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〈生前贈与のルールが変わる〉家族や大切な人を不幸にしないために。「遺言書は“人生最後のラブレター”なんです」

集英社オンライン / 2023年6月14日 12時1分

令和5年度の税制改正で注目される生前贈与。今のうちに準備を始めるなら、まずは遺言書の存在を知ってほしい。経堂司法書士事務所の代表で、“遺言伝道師はしトモ”としても活動している高橋朋宏氏に、相続のこれからや遺言書の必要性などについて聞いた。

税制改正で生前贈与の注目度が高まる

――令和5年度の税制改正で、贈与税や相続税のルールはどう変わるのでしょうか?

大枠で言うと、若い世代にお金を移しやすくなったと思います。子供や孫に生前贈与するときの仕組みには、暦年課税制度と相続時精算課税という2種類があって二者択一なんです。まず、暦年課税制度とは、毎年110万円までは贈与を受けても贈与税がかからない。一方、相続時精算課税とは、合計2500万円までドーンとまとめて贈与を受けても贈与税がかからないけど、贈与した人が亡くなったときに相続税で精算してね、という仕組みですね。



――つまり、どっちが“お得”なんですか?

多くの場合、相続時精算課税ですね。「相続時精算課税を使っても毎年110万円ずつの控除枠を設ける」と変わったことで、課税を後ろ倒しにできる元々のメリットがありながら暦年課税制度と同じように年間110万円まで非課税で贈与できるようになったんです。今まではどちらを選べばいいのかがわかりにくかったんですけど、今回の税制改正により国は完全に優劣をつけたんだと思います。

経堂司法書士事務所の代表、高橋朋宏氏

――優劣ということは、逆に暦年課税制度は選びづらくなった?

今までは年間110万円ずつ贈与税をかけずに贈与できて、持ち戻し期間として亡くなる前の3年間の贈与に関しては相続財産として相続税が課される仕組みだったんです。それが今回の税制改正で、4年もプラスされて「亡くなる前の7年間の贈与に関しては相続税を課税する」に変わってしまった。つまり、毎年110万円ずつの贈与を始めても7年以内に亡くなってしまったら、全てに相続税がかかってきてしまうという話です。

――課税期間が延びたということは、もっと早いうちから準備しておいたほうがいいですね。今回の改正で遺言書の必要性は高まると思いますか?

生前贈与に注目が集まっている今こそ、遺言書の必要性が高まると思っています。なぜなら、全てを贈与できるわけではないので生前贈与だけでは、不十分なんですよ。残った財産については「誰が何を相続するのか」という話し合いが必要ですけど、遺言書があればあらかじめ決めておくことができます。

遺言書は15歳から書ける

――なぜ、遺言書を書く必要があるんでしょうか?

法定相続分という目安は決まっているんですけど、不動産や有価証券など簡単に分けられないものもあるわけで。相続人全員での話し合い、専門用語でいう「遺産分割協議」をしないといけない。これは全員参加の全員一致じゃないと成立しない協議なので非常にハードルが高い! 家族も知らない隠し子が現れて……なんてことも起こり得るし、連絡先がわからない人はどうしようって場面に出くわすこともある。そんな時に遺言書さえあれば、遺産分割協議をせずに相続を進められるんです。

――とはいえ、遺言書って高齢になってから書くものじゃないんですか?

いいえ、高齢になってからじゃ遅いですよ。人っていつ死ぬかわからないですし、僕は43歳ですけど、すでに書いています。遺言書って、自分が死んだ時のことを想像して、誰にどんな財産や言葉を残したいのかを考えながら書くんです。そこから自分が大切にしている価値観とか、気持ちを伝えたい大切な人が見えてくる。そういう意味では年齢なんて関係ないと思うので、30代40代の若い世代の方もぜひ、遺言書を書いてもらいたいなと思っています!

――ズバリ、何歳くらいから書いたらいいと思いますか?

ちょっと過激に聞こえるかもしれないですけど、「15歳以上になったら書きましょう!」と思っています。法律上、遺言書を書けるのは15歳からって決まっているんですよ。15歳以上なら誰でも書けるんだったら、もう書こうよと。

――実際、10代20代で遺言書を書きたいって人はいるんですか?

残念ながら、まだ聞いたことがないですね。若い世代にどうアプローチしていくかが今後の課題でもあります。死を連想させるからか、一般的に遺言書はネガティブなイメージを持つ方が多いので、「この先を生きていくために必要なポジティブなもの」として認知していきたい。いずれは、中学生や高校生の学校教育として遺言書の授業ができたらいいなと思っています。

遺言書を書くことは“人生の棚卸し”

――そんな高橋さん、遺言書に心酔しすぎて“遺言伝道師はしトモ”と名乗っていますよね?

遺言伝道師として「一億総遺言書計画」という活動を進めています。一般的に遺言書は、自分が死んだあとに残された人へ書くと思われがちですが、僕は誰かのためだけでなく自分のために書くものだと思っていて。実際、書いていくには自分の生き方を振り返らなければいけない、「人生の棚卸し」になるんです。その価値を広めていきたいと思っています。

――具体的にはどんな活動を?

遺言書を書く体験ができるワークショップやオンラインサロンのほか、プロモーションとして遺言ソングのリリースやSNSにも力を入れています。

――司法書士はお堅いイメージがあるので意外でした。

歌って踊っています(笑)。やはり、世の中の人って遺言書に興味ない人が多いんですよ。そういう人たちにも「遺言書ってなんか面白そうじゃん」と興味を持ってもらえるようにダンス動画、専門知識を噛み砕いた動画、替え歌など、試行錯誤しながら毎日発信しています!

妻の前で泣きながら読んで

――そもそも遺言伝道師の活動を始めるきっかけは?

妻に遺言書を読んで聞かせたことがきっかけです。それまでは僕自身も手続き書類として考えていました。書き始めたのも「書かなくてはいけない」という事務的な感情からで。でも、書いているうちに自分自身の過去を振り返って「仕事ばかりで家族をないがしろにして生きてきたんだな」と気づき、支えてきてくれた妻に感謝するようになり、その感謝を伝えていないことにも気づかされたわけです。

――遺言書を読んだ時、奥様の反応は?

「ふーん」と、大きな感情の変化は見られませんでした。僕はボロボロ泣きながら読み上げていたんですけれども(笑)。でも、妻とは親御さんのこととか、子供の将来のこととか、いろいろな話ができました。正直、それまでは妻との関係もいいとは言えなかったのですが、少しずつ、お互いに変化ができるきっかけになりましたね。
僕自身もちゃんと家族に目を向けるようになり、生き方が変わることも実感できました。これはただの手続き書類じゃない、遺言書の価値をもっと広めなければならない。そんな思いから遺言伝道師の活動を始めました。

――いいお話ですね。では今後、活動の展望はありますか?

一億総遺言書計画を社会的な問題解決につながる活動にしていきたいと思っています。少子高齢化に伴い、今の相続って高齢者から高齢者へとお金が渡っているのが現状で。これから経済を盛り立てていく現役世代にお金が回らないんですよ。そこを変えていくには、遺言書で相続人以外の人に遺贈することだと思っていて。孫世代にもお金が回っていく、そんなトレンドを作っていきたい。

遺言書は大切な人への「人生最後のラブレター」であって、これまでの人生を振り返って自分の未来を考える「道しるべ」。まずは一度、書いてみていただければと思います!

取材・文/釣本知子 写真/井上たろう

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