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未婚者が既婚者より幸福度が低いと感じる傾向はなぜおきるのか。「結婚したらしあわせになれる」と思っている人は結婚できない

集英社オンライン / 2023年6月8日 11時1分

2040年には、日本の独身者は5割になると言われている。ますます個人化が進む中、私たちは家族や職場、地域以外に、誰と、どこで、どうつながれば、幸福度を高められるのか? 『「居場所がない」人たち: 超ソロ社会における幸福のコミュニティ論 』(小学館新書)から一部抜粋、再構成してお届けする。

「あなたは今、しあわせですか?」

「あなたは今、しあわせですか?」
そう問われた場合、なんと答えるだろうか。

しあわせとは、その感じ方も基準も人それぞれで、あくまで主観的なものである。よって、標準的・絶対的な指標としての幸福度は存在しない。存在しないのだが、マクロ的な調査をするとおおまかな傾向があることも確かである。

私は、独身研究の一環として、未婚者と既婚者とでの幸福度の違い、さらには男女、年代別での幸福度の違いについて2014年から継続調査してきた。その結果から申し上げれば、未婚者より既婚者の方が幸福度は高く、男性より女性の方が幸福度は高く、40-50代の中年層より若者の方が幸福度が高いという傾向は常に一定であった。



幸福度については5段階評価とし、「とてもしあわせ」「まあまあしあわせ」を幸福、「やや不幸」「とても不幸」を不幸と分けて、「どちらともいえない」は別とした。

40-50代未婚男性の不幸度の高さ

男女ともに、既婚者に比べて未婚者の幸福度は低く、特に男性の40-50代では半分以下しか未婚者は幸福を感じていないということになる。同時に、40-50代未婚男性の不幸度の高さも突出しており、40代で36%、50代で34%が不幸である。40代以上の未婚男性は、幸福を感じる人数より不幸を感じる人数の方が上回ってもいる。

男性ほどではないにしろ、女性でも同様で、40代未婚女性の24%、50代未婚女性の21%が不幸だと感じている。既婚男女の不幸度が10%台にとどまっているのとは大きな違いがある。

一方で、既婚女性の幸福度の高さも群を抜いている。もっとも低い50代でも62%が幸福であると答え、20代では8割近い77%が幸福なのである。

かつて、内閣府が1996年から2012年にかけて、国民生活選好度調査という形で国民の幸福度を調査していたことがあったが(現在は実施していない)、性別年代別はおろか、配偶関係別の調査結果報告もない全体結果報告のみで、細かい部分はわからずじまいであっ
た。

なぜ、これほどまでに未婚者は不幸なのか?

民間の幸福度調査でも性別年代別の区分まではあっても、配偶関係での区分をした調査は、私の知るところでは皆無であった。しかし、前述の結果通り、未婚と既婚とでこれだけ大きな差があるということは無視してはならない話だと思う。

なぜ、これほどまでに未婚者は不幸なのか?
40-50代の未婚男性の不幸度が高い要因として、彼らが就職氷河期世代に該当するという考えもある。就職できずに、非正規で働いて満足に収入を確保できない人もいたことだろう。正社員として就職したとしても、その仕事は自分の希望するものとは違う仕事で、毎日が苦痛である人もいるかもしれない。

特に、男性の生涯未婚率は自己の年収が低ければ低いほど高くなる。つまり、男性で中年で未婚であることは、すなわち年収が低い場合が多いと推測でき、そうして自身の低年収による経済的環境とその事情による未婚生活そのものが不幸の原因であると考えることもできる。

未婚者は年収が上がっても幸福度が頭打ち

しかし、未婚男性の低い幸福度は年収だけのせいなのかというとそうでもない。

年収別に幸福度を20~50代未既婚で比べると、未婚も既婚も年収が上がるごとに幸福度は増すが、同じ年収でも未婚と既婚とでは幸福度に大きな差がある。年収100〜900万円の間ではほぼ20ポイントの差が均等にある。むしろ、未婚男性は1000万円の年収で幸福度が頭打ちになり、それ以降は下がる傾向すら見られる

勿論、生活をしていく上で食うにも困るような貧困では幸福も何もないだろう。しかし、だからといって、年収が上がれば上がるほど人は幸福になるかというとそうでもない。

そもそも、年収だけが幸福度の要因なら、未婚も既婚も同年収の幸福度は同じにならないといけない。これを見る限り、年収より未婚か既婚かの配偶関係の方が幸福度に強く影響を与えていると考えるのが妥当である。

では、既婚=結婚すれば幸福なのか?
それもまた違う。

結婚すればしあわせになれるのか?

