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『ゴールデンカムイ』野田サトルや俳優・井浦新も登場! 無料で3万部発行の脅威のフリーペーパー「縄文ZINE」はネタ切れの心配なし!?

集英社オンライン / 2023年6月10日 10時1分

「縄文時代」をテーマにしたフリーペーパーがあるのをご存知だろうか。その名は「縄文ZINE」。1万年以上長く続いた時代のあらゆる側面を現代の出来事と掛け合わせて書かれたコラムなどは芸能人や漫画家など数々の有名人を虜にしている。いったいなぜ「縄文」をテーマにしたのか。制作者の望月昭秀氏に聞いた。

文化人、ミュージシャン、
芸能界屈指の縄文ファンが集う場所

1万年以上という途方もない時間にわたって広がっていた「縄文時代」。三内丸山遺跡などを擁する「北海道・北東北の縄文遺跡群」が世界遺産に登録され、各地の博物館で行われる縄文展はこれまで以上の観客を動員。また遮光器土偶やハート型土偶、縄文土器はガチャガチャでは定番グッズとなり、学術だけではなく、造形やアート面でも大きな注目を集め、様々な面で「縄文ブーム」といった活況を呈している。



その「縄文」をテーマに発行されているフリーペーパー「縄文ZINE」は、片桐仁のようなタレントから、坂本慎太郎やStill ichimiyaなどのミュージシャン、しまおまほや藤岡みなみ、みうらじゅんといった文化人、そして漫画『ゴールデンカムイ』の作者である野田サトルなどがインタビューやコラムに登場。史学系のフリーペーパーの中でもひときわ異彩を放っている。中でも芸能界屈指の縄文ファン、考古学ファンとして知られる井浦新が表紙を飾った号は大きな話題となった。

「井浦さん側からご興味があると先方からコンタクトをいただいたのが、ご登場のキッカケですね。井浦さんがフリーペーパーの表紙になって、さらにインタビューが載るなんて、前代未聞だったと思います。みうらじゅんさんとは江戸東京博物館の縄文展という、オフィシャルな形で対談をさせて頂いたり。みなさんビジネスというよりは−−まあ、そんなにギャランティもお支払いできないので(笑)−−単純に面白がって出ていただけているのは嬉しいですね」

誰も話を聞いてくれなかったので、話し相手が欲しかった

そう話すのは「縄文ZINE」の編集からデザイン、発送まで制作に関わるほぼすべてを手掛けている望月昭秀氏。本誌の他にも単行本「土偶を読むを読む」の編纂など、縄文にまつわるプロダクトに関わっている。

望月昭秀氏

「創刊当時はまだ縄文ブームみたいな流れもなく、誰も僕の縄文の話を聞いてくれなかったんですよね。それで『話し相手が欲しいな』と思って作り始めたのが『縄文ZINE』でした。僕自身、デザイナーとしてデザイン会社を運営しているので、自分で書いたテキストを、自分でデザインを組んで、自分で発行すればよかったので、気軽に始められたのも大きかったです」

2010年より発行され、これまでに通算で40万部近くが全国の博物館や歴史系の公共施設、またカフェや古書店などに置かれ、好評を博している「縄文ZINE」。

「創刊当初から“こういう冊子が読みたかった”という声もたくさんいただきました。おかげで、初号は置いてくれる場所を自分で探しましたが、2号目からは先方からご連絡をいただくことが増えましたね。特におしゃれなカフェや、カルチャーに強い雑貨店などに置いてもらったことで、新しい縄文ファンが開拓できたんじゃないかなと」

縄文時代は1万年以上ある。
ネタ切れの要素が見当たらない

縄文をはじめとする史学のフリーペーパーというと、専門的な内容であったり、やや取っつきにくい部分を感じるかもしれない。しかし「都会の縄文人のためのマガジン」という「縄文ZINE」のテーマからもわかる通り、「縄文×タトゥー」や「恋する縄文」といった、現代を生きる我々と、縄文の人々を繋げるような内容が興味をひく。

「当然ですが読者は現代人ですし、普通の人が読んで面白いものにしたいので、現代人が興味を持ってくれるような企画をいつも考えています。創刊当初は縄文だけで企画がずっと続くわけがない、すぐネタ切れするとも言われましが、縄文は1万年以上続いたんですから、それを考えたら10年ちょっとでネタ切れなんて言えないですよ(笑)」

その意味でも第13号で特集された「不器用な縄文人」で紹介された歪な土偶や土器のように、亀ヶ岡遺跡出土のものが有名な「遮光器土偶」など、文化財に指定されている美的センスにあふれる土偶ではなく、おそらく手先が不器用な縄文人が作った「不細工な」土偶に覚える人間味からは、「ヒトの変わらなさ」を感じるだろう。

