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日本人とペンギンの関係から見る「ドンキのペンギン」の姿

集英社オンライン / 2022年5月14日 14時1分

ドン・キホーテ(ドンキ)の入り口や店内で見かけるペンギン「ドンペン」。店舗によって様々な姿を見せ、楽しませてくれるドンペンだが、そもそもなぜペンギンなのだろうか。ドンキとペンギンには何か繋がりがあるのか、イヌやネコでは駄目だったのか? 『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』著者の谷頭和希がドンペン出生の謎に迫る。

ドンキにペンギンがいる

ディスカウントストアのドン・キホーテ(ドンキ)を思い浮かべることができるでしょうか。黄色と黒の看板にでかでかと書かれた「ドン・キホーテ」の文字。店内通路は細く入り乱れ、商品はうず高くぎっしりと積み上げられている――。しかし、なにより、ドンキで人々の目を楽しませているのが、マスコットキャラクターのドンペンです。


ドンペンは店の前にオブジェとして、堂々と鎮座しています。そうでなくても店内のどこかにいます。しかもいろいろな姿で。

例えば、大阪・天満橋のドンキ。周辺に飲み屋が多くあるからでしょうか、ドンペンは焼き鳥にビールを持っています。
大阪には狭い範囲に多くのドンキがひしめいていますが、どの店舗でも、ドンペンは少しずつ異なる姿で生息しています。動物園で有名な天王寺のドンペンは動物たちに囲まれていますし、新世界のドンペンはビリケンと一緒です。ドンペンでちょっとした大阪観光ができそうです。

大阪各地で見られる、恵比寿様と一緒のドンペン。画像はドン・キホーテなんば千日前店。

大阪だけではありません。日本全国のドンキにはその土地の名所・偉人をイメージさせるドンペンが多くいます。ドンキのテーマソング『ミラクル・ショッピング』に「ドンキめぐりは癖になる」というフレーズがありますが、まさにドンペンめぐりは癖になる面白さがあるのです。

ドンキにはなぜペンギンがいるのか

先日、『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』(集英社新書)という本を出版しました。タイトルにある「ペンギン」とはドンペンのこと。「ドンキのペンギン」略して「ドンペン」というわけです。ドンペンをはじめとするドンキのさまざまな特徴からドンキを考えることで、現代の消費空間や都市空間について批評した本です。

実は、この本で書ききれなかったことがあります。それは、なぜマスコットキャラクターがペンギンであったのか、ということ。動物キャラクターの常連、クマやイヌ・ネコではだめだったのか。もしくはキリンだってサルだってよいはずです。なぜ、さまざまな動物の中からペンギンが選ばれたのでしょう。ドンキにとってペンギンとはなにを表しているのか。この問いを考えることで、「ドンキにはなぜペンギンがいるのか」という問いに、また別の答えを示したいと思います。

ペンギン好きの日本人

川端裕人『ペンギン、日本人と出会う』には興味深いことが書かれています。日本人ほどペンギン好きの国民はいないというのです。
日本人とペンギンの深い関係には、固有の時代背景があると川端は言います。1960年代、南氷洋捕鯨や南極観測に伴って日本にもたらされたペンギンは、高度成長期を迎えていた日本人にとって科学技術の象徴でした。遠い南極にいるペンギンが(本来、ペンギンは南極だけにいるわけではないのですが)日本にやってくることは、それだけの技術が日本にあることを表したのです。かくしてペンギンは高度成長期の日本人にとって、もっとも興味を抱かされる動物の一つになりました。また、動物園でのペンギン飼育技術の向上もあって、多くの日本人がペンギンを生で見ることができるようになったこともその傾向に拍車をかけたのです。

こうして、日本人にとってペンギンが親しみやすい動物になっていくと、「可愛い」というイメージも共通して持たれるようになってきます。それを表すように、多くの商品でペンギンをモチーフにしたキャラクターが現れるのです。映画化までされ、一世を風靡したサントリーのビールのキャラクター・パピプペンギンズや、ロッテのクールミントガムのパッケージ、またサンリオのタキシードサムもそのひとつでしょう。
しかし時代が進むにつれ、いつのまにかペンギンにまつわる時代背景は薄まり、今では、ただ「可愛い」動物としてペンギンがイメージされるようになった、と川端は言います。

ドンペンは日本人のペンギン好きの反映か?

