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テレ朝記者セクハラ、電車で殴る蹴る…なぜ最強官庁・財務省では非常識な不祥事が相次ぐのか…若手官僚によるパワハラ上司ランク「恐竜番付」の中身とは

集英社オンライン / 2023年6月8日 7時1分

セクハラ等の不祥事で「事務次官」の短命化が進み、その権威に影が差している。いま日本型組織の象徴とも言うべき霞が関は、大きな曲がり角を迎えており、事務次官はどうあるべきかが問われているが…。『事務次官という謎-霞が関の出世と人事 』(中公新書ラクレ)から「事務次官」の存在意義を根本から問い直す課題について一部抜粋・再構成してお届けする。

財務官を含めて3人いる財務省の次官級幹部のうち、2つのポストが空席

セクハラ騒動で事務次官を辞任した福田淳一には「事務次官」の存在意義とは何かを根本から問い直す課題が潜んでいる。それを明らかにするために、82(昭和57)年同期入省の佐川宣寿(のぶひさ)元国税庁長官の辞任劇にも触れておく必要がある。



学校法人森友学園への国有地売却をめぐる公文書改竄問題で、佐川が長官を辞任したのが2018年3月9日。ナンバー2の次長が職務を代行する人事が発令されたものの、後任が決まらないままいたずらに日々が過ぎていった。

佐川辞任から1ヶ月半後の4月24日、今度は次官の福田が辞任に追い込まれる。ここに、事務次官と国税庁長官という財務省ツートップが同時に不在になる異常事態が生じた。次官の職務代行は矢野康治官房長(前次官、85年)が務めたが、こちらも後任が発令されないままずるずると月日が経過した。財務官を含めて3人いる財務省の次官級幹部のうち、2つのポストが空席になる前代未聞の状態が長く続いた。

「トップ2人が欠けても、組織はそれなりに回るもんだね」

そして、2人の後任人事が発令されたのが、毎夏の恒例人事の時期に当たる7月27日だった。佐川国税庁長官辞任から約4ヶ月半、福田次官辞任から約3ヶ月の時が流れ、ツートップ不在は実に3ヶ月間に及んだのである。

当時の財務省内では、こんな皮肉交じりの会話がひそかにささやかれたという。

「トップ二人が欠けても、組織はそれなりに回るもんだね」

この指摘を喜ぶべきか悲しむべきか、言わずもがな、悲劇的な現実と受け止めざるをえないが、この会話には続きがあり、「まあ、次官は所詮名誉職だから……」と、冷ややかな結論で話は締めくくられたそうだ。

暴行事件で昇格をフイにした次官候補…
33年間積み上げてきた実績を一瞬で

セクハラ騒動で事務次官を辞任した福田淳一、こんなハレンチな事件で霞が関最高位の次官がその座を追われるとは想像だにしなかった。そうした衝撃のほとぼりが冷めやらぬ2022年5月、官房長就任が有力視され、次官昇格もほぼ確実と見られていた小野平八郎総括審議官(89年)が、泥酔状態で暴力行為に及び逮捕された事件は、もはや想像の域を超えて返す言葉が見つからなかった。最強官庁の名をほしいままにしてきた財務省に、世の中の常識からかけ離れた不祥事が、なぜこれほど相次ぐのか……。

それにしても、小野のケースは「理解不能」としか言いようがない。終電間近の電車の中で、他の乗客から足を踏まれたと注意され、それがきっかけで口論になり、小野が殴る蹴るの暴行を働いたというものだ。警察の取り調べに「酔って覚えていない」と供述したそうだが、いかに泥酔していたとはいえ、そこまで自分を失って相手に暴力を振るうことができるものだろうか。

かつて新聞記者として旧大蔵省の記者クラブを担当した経験から、多くのキャリア官僚と知り合いになった。彼らの優秀さを形容する表現は枚挙にいとまがないが、大蔵省は金庫番として守りの官庁である制約から、政治家のごり押しにも決して取り乱すことのない「自己抑制」の精神に富んだ人物がほとんどだった。まして出世の階段を昇れば昇るほど、そうした精神の安定性がいやでも求められるようになり、極論すれば、いかに自分を抑えられるかが次官レースの最後の勝敗の分かれ目になると言ってよかった。

小野が務めていた総括審議官は局長級ポストで、次官に辿り着くまで官房長―主計局長のコースを残すのみ。人事は時の運も作用するので確実に次官になれたかどうかは神のみぞ知るところだが、省内の観測は「ほぼ確実」で一致していたと言われる。それほどの人物が酒の上の出来事とはいえ、入省以来33年間積み上げてきた実績をなぜ一瞬にして棒に振る暴挙に出たのか。「魔が差した」などという通俗的な言葉で片づけられない深い心の闇があったとしか思えない。

小野の歩んできた次官コース…人事当局は大騒ぎになったようだ

小野は県立熊本高校を経て、東大法学部に進んだ。開成、麻布、筑波大附属駒場といった有名進学校の出身者が次官争いの最前線でしのぎを削る昨今、地方の県立高校出身者は少数派だが、意外にも直近の過去2代、太田充(島根県立松江南、八三年)と矢野康治(山口県立下関西)が続いており、小野も彼らの系列に連なる可能性は十分にあった。

実際、それまで歩んできたポストも決して見劣りしない。主計局総務課を振り出しに、大臣官房文書課課長補佐などを経て、主計局の中でも出世頭といわれる公共事業担当の主計官に就任した。ここから文書課長などを経由して主計局次長になるのが典型的な次官コースだが、小野は主税局総務課長に転じ、官房審議官も主税局担当と税畑を歩んだ。

