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【SDGsにモヤッ?】SDGsという「正義」を振りかざす大人に疲れてしまう子供たち。あなたは「サステナブル」の強要をしてしまっていませんか?

集英社オンライン / 2023年6月7日 9時1分

SDGsは決して無駄なものではないが、国連が制定している2030年までに実現するものではない。世界全体が幸せになるための指針として、「ぼちぼち」付き合うことが大事だと説くのは大学教授である酒井敏氏だ。SDGsのうち、特に「サステナブルな目標」が若者を追い詰めてしまう危険性を『カオスはSDGs グルっと回せばうんこ色』より一部抜粋・再編集して紹介する。

SDGsとぼちぼち付き合う感覚

私は静岡県立大学では、地元の高校生と一緒にいろいろなことを学ぶ「高大連携プログラム」にも関わっています。そして、これも当然の流れとして、いまはSDGsがテーマとして選ばれやすい。

高校側としては、世の中で注目されているテーマを掲げたほうが多くの生徒を集められますし、予算も取りやすいという事情もあるでしょう。プラゴミを分別収集すると国からの補助金が出るのと、ちょっと似ています。



しかし、大学生でも心配なのですから、もっと純粋な高校生となると、さらに慎重にやらなければいけません。それこそプラスチックのリサイクルひとつ取っても、単純なキレイゴトの向こう側には複雑な「大人の事情」があります。若い正義感にブレーキをかけすぎてはいけませんが、アクセル全開になるのも危ない。

SDGsと「ぼちぼち」つき合っていく感覚を高校生に伝えるのは簡単ではありませんが、少なくとも、そういうプログラムを設定する大人の側がそれなりの分別(こちらはブンベツではなくフンベツ)を持っておくべきだろうと思います。

ただ、少し意外だったのは、SDGsをテーマとする高大連携プログラムで、環境問題を選ぶ高校生があまり多くなかったこと。

世間では、SDGsといえば地球温暖化や海洋プラスチックの問題を思い浮かべる人が大半ですが、このプログラムではジェンダーや人権、貧困などの問題を選ぶ人がほとんどでした。扱う範囲の広い環境問題より、それらの社会問題のほうが、高校生にとっては身近に感じられるのかもしれません。

「いまの自分」を犠牲にしてはいけない

貧困問題にも京大生を哲学に向かわせてしまうような矛盾や葛藤があるので、「ぼちぼち」取り組むべきなのは同じでしょう。しかし環境問題は、SDGsの目標の中でも若者の正義感が先鋭化しやすいので、高校生にはとくに「取り扱い注意」のテーマです。

問題意識が先鋭化して、「学問」や「勉強」が社会運動のようなものになっていくと、そもそも否定しにくいキレイゴトが、ますます自分自身にとって揺るぎない絶対的な価値を持つものになるでしょう。そうなると、勉強の対象だったものに、自分の生活が縛られてしまう。極端な話、たとえば「脱プラスチック主義」が先鋭化すれば、レジ袋やストローはもちろん、あらゆるプラスチック製品の使用に嫌悪感を持つようになるかもしれません。

しかしプラスチックは現代の文明社会に欠かせないので、それをすべて排除しようと思ったら、ひどく不便で不経済な生活になってしまいます。正義感に燃える運動家は「サステナブル(持続可能)な世界にするためには仕方がない」と思って我慢するかもしれませんし、そういう自己犠牲に満足感を覚えることもあるでしょう。でも、それは決してSDGsの方針に沿うものではありません。

というのも、国連の定義によれば、「持続可能な開発」とは「将来の世代がそのニーズを満たせる能力を損なうことなしに、現在のニーズを満たす開発」のこと。「サステナブル」という言葉を聞くと、現在よりも将来の世界を大事にするようなイメージを抱きがちですが、SDGsは未来のために「いま」を犠牲にしろと言っているわけではありません。

現在に生きる私たち自身のニーズを満たしながら、将来世代のニーズも満たしましょう、という話です。だからこそ難しいわけですが、「いまの自分」の生活を大事にすることも忘れてはいけません。

2015年に未達成に終わったMDSs

そもそも、SDGsが掲げた盛りだくさんな目標は、持続可能な社会を築くために「最低限これぐらいは念頭に置いておきましょうよ」というものだと私は受け止めています。一応は「2030年までに達成する」としてはいますが、具体的な数値目標があるわけでもありません。

ちなみに国連は、SDGsを立ち上げる前に、おもに開発途上国の課題に焦点を当てた「MDGs(ミレニアム開発目標)」を掲げていました。その達成期限は2015年でしたが、「極度の貧困と飢餓の撲滅」や「ジェンダー平等推進と女性の地位向上」といった八つの目標が完全に達成されたとは思えません(もちろん一定の成果はありましたが)。