既婚の幸福度が未婚より高いのは事実だが、だからといって「結婚すればしあわせになれる」とはいえない。それは、相関と因果をごちゃ混ぜにするようなものである。「幸福度が高いのは既婚男性が多い」という相関はあるが、「結婚したらしあわせになる」という因果があるとまではいえない。

「フォーカシング・イリュージョン」という言葉がある。これは、ノーベル経済学賞の受賞者であり、行動経済学の祖といわれる米国の心理学・行動経済学者ダニエル・カーネマンが提唱した言葉である。

「いい学校に入ればしあわせになれるはず・いい会社に入ればしあわせになれるはず・結婚すればしあわせになれるはず」というように、ある特定の状態に自分が幸福になれるかどうかの分岐点があると信じ込んでしまう人間の偏向性を指す。簡単にいえば、思い込みするから生じる幻想ということだ。

勿論、目標を定めて努力することは大切である。しかし、進学や就職や結婚という状態になれば自動的に幸福が得られるというわけではない。

たとえば、結婚したいという女性は「相手はいないけど、とにかく結婚したい」とよくいう。これこそ結婚という状態に身を置けば、幸福が手に入るはずという間違った思いみである。そうした思い込みのまま、万が一結婚してしまったら、「こんなはずじゃなかった」と後悔しかしないだろう。

「結婚すればしあわせになれるんじゃないか」
という淡い期待

結婚すればしあわせになれるという考え方は、裏を返せば、「結婚できなければしあわせになれない」「結婚しないと不幸だ」という決めつけの理屈にとらわれることになる。

それは、結婚という特定の状態に依存してしまって、それ以外の選択肢を否定しているようなものでもある。

要するに、「現在の結婚できない自分の否定」である。むしろそうした思考こそが、婚活女性たちの不幸感を現在進行形でより増幅させているのではないかとさえ思う。

一方、未婚男性の中にも「相手はいないが結婚したい」と婚活にいそしんでいる人もいるだろう。もはや結婚が社会的信用を示す時代でもなく、結婚しなければ出世させないなどという企業も少ないだろう(少ないが、いまだにそういう企業があるということにも驚くのだが)。

それでも結婚したいと熱望する未婚男性もまた、「結婚すればしあわせになれるんじゃないか」という淡い期待を抱いてはいないだろうか。そう思ってしまうのは、「欠乏の心理」があるからである。

「足りない」と思うからイライラし、怒り、
自分は不幸だと思う

人は、何かが足りないと感じた時に不幸を感じる。腹が減った、給料が少ない、他人の評価が低い......などなど、「足りない」と思うからイライラし、怒り、自分は不幸だと思おうとする。

しかし、そうした思考の癖は、常に、恋愛相手がいない、結婚相手がいない、子どもがいない......。そういった自分にない物ばかりに目を向けてしまい、たとえ何かを手に入れても、手に入れた充足感より、「まだこれが足りない」という欠乏しか認識できなくなる。

いわば、永遠の餓鬼と化してしまうのだ。
そもそも、本当に結婚したらしあわせになるのか?
それぞれの年代において、幸福や不幸を感じる割合に、2020年国勢調査による未婚人口を掛け合わせれば、計算上の未既者の年代別の幸福人口と不幸人口が算出できる。

未婚男性の「幸福人口」は20代から年代を重ねるごとに順調に減少しているのに対し、「不幸人口」は20代から50代までそれほど大きな変化はない。これが何を意味するかというと、「幸福な未婚」だけが未婚でなくなっていっているということ。

結婚していく未婚男性は、元から幸福だった者

つまり、結婚していく未婚男性は、元から幸福だった者が多いということだ。

未婚より既婚の方が幸福度が高いのは事実だ。しかし、それは「結婚したから幸福度が上がった」のではなく「幸福度の高い未婚が結婚していく」という因果があると見た方が、納得性は高い。

身も蓋もないいい方をすれば、「結婚したらしあわせになれる」と思っている人は、結婚もできないし、しあわせにもなれないのだろう。

欠乏の心理に支配されて、「あれが足りない、これが足りない」という不幸思考に陥っている人は、まず、現在の自分の「足るを知る」ことが先なのだ。そして、それは、たとえ結婚しようがしまいが、自分の人生をしあわせに生きていく上で大切なことでもある。

『「居場所がない」人たち: 超ソロ社会における幸福のコミュニティ論 』
(小学館新書)

荒川和久

2023/3/31

1034円

224ページ

ISBN:

978-4098254439

居場所がなくても幸福と思える生き方とは?

2040年には、独身者が5割に。だれも見たことのない、超ソロ社会が到来する。
ますます個人化が進む中、私たちは家族や職場、地域以外に、誰と、どこで、どうつながれば、幸福度を高められるのか?
また、親として、人生の先輩として、これからその時代を生きる子どもたちに何を伝えられるのか?

家族、学校、友人、職場、地域・・・・安心できる所属先としての「居場所」は、年齢を重ねるごとにつくるのが難しくなり、時に私たちは「居場所がない」と嘆く。
また「そこだけは安心」という信念が強すぎるがゆえに、固執し、依存するという弊害も生まれる。

では、居場所がなく、家族や友達をもたず、一緒に食事をする相手がいないのは、「悪」なのだろうか?常に誰かと一緒でなければしあわせではないのだろうか?

社会の個人化も、人口減少も、もはや誰にも止められない。私たちに必要なのは、その環境に適応する思考と行動だ。著者が独身研究を深掘りした先に示すその答え=〔接続する〕関係性、〔出場所〕という概念とは?

結婚していてもしていなくても、家族がいてもいなくても、幸福度を上げるための視点とヒントに満ちた一冊。

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