この間に消費税率引き上げなどで実績を残し、21年7月の人事で総括審議官に昇進した。このポストは政府の経済対策や日本銀行との政策調整を担う窓口で、次官コースの登竜門である官房長への最短距離として近年、重みを増してきている。ここを無事に通過して官房長に辿り着けば、あとは主計局長から次官が約束されたも同然であり、22年夏の人事では小野の官房長就任が事実上内定していたと噂された。

それが事実かどうか気になり、現役・OBの何人かに確かめた。ほぼ全員が「事実」であることを認め、ある一人は「小野が事件を起こしたのが5月20日深夜。その約1ヶ月後に定期異動が予定されていて、人事当局は大騒ぎになったようだ」と秘話を明かした。

それほどの人物が、なぜ、泥酔状態で暴行などという信じ難い行為に及んだのか。よく政界を象徴する言葉として「一寸先は闇」が使われるが、小野の逮捕劇はそれを地で行くドラマとしか言いようのない不可解さを感じさせる。事件のあった五月二十日までに、親しい先輩から「官房長内定」を伝えられていたかどうかは知る由もないが、仮にそれが事実だとすると、その先にある「次官確実」が彼をあらぬ方向へ引きずり込んでしまったのだろうか。それは心の闇としか表現のしようがないが、あるいは本人も無意識のうちに暴行に及んでしまったのか。

パワハラ度合をランク付けした「恐竜番付」の中身

それを証明する術すべは無いに等しいものの、一つだけ、想像を逞たくましくする方法がある。財務省内に流布されてきた、パワハラ度合をランク付けした「恐竜番付」である。2013年版の「新恐竜番付」を見ると、小野は西の前頭八枚目に登場している。

若手官僚の有志が作成したとされるこのパワハラ番付は、横綱、大関、関脇、小結、前頭と、大相撲の番付表を真似て作成された。上には横綱、大関などがいるわけで、前頭八枚目をどう評価するか微妙なところだが、前頭のちょうど真ん中に顔をのぞかせたということ自体、部下からはそれなりに怖い存在と見られていたのは間違いない。

事件後にマスコミに載った小野評は、「熊本の神童」「温厚な人柄で人望は厚かった」「酒は好きだが、乱れることなく寝てしまうタイプ」―など、好意的なものがほとんどだった。筆者が直接聞いた後輩の評も、「寡黙で派手さはないが、上司におもねらず筋を通す人」で、大きなブレはなかった。そんなポジティブな評価と、恐竜番付のネガティブな評価―二つの間に横たわるギャップの謎が解けて初めて、事件の本筋に迫るのが可能になるのかもしれない。

筆者の感想で言わせてもらえば、「前頭八枚目」というポジションは非常に解釈が難しく、この辺りから下位は作者の好き嫌いがかなり交じっていると思わざるをえない。ある時期一緒に仕事をして嫌な目に遭ったとか、作者の個人的な体験が前面に出て、必ずしも省内の共通認識を反映しているとは断言できないからだ。そう言っては謎解きからますます遠ざかってしまうが、独断の批判を覚悟で筆者なりの受け止め方を書いてみたい。

それは、予算や税金など国民生活に直結する事務を扱う財務省により強く表れる傾向だが、とりわけ財政政策は政治家の間で積極派と再建派の二つに分かれ、両者の板挟みになって根回しに苦労するケースが多い。葛藤の繰り返しのなか、幹部に昇れば昇るほど抱える苦悩も肥大化していき、そうした深層心理が泥酔状態にあって無意識のうちに爆発してしまったのか。その発火点を「心の闇」と呼んでいいか多少のためらいはあるものの、そうとしか考えられないのが事務次官を目前にした小野の不可解な事件であった。

ところで、小野のその後の処遇にも触れておこう。
暴行容疑で現行犯逮捕されたあと、東京区検から傷害罪で略式起訴された。この間財務省は小野を大臣官房付とし、減給10分の1(9ヶ月)の懲戒処分にした。

事件から半年後の11月18日、被害者との間で示談が成立したのを受け、財務総合政策研究所副所長の人事が発令された。研究所長にはすでに一年後輩が就任しており、その下に入る明白な降格人事となった。

『事務次官という謎-霞が関の出世と人事 』
(中公新書ラクレ)

岸 宣仁

2023/5/10

1012円

280ページ

ISBN:

978-4121507945

「事務次官という謎」を徹底検証!

事務次官、それは同期入省の中から三十数年をかけて選び抜かれたエリート中のエリート、誰もが一目置く「社長」の椅子だ。
ところが近年、セクハラ等の不祥事で短命化が進み、その権威に影が差している。官邸主導人事のため省庁の幹部が政治家に「忖度」しているとの批判も絶えない。官界の異変は“頂点”だけに止まらない。“裾野”も「ブラック」な労働環境や志望者減、若手の退職者増など厳しさを増す。
いま日本型組織の象徴と言うべき霞が関は、大きな曲がり角を迎えているのだ。事務次官はどうあるべきか? 経験者や学識者に証言を求め、歴史や法をひもとき、民間企業や海外事例と比較するなど徹底検証する。長年、大蔵省・財務省をはじめ霞が関を取材し尽くした生涯一記者ならではの、極上ネタが満載。

■本書の目次■
プロローグ――霞が関の「聖域」
1章 その椅子のあまりに軽き――相次ぐ次官辞任劇の深層
2章 「名誉職」に過ぎないのか――事務方トップの役割を探る
3章 社長と次官――「組織の長」を比較する
4章 冬の時代――先細る天下り先、激減する志望者
5章 内閣人事局の功罪――幹部人事はどうあるべきか
6章 民間と女性の力――改革なるか人事院
エピローグ――「失敗の本質」

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