以上のことから、ドンペンを、日本人のペンギン好きの反映だと見ることもできるでしょう。それも「ドンキにはなぜペンギンがいるのか」という疑問に対する一つの答えだと思います。
とはいえ、よく考えるとドンキとペンギンにはそもそも強い結びつきはないはずです。ドンキのテーマソング『ミラクル・ショッピング』ではドンキの店内が「ジャングル」と歌われていますが、ジャングルとペンギンに結びつきはないし、それ以外にもドンキとペンギンの間にはこれといった関係がありません。こうした関連性のないキャラクターがなぜ、会社のマスコットキャラクターという重要な任務を追うことになったのでしょう?
この疑問を解くためにはドンペン出生の秘密を辿らなければなりません。

ドンペンは「権限委譲」の産物だった

ドンペンの出生で注目したいのは、その考案者です。ドンペンは、ドンキ店舗にいるPOPライターが考案し、全社的に広がったものだというのです(「あのピンクのヒミツも明らかに!? 生誕から20年を経てドン・キホーテのキャラクター「ドンペン」公式サイトが誕生」)。
ドンキ店内には商品を説明する派手な手書きのPOP看板があります。各店舗にはそれぞれ専属のPOPライターがおり、それぞれの店でそのPOPを作ります。そんなPOPライターの一人がドンペンを生み出し、それが広がったのです(ちなみに私がドンキのPOPライターに取材を行った記事ではその仕事の具体的な内容が紹介されています。興味がある方はぜひ読んでください)。

つまり、ドンペンは会社が意図して作ったものではなく、あるPOPライターの個人的な試みとして作られたわけです。
POPに限らず、ドンキでは各店舗の経営に関する権限が、現場の社員に大幅に与えられており、これを「権限委譲」といいます。ドンキの創業者である安田隆夫はこのシステムこそドンキの重要な戦略だというのです(『安売り王一代』)。私の本でも触れたのですが、実際にこの権限委譲こそ、ドンキの小売店のさまざまな特徴を形作っています。

ドンペンとは、権限委譲の結果として生まれたキャラクターであり、特定のデザイナーや会社の上層部が生んだものではないのです。

権限委譲とペンギン好きがドンペンを生んだ

ここで私は想像してしまいます。もし、一流デザイナーや会社の上層部がマスコットキャラクターを決めていたのなら、ドンキの特徴と関係が強いキャラクターが選ばれ、考案されていたでしょう。しかし、ドンキはそのようなトップダウンの企業風土を持っていませんでした。実際には現場のPOPライターが自由に描いたイラストが会社のマスコットキャラクターになったのです。
では、なぜペンギンだったのか。日本人にとってペンギンとは身近な生き物であり、ペンギンをモチーフにしたキャラクターが多くいたからです。権限委譲によって個人が自由に描いたからこそ、ペンギンのキャラクターが描かれたのではないでしょうか。

ドンキにとってペンギンとはなにか。それは、ドンキという小売店を他の小売店と決定的に異なるものにしている「権限委譲」を表す象徴なのではないでしょうか。
そう考えると、なるほど、ドンキの前に堂々と鎮座するドンペンの顔の、あの、自信に満ちた表情にも納得がいくというものです。

※本稿は、2022年3月18日に開催されたトークイベント「ドンキと国道16号線から考えるポスト郊外文化〜『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』刊行記念イベント」における柳瀬博一さんの発言から着想を得て書かれたものです。この場を借りて柳瀬さんに御礼申し上げます。

写真 / 谷頭和希

ドンキにはなぜペンギンがいるのか

谷頭和希

2022年2月17日発売

924円(税込)

新書判/240ページ

ISBN:

978-4-08-721204-4

【24歳の著者が挑む!日本の「いま」を切り取ったチェーンストア都市論】
私たちの生活に欠かせないチェーンストアは都市を均質にし、街の歴史を壊すとして批判を受けてきた。
だが、チェーンは本当に都市を壊したのだろうか。
1997年生まれの若き「街歩き」ライターはその疑問を明らかにすべく、32期連続増収を続けるディスカウントストア、ドン・キホーテを巡った。
そこから見えてきたのは、チェーンストアを中心にした現代日本の都市の姿と未来の可能性である。
ドンキの歴史や経営戦略を社会学や建築の視点から読み解きながら、日本の「いま」を見据える。

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