ちなみにMDGsの七番目は「環境の持続可能性確保」ですから、明らかに未達成。言うまでもなく、現在もその努力は継続中です。

SDGsは、そのMDGsをバージョンアップした後継プロジェクトと位置づけられます。2030年の達成期限を迎えたら、おそらくMDGsと同じようにお役御免となり、また新たな旗が用意されるに違いありません。

国連としては、そうやって「みんなが楽しく幸せに暮らせる世界にするために、最低限これぐらいは考えましょうよ」と言い続けることで人々の意識を変え、少しずつ世界を良い方向に転換させたいのでしょう。せめて、持続可能性を高めることに対して後ろ向きな人たちを減らしたい。本音はそれぐらいのことだと私は思っています。要するに、国連も「ぼちぼち」やっている。だから、明確な達成基準もありません。

そういう漠然とした努力目標にすぎないのですから、その趣旨に賛同しつつ、無理のない範囲で取り組めばいいのだと思います。いずれにしても、SDGsのために個々人の暮らしが楽しくなくなったのでは本末転倒です。

いくらか我慢して生活スタイルを変えることはあるかもしれませんが、「自分も楽しく幸せに暮らしたい」という当たり前のニーズを犠牲にしてまでやるようなことではありません。むしろ、「いかに楽しく生きるか」という自分の生活の持続可能性を考えることも含めて、SDGsだと言ってもいいのではないでしょうか。

若者たちの「サステナブル疲れ」

ところが、いまはとくに若い人の中に「SDGs疲れ」や「サステナブル疲れ」が広がっているという話も聞くようになりました。高校や大学でSDGsを積極的に取り上げるようになると、良い成績を取りたい若者はそれを避けて通ることはできません。

さらに就職活動をする学生は、企業説明会でもSDGsセミナーのようなものを受けることがあるそうです。社会の持続可能性に無関心な人間は高く評価されないのではないか、というプレッシャーを感じてしまったとしても無理はないでしょう。

そういうストレスを与えるのは、大学や就職活動の場だけではありません。SDGsの影響もあって、近年は「サステナブル」を謳う商品も増えました。それを使っていると「いい人アピール」ができるので、たとえばステンレス製のストローのような脱プラスチック商品など、サステナブルな持ち物の写真を頻繁にSNSにアップする人もいるようです。

それはそれで個人の自由ですが、いちいちそれを見せられるほうはなんとなく「みんなも使えば?」というプレッシャーを感じます。

そういう人の中には、直接「まだプラスチックのストローなんか使ってるの?」と批判めいた調子で言ってくる人もいるでしょう。「正義」を背負った人が自分の日常生活に介入してくるのは、気持ちのいいものではありません。

また、自分で自分に「こうあらねばならない」とプレッシャーをかけている人もいると思います。脱プラスチックや省エネなど、環境への負荷を軽くするための「エコ」な生活スタイルを徹底しなければならないと自分に言い聞かせて、その不便さに耐えている。

それこそ家庭ゴミの分別だけでも、厳密にやろうとすると「これはどっちなんだ?」といちいちネットで検索して調べたり、パッケージの金属部分と紙部分を分けるために解体したりなど、けっこうなストレスになるでしょう。

毎日のことですから、完璧を目指していたら疲れてしまうのも当然です。


文/酒井敏 写真/shutterstock

カオスなSDGs グルっと回せばうんこ色

酒井 敏

2023年4月17日発売

968円(税込)

新書判/208ページ

ISBN:

978-4-08-721259-4

【元京大変人講座教授、SDGsにモヤモヤする!】
近年声高に叫ばれる「SDGs」や「サステナブル」といった言葉。環境問題などの重要性を感じながらも、レジ袋有料化や紙ストローの導入、そしてSDGsバッジなどの取り組みに、モヤモヤしている人は少なくないのではないか。

「京大変人講座」を開講した著者は、大学で「SDGs担当」になったことをきっかけに、その言説や取り組みに違和感を覚えた。人間や地球環境にとって、ほんとうの「持続可能性」とは何か。名物教授が科学的観点と教育的観点からSDGsのモヤモヤを解き明かす。

【おもな内容】
プロローグ 「キレイ」なSDGs
第1章 危ういSDGs
第2章 プラゴミ問題で考える持続可能性
第3章 地球温暖化とカオス理論
第4章 無計画だからこそうまくいくスケールフリーな世界
第5章 日本社会の自由度をいかに高めるか
終章 うんこ色のSDGs

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