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“沖縄イヤー”にBリーグ初優勝。琉球ゴールデンキングスはなぜ“史上最強軍団”を倒せたのか?「小さい者たちが大きい者に挑んでいくのが沖縄バスケのルーツ」

集英社オンライン / 2023年5月29日 18時16分

5月27日~28日に行なわれたBリーグファイナルズで悲願の初優勝を成し遂げた琉球ゴールデンキングス。今季、Bリーグ史上最多勝利数を記録した千葉ジェッツを圧倒できたのはなぜか? バスケが文化として根付く沖縄に今、新たな風が吹いている。 (サムネイル、トップ画像: ©B.LEAGUE)

バスケが文化として根付く沖縄

「追いかけっこをするときに、『追いかけっこが下手だから』という理由で参加させてもらえないことなんてないですよね? それと同じようなことなんです」

以前そう語っていたのが、岸本隆一である。沖縄県名護市出身で、沖縄市に本拠地を置く琉球ゴールデンキングス(以下、琉球)で長年キャプテンを務めてきたレジェンドだ。



身長は176cm。日本のプロバスケットボールのBリーグには、国内出身選手でも身長が2m前後ある選手がゴロゴロいるため、岸本はプロバスケ界ではかなり小さい部類に入る。マンガ『SLAM DUNK』で描かれた宮城リョータのように。

大東文化大学在学中の4年間だけ沖縄県外で暮らした経験のある岸本は、以前、「追いかけっこ」を例に沖縄の事情をこんな風に説明していた。

「沖縄県外では、バスケが上手な人しかコートを使うことを許されないような“空気”があるんです。誰もが利用できるバスケットコートの数が(沖縄と比べて)少ないことも関係しているとは思うのですが…。

でも、沖縄の場合は違います。

僕から見ても『上手だな』と思うような子から、お世辞にも上手ではない子まで、さまざまで。追いかけっこと同じ(構図)ですよね。沖縄は、リングにボールを通すことを純粋に楽しむ人であふれている。そんなところから『沖縄ではバスケが文化として根付いているんだ』と感じますね」

そんな地で、「沖縄をもっと元気に!」をスローガンとして活動してきたのが琉球だ。

ただ、彼らは沖縄だけではなく、日本全体を元気にするかもしれない。沖縄に風が吹いている最高のタイミングで悲願の初優勝を成し遂げたからだ。

昨年末からの約1年間は「沖縄イヤー」

© I.T.PLANNING,INC. © 2022 THE FIRST SLAM DUNK Film Partners

いったいどういうことか。順を追って説明していこう。

まず、昨年12月、映画『THE FIRST SLAM DUNK』が公開された。そこで沖縄県出身の宮城リョータのルーツがしっかりと描かれているのは周知の通り。宮城の声優を、沖縄県出身の仲村宗吾(身長も宮城と同じ168cm)が任されるほどの徹底ぶりだった。現在、本作は中国をはじめ海外でも熱狂的に受け入れられている。

さらに、今年8月から9月にかけてフィリピン、インドネシア、日本でバスケW杯が開催されるが、日本での試合はすべて沖縄で行なわれる。そして、その会場となる琉球のホーム・沖縄アリーナでは、2024年初頭にはBリーグのオールスターが開催される予定だ。

つまり、昨年末の映画『THE FIRST SLAM DUNK』公開からのおよそ1年間は“沖縄イヤー”とも言える期間なのだ。

そんなタイミングで、琉球は初優勝した。

しかも、決勝を戦った相手が、“日本バスケ史上最強チーム”だったから、その価値はさらに大きい。

5月27日から行なわれたBリーグファイナルズで顔を合わせた千葉ジェッツ(以下、千葉)は、Bリーグ優勝が1回で、準優勝も2回。天皇杯優勝は4回を数える。Bリーグ創設からの獲得タイトル数はもちろん最多だ。何より、今季のレギュラーシーズンでは53勝7敗というBリーグ史上最多勝利数を記録した伝説のチームである。

彼らの武器はスピードと、多くの3Pシュートを決めてくる攻撃力だ。

Bリーグでは屈強な外国籍選手がセンターなどゴールに近いポジションを占めるのが一般的なのに対して、彼らはスピードと上手さのあるアウトサイドのポジションの外国籍選手を2人(*1チーム3人まで)も要している。これは日本代表が目指す「スピード」と「3Pシュート」を武器にしたスタイルとも重なるものだ。

そうした背景から、戦前の下馬評は「千葉が優位」という声が圧倒的だった。

しかし――。

「小さい者たちが大きい者に挑んでいくのが沖縄バスケットボールのルーツ」と岸本が常々語ってきたとおりの構図で、Bリーグで最も収入のある千葉を相手に、琉球は世間をアッと驚かせた。

