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ハレンチ辞職のあの次官も…癒着を指摘される危険もあるなか、なぜSBIは財務省からキャリア天下りを6人も受け入れたのか

集英社オンライン / 2023年6月9日 7時1分

事務次官はどうあるべきかを経験者や学識者に証言を求め、歴史や法をひもとき、民間企業や海外事例と比較するなど徹底検証し、明らかにする『事務次官という謎-霞が関の出世と人事 』(中公新書ラクレ)。長年、大蔵省・財務省をはじめ、霞が関を取材し尽くした岸宣仁氏ならではの極上ネタの一部を抜粋・再編集してお届けする。

大蔵・財務の歴代次官たちは
退職後も天下りの恩恵に浴してきた

事務次官の年収は民間企業の社長に比べると物足りない数字ではある。だが、報酬面から事務次官を語る時、現職時代の年収だけでは物事の一面しか見ておらず、生涯年収においては指定席の天下り先を渡り歩いて高収入を得ているのではないか―そうした批判的なイメージをお持ちの方もおられるだろう。



過去、大蔵次官を経験した後、最も華麗な天下り先を歩いた人物に森永貞一郎(1932年入省)がいる。中小企業金融公庫総裁―日本輸出入銀行総裁―東京証券取引所理事長―日本銀行総裁と、絵に描いたような華やかさであった。輸銀総裁を経て東証理事長あるいは日銀総裁のどちらかに就くOB人事は珍しくなかったが、両方を掌中にした人物は森永を措いて他にない。

森永を頂点に、大蔵・財務の歴代次官たちは退職後も天下りの恩恵に浴してきた。なにしろ霞が関にあって、「官庁の中の官庁」と言えば旧大蔵省であり、全省庁の最上位に君臨する事務次官が大蔵次官であったのだから。それは、同期から一人の大蔵次官が生まれるだけでなく、他省庁を含めて何人もの次官が輩出したことからも頷ける。

大蔵省による他省庁支配以外の何ものでもない

余談になるが、官民を問わず、どんな組織にも有能な人材が群れを成す「花の○○年組」という年次が存在する。他省庁を睥睨する絶大な権力を握る時代の大蔵省で、その象徴的な年次が1943(昭和18)年組と、66(同41)年組であったことに異論を差しはさむ向きはないだろう。この二つの年次は、それぞれ同期から五人の次官が生まれた。

[43年組]
髙木文雄 大蔵事務次官
橋口 収 国土事務次官
船後正道 環境事務次官
田代一正 防衛事務次官
新保実生 北海道開発事務次官

[66年組]
武藤敏郎 大蔵・財務事務次官
岡田康彦 環境事務次官
久保田勇夫 国土事務次官
佐藤 謙 防衛事務次官
松川隆志 北海道開発事務次官

時代が演出した霞が関人事とはいえ、ここまでくると大蔵省による他省庁支配以外の何ものでもない。明治期に成立した各省官制以降、連綿と続いてきたキャリアという特権身分制度とともに、予算編成権を盾に絶対権力としての大蔵省を温存してきた日本的官僚制度の最後のあだ花ともいえる。今や行政改革によって官庁が統廃合されたり、一強だった財務省の権力構造が弱体化したり、他府省での次官ポストを死守しているのは環境省くらいだったが、そこも2022年の夏の定期異動で生え抜きに譲り渡してゼロになった。

天下り先を転々と歩いてそのつど退職金を手にする"渡り"

こうした時代の趨勢を物語る構図は、官僚にとって退官後の人生設計を保証する天下りにも顕著に現れている。天下り先を転々と歩いてそのつど退職金を手にする〝渡り〟が厳しい批判を浴びたが、近年、その道は著しく狭められてきている。

財務省で言えば、日本輸出入銀行、日本開発銀行、国民金融公庫、海外経済協力基金の総裁など、事務次官経験者の指定席も風前の灯ともしびといった状態にある。行政改革でこれら政府系金融機関の民営化・統廃合が進んだのに加え、次官を押しのけてプロパー(生え抜き)がトップに就く人事が当然視されるようになったためだ。

43年組、66年組と並んで、「花の……」と呼んでいいのは79(昭和54)年組で、前代未聞の同期から三人の次官を出した。木下康司、香川俊介、田中一穂の三人だが、次官退官直後に壮絶な死を遂げた香川は天下りと無縁だったが、残る二人はどうだったか?

