『NIA』から溢れ出す音は、ひとつひとつが軽やかである。『AINOU』のヒットによるプレッシャーはなかったとは言えないだろうし、誰しもが苦難を覚えたコロナ禍によって、ヘビィな状況の写し鏡として音楽を捉えることもできただろう。だが、この作品にはそれらを飲み込んでしまったかのような風通しの良さがある。状況を俯瞰的に見て、大きなフレームで時代や人生を描こうとするミュージシャンシップが、ブレずにそこにあるのだ。
『NIA』では基本的には丁寧に作り込まれたサウンドが光るが、その中に「voice memo#2」、「voice memo#3」のような、ラフスケッチ然とした楽曲が挟み込まれているのがポイントになっている。大仰にはならず身近な日常を綴っている歌詞も含めて、精密さと大胆さのバランスが、アルバム全体の軽やかさにも繋がるものだ。そこには、大学で絵画を専攻していたという彼女の資質が窺える。
中村 特に歌詞を考えるときは、頭が固くならないようにしています。おしゃっていただいたようなバランスも“なんとなくそうした”という言葉が一番近いかもしれません。絵画を描いてバランスを調整していく感覚と少し似ています。