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自分の写真や声の録音を嫌う人ほど「俺は俺のことがわかっている」と勘違いしている…自称ブレない男の面倒臭さとうさん臭さとは

集英社オンライン / 2023年6月9日 11時1分

自分が自分であること、他者や社会から認められているという感覚のことを意味する「アイデンティティ」という言葉は、幸福度を高めるためには必要がない、という荒川氏。その理由を『「居場所がない」人たち: 超ソロ社会における幸福のコミュニティ論 』(小学館新書)から一部抜粋、再構成してお届けする。

「ブレない人間」なんて面倒くさいだけ。
老害になるだけ

アイデンティティという言葉がある。自分が自分であること、さらにはそうした自分が、他者や社会から認められているという感覚のことを意味し、日本語では「自我同一性」や「存在証明」と訳されている。

意識高い系の自己啓発セミナーなどで「これからのグローバル社会を生き抜くには確固たるアイデンティティを構築する必要がある」などといわれたりするが、そんなものはまったく必要ない。それどころか、確固たるアイデンティティなどむしろ害悪でしかない、と私は思う。



確固たるアイデンティティとは、いい換えれば「ブレない自分」ということにもなると思うが、何事にもブレないということは適応力がないということでもある。

大地に根を下ろした巨大な大木があったとする。文字通り何物にもブレることなく、確固としてそこに君臨している。しかし、そんな強固な大木も大きな台風などが来れば、その自分の巨大さと堅さゆえに倒れてしまう。風という環境に適応できないからだ。

一方で、なよなよとした柳の木は台風がきても激しく揺れ動くことで倒れることはない。大きさや堅さなどに勝手に固執し、風と真っ向から喧嘩して倒される大木と、弱々しく見えても風という困難をうまくいなして生き残る柳の木と、どっちが真の強者だろうか。

大体「ブレない人間」なんて面倒くさいだけだ。何を話しても聞く耳持たない頑固なじいさんがいたとしたら、多分多くは「老害」と思うだろう。それと同じで、そういう人ほど孤立する。

自分のことを理解していると言う人ほど…

「自分らしく生きる」という言葉もある。そもそも、「自分らしさ」ってなんだ?
自分とはこういう者であると本当に理解している人なんて存在するのか?
「いや、私は自分のことを理解している」という人もいるだろう。が、そういうことをいう人間に限って、周りから自分について何かをいわれた時に「違う!お前は俺の事を何もわかっていない」と怒り出すのだ。それこそが、本人自身が自分の事を何も理解していないと表明しているようなものだ。

自分が思う自分というものは、決して自分ではない。禅問答のようでわかりにくいかもしれないが、自分で自分をこういう人間であると思っていることは、あくまで主観的なものにすぎないのであり、客観的に自分を見た姿ではない。

一方、他人がその人を見た場合には、外側に表出する表情、態度、言動、行動でしか判断ができないのだから、客観的ではあってもその人の主観までは判断できない。つまり、自分が思う自分と、他人が思う自分というものは決して同じになるはずがないのである。

俳優やモデルの人たちは、常に自分の姿をカメラがとらえた姿として認識している。同様に、歌手や声優も自分の声を客観的に収録した音声として認識している。しかし、一般人は、自分の顔の写真や録音した声を聞けば「これは自分じゃない」と思う人が多いだろう。「自分じゃない」と思うのは自分だけであって、他人から見れば「お前の顔だし、お前の声だよ」でしかないのである。

「確固たるアイデンティティ」とか「自分らしさ」など無用

前述した「俺は俺の事がわかっている」などと豪語する人間に限って、写真も録音も嫌う。なぜなら、そこには自分が認めたくない自分の嫌いな部分があるからだ。しかし、本人が短所だと思っていることでも、他人から見ればそれが長所である場合もあるし、逆もある。

つまりは、本人が理解している自分なんて所詮「あなたという個人が主観で、見たいものしか見ないようにして作り上げた虚像」にすぎないのであって、そんなものを「自分らしさでございます」なんて堂々といい放つ時点で、「まったく自分のことがわかっていない」のである。むしろ、そんな虚像に取りつかれて、周りにその虚像を押し付けたりする人間の方が社会性が欠落している。
つまり、「確固たるアイデンティティ」とか「自分らしさ」など無用なのである。