ファイナルズは最大3試合、2戦先勝方式で行なわれるのだが、琉球は“史上最強チーム”を相手に無傷の2連勝で優勝したのだから。

勝因は『SLAM DUNK』にも通ずる「全員バスケ」

©B.LEAGUE

勝因のうちの2つは、マンガ『SLAM DUNK』にも共通するテーマだった。

1つ目が「オフェンスはディフェンスから」という名セリフに通じるような強固なディフェンスだ。

千葉と日本代表の両方でキャプテンを務める富樫勇樹はこう語る。

「琉球のディフェンスや、その準備にやられました。(自分たちのやりたいことを)やらせてもらえなかった。今季、ここまで苦しめられた試合はほかになかったので」

もう1つが、「お前の為にチームがあるんじゃねぇ チームの為にお前がいるんだ」というセリフにつながるような「ベンチメンバーの活躍」だ。

琉球の返り討ちにあった千葉のジョン・パトリックHC(ヘッドコーチ)は、こう振り返る。

「うちのスターティングメンバーはけっこう善戦しました。でも、ベンチから出てくる選手たちのポイント(得点)が全然違った。今季を通して、うちのベンチから出る選手たちは強かったのに! 残念ですけど、今回のファイナル“だけ”は違った」

琉球には、大半の試合でベンチから出場する牧隼利という選手がいる。相手のエース富樫を抑える仕事を筆頭に守備で奮闘し、攻撃でも効果的な3Pシュートを決めた牧は言う。

「レギュラーシーズンから、(琉球の)桶谷大HCは僕たちセカンドユニット(*スタメンの選手たちが一度ベンチに下がるタイミングで出場する選手たち)が上手くいかない時間帯も、信用して、使い続けてくれていました。それが、最後によい形につながりました。コーチからの信頼や期待を胸に、臨めたことがよかったのだと思います」

マンガ『SLAM DUNK』で描かれていることがバスケの本質であると証明するかのごとく、「守備を軸にした全員バスケ」で金星をたぐり寄せた琉球だった。

沖縄から日本をもっと元気に!

撮影/ミムラユウスケ

沖縄出身の岸本には、悲願の優勝を遂げた今だからこそ、実感したことがある。

「(沖縄の)県民性みたいなものでもあると思うんですけど、新しいものを受け入れることができなかったり、変化できずにいることが、沖縄の文化には少なからずあるのかなと思っていて。

でも、よいものをどんどん取り入れ、進化して、より大きいものを生み出していくことにも、すごく価値があると思います。それが、最終的には沖縄のためになると思っていますから。

優勝に値する選手たちが集まり、いろいろな変化の中で、今回の優勝を成し遂げたと思うので。『変化を恐れず、前進することが価値を生み出す』。それは薄々感じていたことではあったのですが、今日、確信に変わったと思います」

琉球の5代目キャプテンとして、長くチームを引っ張ってきた岸本は今もリーダーシップを発揮し続けているが、実はキャプテンの座は2019年に譲っている。

6代目キャプテンは、初代の吉田平以来となる県外出身の田代直希という選手だった。田代は大学卒業と同時に琉球に入った生え抜き選手であるが、出身はライバル・千葉の本拠地である千葉県船橋市だ。

ほかにも、昨季はコー・フリッピン、今季はジョシュ・ダンカンと、千葉で優勝を経験したメンバーも加入した。フリッピンはファイナルズでの21得点で日本生命ファイナル賞を手にしたし、ダンカンはセミファイナルでMVP級の活躍を見せた。

チームを率いるのは、ときおり響かせる関西弁のイントネーションがチャーミングな京都府出身の桶谷だ。

彼らだけではない。琉球は沖縄を大切にしながらも、県外からの人たちを温かく迎え入れてきた。そして、それがチームの成長につながった。もちろん、岸本のような沖縄の歴史と伝統を体現できる選手がしっかりと沖縄の地に根を下ろしているから、それが可能だったのは言うまでもない。

映画『THE FIRST SLUM DUNK』の大ヒットがあり、沖縄でバスケW杯が開かれ、Bリーグのオールスターも控える。そんな最高のタイミングで、琉球は頂点に登りつめた。

時代を変えるためには、不断の努力が必要だが、それだけでは足りない。汗と涙でまみれた努力という土台の上に、最高のタイミングを逃さない感性と知性が必要となる。

長年の努力が結晶となり、日本だけではなく世界の目が沖縄に向くタイミングで彼らはチャンピオンになった。

「沖縄をもっと元気に!」というスローガンを掲げる彼らは、「沖縄から日本をもっと元気に」してくれるのかもしれない。この優勝にはそう期待させるだけの価値があることを見落してはいけないだろう。

取材・文/ミムラユウスケ

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