校生の頃からジャンプと単行本を見比べて、「ここちょっと違うな」とか、「あ、ここ効果線入ってる」とかの研究はしていました。
岸本先生は服の汚れとかをGペンでチョンチョンって描いたりするんですけど、単行本作業では、それをポスカの極細ペンで加筆していたりするんです。そのマネをしてみたりとか、そういった細かい部分ですね。
――すごい研究熱ですね。
2016年くらいに発売された、岸本先生の作業風景がDVDに収められている『ジャンプ流』という本があって、その「創作の現場から」という章に、岸本先生の仕事場の机と本棚が背景として写っているんですけど、そこに『NARUTO』ではない別の本が置いてあるんです。
「その本を岸本先生は読んでいるんだ」と思って、背景なんでくっきりとは見えないんですけど、DVDを一時停止して、「“ストーリーライター”とか“ロードマップ”とか書いてある」と突き止めて、該当する本をネットで検索して、全部買って読んで、みたいなことをやっていました。
「紙にただ描いてあるだけなんだ!すごっ!」
――ほかにはどんな研究をされましたか?
連載が完結した2015年に『NARUTO展』があって、その公式ガイドブックを今日持って来ているんですけど、岸本先生が当時作業されていた地元の図書館の席を再現したコーナーの写真が載っていて、席の周辺には岸本先生の仕事場に収められていた書籍やDVDが展示されていたんです。
僕の予想では「その本棚の中で、表紙が見えている作品が、岸本先生のお気に入りなんじゃないか」と思っていて。『HUNTER×HUNTER』とか『無限の住人』とか、クエンティン・タランティーノの映画とか『エリジウム』とか、『第9地区』や『ユージュアル・サスペクツ』とか。そういう映画や本の中で、自分がまだ見たことのなかったものを買って、読んだり見たりました。
――岸本先生への愛がすごいですね。
高校生の頃から、岸本先生と沙村先生を1~2年おきに、スマホのホーム画面に設定しているんですけど、友達に携帯を見せると「この人誰?」と不思議がられます。
――「『NARUTO』の絵ではなく、岸本先生ご本人のお写真なんですね。
ご本人です。今も岸本先生がホーム画面なんですけど、これは『ダ・ヴィンチ』(KADOKAWA)で特集されたときに掲載された写真ですね。
――ちなみに『NARUTO展』で実際に原画を見て、どう感じましたか?
「紙にただ描いてあるだけなんだ!すごっ!」と思いました。
当たり前だし、頭では理解しているんですけど、実際に原画を生で見ると、フレームの奥に世界が広がっている、空気がある、質量がある、人物がいる、ということを、「説得力の暴力」で伝えてくる感じがして、すごく衝撃的でした。
――その「説得力の暴力」を突きつけられて、どう感じましたか?
嬉しかったです。もちろん、岸本先生がなさっていることは高度な技術なんですけど、「紙があれば、自分でも世界を作れるんだ」と実感しました。
自分はまだその域じゃないけど、頑張ったらそうなれるし、その材料はある。身につけさえすれば、いつか自分も出来るんだ、と。それまで見えていなかった部分がどんどん見えてきて、より立体的になってきた感じがしました。
「近づけることによって何か得られるものがあれば」
――個人的な意見ですが、『サスケ烈伝』のカメラワークは、岸本先生のそれに似ているな、とも感じました。
たぶん、染みついたものなんじゃないかな。でも、自分で1から作る作品だったらこうやるけど、岸本先生だったらここをあえて遠巻きのレンズでやるな、とか、そういう意識はあったので、そこはあえて挑戦しました。
岸本先生にお会いした時に「廊下で “瑪瑙(めのう)”と戦うシーン、狭い通路でカメラの位置が難しいのに、すごいね」と言ってくださって、本当にありがたかったです。岸本先生こそ、狭い路地で戦うかっこいいシーンをたくさん描かれているので、そこへのリスペクトが伝わって欲しいな、と思っていたので。
あとは変に構図をつけないで、あえてフラットに見せたりするのも意識していましたね。
――もし、『サスケ烈伝』を岸本先生が描くなら、という意識があったということですか?
ところどころの大きいコマは岸本先生っぽくしたいな、という意識があって。そこまで意識しなくていいよ、と先生はおっしゃるかもしれないんですが…ちょうどその頃、自分の絵に対して悩んでいた時期だったので、先生に近づけることによって何か得られるものがあれば、と思っていました。
岸本先生のマインドとシンクロ
――岸本先生が好きすぎて、むしろ辛くなったりはしますか?
『サスケ烈伝』を描いている時は、やっぱり世界中に『NARUTO』を好きな人がいるんで、「そのイメージを汚しているんじゃないか?」と思った時もあったんですけど、でももう「やったれ!」と思って。
――最終話の最後のコマの構図で、木村さんと岸本先生のネームがシンクロした、というエピソードを伺ったのですが、お聞きしてもいいですか?
サスケとサクラの後ろ姿を描いているコマがあるんですけど、「最終話にサスケの顔があんまり映ってないので、後ろ姿ではなく、こちら側を向いているのはどうでしょうか?」と担当編集さんにご提案いただいて。「なるほど、その視点はなかった!」と思って、すぐ体の向きを正面側に変えたんですよ。
その修正後のネームを担当編集さん経由で岸本先生にお見せしたら、岸本先生がその最後の1ページ分のネームの修正案をわざわざ描いてくださって、それが最初に自分が描いた構図とほぼ同じで、サスケとサクラの後ろ姿だったんですね。
そうしたら担当編集者さんから「すみませんでした。木村さんからの信用を失ってしまいました」と謝られて(笑)。
実は岸本先生がその前にもネームを1ページ描いてくださっていて、すごく興奮したんですけど、また描いてくださったことにまずびっくりしましたし、自分のマインドが岸本先生とちょっと似ていたようで、嬉しかったですね。
愛が止められなくなって、ダムが決壊
――『サスケ烈伝』を描く前と描いた後で、ご自身の中で何か変化はありましたか?
もう、NARUTO愛が止められなくなって、ダムが決壊したみたいな感じになっているんです。
『サスケ烈伝』を描く前は、やっぱり自分の作家性やオリジナリティのある絵柄を追求しなくちゃいけない、という気持ちがあって。無意識のうちに『NARUTO』を遠ざけていたんです。
逆に今まで自分が読んでなかったようなものから吸収しよう、と思っていた時期に「『サスケ烈伝』を描きませんか?」というお話が来て。そこから改めて『NARUTO』を読み始めたら、また愛が止められなくなっちゃって。
なんて言うんですか、『NARUTO』があったからここまで生きて来れた、と言っても過言じゃないくらいなんです。
――今後の展望はいかがですか?
描きたい話はあって、担当編集さんと切磋琢磨して、コンペに通れればいいな、と。『サスケ烈伝』を描かせてもらって、「自分の好きに正直でいよう」とも思いました。
描く前は、変に頑張っていろいろなことに挑戦していたんですけど、今は「〇〇っぽくなっちゃうけど、それもいいかな」と。もちろん、変えてはいきたいんですけど。なんかあんまりうまく言えないんですけど、うん、そんな感じです。
取材・文/佐藤麻水
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