必要なのは、自分というものは決して唯一無二の存在などではなく、たくさんの自分の集合体なのであるという理解をすることである。

十人十色という言葉がある。人はそれぞれ違うよね、という意味合いで使われるが、人間は決して一人一色ではない。一人の中に多くの色を内包しているのである。

すべての人間は多種多様な色を持つモザイク型

たとえば、あなたが無垢の真っ白の状態だったとしよう。そこに、赤い色を持った人と接続した。そうすると、あなたの中に赤の成分が注入される。黄色の人と接続すれば同様に黄色が注入される。しかし、白に赤が注入されたからといって、白と赤が混じり合ってピンクになるわけではない。絵具ではないのだ。

あくまで、あなたの白の構造の中に赤の要素が付加されるのである。黄色もまた付加される。生きている間にたくさんの人と接続するだろう。そのたびに様々な色が付加されていく。それは決して混ざらない。が、モザイク模様のように、あなたの中には彩りができ上がっていく。わかりやすく説明するために単純化したが、そもそも真っ白な人、真っ赤な人などという単色人間は存在しない。すべての人間は多種多様な色を持つモザイク型である。

そうしたモザイク同士で接続することで、互いに違う色を取り込み合いしていく。それが、「接続するコミュニティ」における人のつながりの重要なところで、自分の中に新しい自分が生まれるというのは、そういうことである。

そして、混合ではなく、それぞれがモザイクとして独立の色を放つがゆえに、組み合わせによって「新結合」という自己のイノベーションが起きるのである。何色にもなれるのである。

人は何かの行動によって、
その都度自分の中に新しい自分ができている

自分の中に生まれた新しい自分というものは決して古い自分から消えてなくなるものではない。上書きされるものでもない。一度取り込んだ、誰かによって生まれた「新色」の自分はずっと自分の中にある。だから、今ここで出会った誰かによって取り込んだ「赤色」と10年前、20年前に誰かによって、もしくは何かを読んだり、体験したりすることによって生まれた「旧色」とが反応して、「新結合」する場合もある。

ずっと忘れていた感情が、ある人と話をすることによって蘇ることとかあるだろう。ずっと聴かなかった思い出の曲をたまたま町で聞くことによって、当時の自分の状況を思い起こすこともあるだろう。

そうやって、人は何かの行動によって、その都度自分の中に新しい自分ができているはずなのだ。それが自分の中の多様性であり、決して自分はひとつの自分ではないということを理解することが大切だ。

一期一会の人のつながりでも、たった一度の経験でも、それを通じて自分の中に新しい自分が生まれたのだと思えれば、出会った人、経験したことのすべてに感謝の気持ちが湧いてくるだろう。

誰に対しても主張も態度も何も変わらない人間なんて独裁者

多様性の時代だのと口ではいいながら、その人自身がまったく多様性を認めないという矛盾した人物をよく見かける。それは、そもそも自分の中の多様性をまず認められていないからだと思う。

人生とは、長い年月に及ぶ経験や人とのつながりを経て、自分の中に新しい自分を生成していく旅なのだ。その自分の中にたくさんいる自分というものの存在を理解していればしているほど、自分というものはわからないということになるわけだが、それでいいのである。わかったつもりになって、勘違いして噓の自分を生きるよりよっぽどマシである。

大体、人間なんて、環境が違えばその環境に応じた人間にならざるを得ないし、相対する人間によって態度を変える必要だってある。カメレオンでいいのである。誰に対しても主張も態度も何も変わらない人間なんて独裁者である。

『「居場所がない」人たち: 超ソロ社会における幸福のコミュニティ論 』
(小学館新書)

荒川和久

2023/3/31

1034円

224ページ

ISBN:

978-4098254439

居場所がなくても幸福と思える生き方とは?

2040年には、独身者が5割に。だれも見たことのない、超ソロ社会が到来する。
ますます個人化が進む中、私たちは家族や職場、地域以外に、誰と、どこで、どうつながれば、幸福度を高められるのか?
また、親として、人生の先輩として、これからその時代を生きる子どもたちに何を伝えられるのか?

家族、学校、友人、職場、地域・・・・安心できる所属先としての「居場所」は、年齢を重ねるごとにつくるのが難しくなり、時に私たちは「居場所がない」と嘆く。
また「そこだけは安心」という信念が強すぎるがゆえに、固執し、依存するという弊害も生まれる。

では、居場所がなく、家族や友達をもたず、一緒に食事をする相手がいないのは、「悪」なのだろうか?常に誰かと一緒でなければしあわせではないのだろうか?

社会の個人化も、人口減少も、もはや誰にも止められない。私たちに必要なのは、その環境に適応する思考と行動だ。著者が独身研究を深掘りした先に示すその答え=〔接続する〕関係性、〔出場所〕という概念とは?

結婚していてもしていなくても、家族がいてもいなくても、幸福度を上げるための視点とヒントに満ちた一冊。

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