田中は国民金融公庫などを中心とした日本政策金融公庫総裁に就いた。田中の前任の細川興一も元財務次官で、二代続けて次官の天下りポストを確保した。第一次安倍晋三内閣で首相秘書官を務めた田中だが、異例の同期三人目の次官になれたのは安倍の強力な推薦があったためとも言われるし、政策金融公庫総裁就任も安倍政権の後ろ楯があっての人事と見る向きが多い。

政府系金融機関のトップを総なめにしてきた
財務省の全盛

そんな官邸主導の人事とは裏腹に、79年組では本命中の本命次官だった木下は、日本開発銀行などを母体とする日本政策投資銀行に社長含みの副社長で天下りした。ところが、財務省OBの厚遇を快く思わない官邸が待ったをかけ、生え抜きが社長に昇格する一方、木下は社長を素通りして代表権を持つ会長に収まった。

政府金融機関の中でも格が高かった輸出入銀行は、国際協力銀行に衣替えし、一時は渡辺博史元財務官(72年)が総裁に就いたものの、以後は二二年の人事で財務省出身の林信光副総裁が総裁に就いて一矢報いたが、一時は民間金融機関出身者や生え抜きがトップに就いた。同期から5人の次官が輩出したり、政府系金融機関のトップを総なめにしてきた財務省全盛の時代も今は昔、「次官の指定席」といった常套句は過去のものになってしまっている。

キャリアを受け入れたSBIホールディングス

次官経験者がこんな体たらくである以上、次官以下のポストで退官を余儀なくされた人たちの天下り先は推して知るべしである。

ここ何年か年を追うように天下りのルートが目詰まりを起こし、人事担当の官房長・秘書課長が難渋するケースが相次いでいる。最近流行りの社外取締役などに活路を見出す事例が増えているが、そうした汲々とした現状を端的に示す天下りの受け皿が一時期話題になった。

金融持株会社のSBIホールディングスがそれで、2020年前後、財務省からキャリアの天下り六人を抱えたことがある。北尾吉孝社長の思惑は推測するしかないが、業務に有効なアドバイスを求めてとはいえ、ここまで多数のキャリアを受け入れると、癒着を指摘される危険がないとはいえない。政府系金融機関ではなく一民間金融会社への天下りなので、個人名は伏せてSBIでの肩書きだけを列記してみる。(なお、彼らの入省年次は72年から84年まで12年間に及び、以下の肩書きは年次順)

社外取締役
SBI大学院大学教授
子会社社長
SBI大学院大学委託講師
専務取締役
地方銀行担当事務局長

テレ朝記者にセクハラした福田淳一元次官も

あえて匿名の記述を選んだが、6人のうち2人はマスコミに取り上げられた経緯もあり、実名を明らかにしよう。

社外取締役を務めたのは五味廣文元金融庁長官(72年)で、SBIが新生銀行を連結子会社化したのを契機に、同行の会長に就任した。新生銀行の前身は、98年に経営破綻した旧日本長期信用銀行であり、子会社化の時点でも3500億円にのぼる公的資金の返済義務を負っていたため、その履行などが新会長に課せられる重要な柱になると推測された。

もう一人、大学院大学委託講師に就いたのが、民放女性記者へのセクハラ疑惑で辞任に追い込まれた福田淳一元次官(82年)である。一種のハレンチ行為で職を辞しただけに、天下りは当面難しいのではと見られていたが、恐らく官房長・秘書課長の大臣官房ルートではなく、本人のツテを頼りにSBIへの再就職を決めたのであろう。ことに財務省関係者からは驚きの声が上がったが、辞めた理由が理由だけに、次官経験者という体面にこだわる余裕などなかったというのが現実だったのではないか。

『事務次官という謎-霞が関の出世と人事 』
(中公新書ラクレ)

岸 宣仁

2023/5/10

1012円

280ページ

ISBN:

978-4121507945

「事務次官という謎」を徹底検証!

事務次官、それは同期入省の中から三十数年をかけて選び抜かれたエリート中のエリート、誰もが一目置く「社長」の椅子だ。
ところが近年、セクハラ等の不祥事で短命化が進み、その権威に影が差している。官邸主導人事のため省庁の幹部が政治家に「忖度」しているとの批判も絶えない。官界の異変は“頂点”だけに止まらない。“裾野”も「ブラック」な労働環境や志望者減、若手の退職者増など厳しさを増す。
いま日本型組織の象徴と言うべき霞が関は、大きな曲がり角を迎えているのだ。事務次官はどうあるべきか? 経験者や学識者に証言を求め、歴史や法をひもとき、民間企業や海外事例と比較するなど徹底検証する。長年、大蔵省・財務省をはじめ霞が関を取材し尽くした生涯一記者ならではの、極上ネタが満載。

■本書の目次■
プロローグ――霞が関の「聖域」
1章 その椅子のあまりに軽き――相次ぐ次官辞任劇の深層
2章 「名誉職」に過ぎないのか――事務方トップの役割を探る
3章 社長と次官――「組織の長」を比較する
4章 冬の時代――先細る天下り先、激減する志望者
5章 内閣人事局の功罪――幹部人事はどうあるべきか
6章 民間と女性の力――改革なるか人事院
エピローグ――「失敗の本質」

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