「縄文人と友だちになれるような感覚になってもらえればいいなと思ってますね。気のおけない縄文人の友だちを勝手に想像して、友だち意識が生まれたらいいよね、みたいな。縄文の話をする友達がいなくて作った雑誌なので、そういう仲間ができたらうれしいというのと同時に、縄文の人々とも共通の気持ちや考えを発見できればなと」

スピリチュアルなものを、
現代の視点から過度に縄文に押しつけない

一方で「カワイイ」や「アート」といった、縄文を語る際に使われがちな、キャッチーでわかりやすい、そして現代においてブームの一端を担っているキーワードに対して、慎重に取り扱っているのがこの冊子の特徴だ。同じようにオカルトやスピリチュアルなど、縄文と親和しやすい、しかしある意味では危険なものとも、一線をしっかりとおいている。

「例えば獲物や食べ物が少なければ森に祈ったり、病気に対して土偶を祈りの道具にしていたかもしれない。そういう社会や個人の問題を祈りで解決するような縄文の心のありかたは、すごく理解できます。でも、そういったスピリチュアルなものを現代の視点から過度に縄文に押しつけたり、現代の自分たちの生活に取り込むのはちょっと自分は違うなと思っています。現代においては、病気は祈るよりも、医者にかかったほうが治りますから(笑)」

しかし書店のスピリチュアル系の本棚には縄文をテーマにしたものや、国家を称揚するために縄文を「利用」する書籍も決して少なくはない。そういったものに対する自らの見解を提示するためにも、「フリーペーパー」という媒体は最適だったと話す。

「『縄文こそ日本の心』『縄文はスピリチュアル』みたいな話を聞くと、正直『ちゃんと研究してないな』『受けがいいから縄文を利用してるだけだろ』と感じるんですよね。縄文時代に今の「国境」を持ち出すのっておかしな話じゃないですか。世界遺産に選ばれたのも『日本の遺跡が世界遺産に選ばれた、だから日本はすごい』というよりは、『人類の叡智』が選ばれたという方が適切だし、それが人類の宝として認められたんだと思います。

縄文人がお金で物事を扱っていなかったように
感覚としては物々交換に近い

出版業界全体が非常に厳しいのと同じように、全国各地で発行されていた、また個人で制作されていたフリーペーパーもネットに取って代わられ、いっときに比べるその数を減らし、難しい状況に置かれている。それは好調な「縄文ZINE」も例外ではない。

「いまは通常3万部ぐらいに抑えて発行しています。個人で発行しているフリーペーパーとしてはそれが限界だと思うし、フリーペーパーというジャンル自体が、現在では難しいとは思うんですね。実際、「縄文ZINE」も部数を絞った分、PDFでも読めるようにしています(http://jomonzine.com/pg212.html)」

地域の会社がスポンサードする地域情報誌や、アルバイトや住宅、チケットなどの情報が掲載される企業系のフリーペーパーと違い、趣味や文化をテーマにした個人制作のフリーペーパーはさらに商売になりにくい。

「印刷代はもちろん、送料が上がっているのが痛いですね。そういった物理的に必要な経費は初期に比べて倍ぐらいになってると思います。いまは色んな博物館や史学系のプロジェクト、この冊子への賛同企業やイベントが広告を出してくれているので、赤字ではないんですが、厳しいことは変わりません。『フリーペーパーはお金じゃない』けど、『お金がないと作れない』のも真理なんですよね」

しかし、そんな状況においても、今後もフリーペーパーとして刊行を続けたいと話す。

「作っている側としても、フリーペーパーというカルチャーが、これ以上伸びることは難しいとは感じています。でも、『縄文ZINE』に関しては、縄文人がお金で物事を扱っていなかったように、感覚としては物々交換に近いというか、無料のフリーペーパーであることは続けていきたいですね。だからこそデータではなく、所有できること、手に取れること、モノとして価値をクリエイトしたいんですよね」

そしてそう望月氏を奮い立たせるのも、また「縄文」だと言う。

「縄文人だって、温暖化や寒冷化といった地球規模の環境変化や、地球の地形の変化という、とんでもないことを乗り越えて1万年以上続いたわけで。その中で新しい文化を起こしたり、環境に適応して生きてきた縄文人の強さを見習って、そして現代の自分たちにとってよりフィットする形で、このフリーペーパーも発行を続けたいですね」

取材・文/高木“JET”晋一郎 撮影/下城英悟

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