30年後、野球部員は1校3.5人に…部活動を維持できないケース多発! それでも改革を拒む教育ムラの人々は「部活は大事な学校教育」と言う
集英社オンライン / 2023年6月14日 10時1分
日本ではスポーツの普及に学校の運動部が大きく貢献してきたが、少子化のためその文化が崩れようとしている。また、教員の部活動による残業の問題もたびたび起こっているが、果たして何がいけないのか。『「低学歴国」ニッポン』 (日経プレミアシリーズ)より、一部抜粋・再構成してお届けする。
部員わずか5人。大会出場できないバレーボール部
このままでは秋の地区大会に出られない。横須賀市立長沢中学校(神奈川県)の女子バレーボール部に2022年、危機が訪れた。バレーボールは1チーム6人。3年生が夏に引退して部員が5人に減り、大会出場に1人足りなくなったからだ。
打開策は部員が6人しかいない近隣の市立北下浦中との「合同チーム」の結成だった。北下浦中は単独でも大会への参加が可能だったが、仮に病気やけがで1人でも欠けたら不戦敗になりかねない。両校の思いが一致した。
10月から週末のどちらか一日を合同で練習する機会にした。平日は放課後の移動に時間がかかることを考慮し、それぞれの中学で別々に活動する。試合形式の練習をするには人数が少なすぎるため、もっぱら基礎練習が中心だ。
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少子化でクラブを単独で維持できないケースが頻発
北下浦中2年の女子生徒(14) は「本音を言えば自分の学校で大会に出場したかったが、合同チームになったことで初めてレギュラー争いを経験できた。以前より練習に熱が入るようになった」と前向きに捉える。
横須賀市によると、市内に住む。0〜14歳が占める人口比率は1985年までは20%台を保っていたが、少子化でその割合が減少。2019年には10.9%まで落ちている。部員が減って大会参加が危ぶまれるケースは長沢中と北下浦中だけではない。市内ではこれまでにもバスケットボールや野球、サッカーで同様の事態が起きた。市担当者は「新人生の加入や3年生の引退のたびに単独にしたり合同にしたりを繰り返している。少子化の時代ではやむをえない」と話す。
30年後、野球部員は「1 校わずか3.5人」に
日本ではスポーツの普及に学校の連動部が大きく貢献してきた。原点は明治時代に外国人教師が大学で伝えた競技で、100年以上かけて「学校ごとに部活がある」文化が培われた。それが崩れようとしている。
原因は少子化だ。日本中学校体育連盟によると、21年度時点で全国には19競技1793の合同チームがあり、既に01年度の6.7倍となっている。
規模の縮小はとどまることを知らず、野村総合研究所の推計では中学軟式野球の1 校当たり部員数は18年の19.9人が30年後に3.5人に減る。6校集まらないと紅白戦もできない計算だ。野球ばかりではない。男子サッカーや女子バレーボールの1校当たりの部員数も30年後には半減するという。
合同チームをつくれば問題が根本から解決するわけでもない。部員の送迎や練習時間の調整など学校の負担が増す上、担い手となる教員の意識もかつてと比べて大きく変わってきているからだ。
「希望を持って教員になったが部活の負担に疑間がわいた」。さいたま市の細田真由美教育長は21年末、仕事熱心だった新任教員が語る退職理由にショックを受けた。自身も40年近く教員を務めてきた経験から「学校の充実には部活が必要」と考えていたが、これからの時代は部活には進学に有利になるとの思惑などから指導が過熱する弊害もある。
元ラグビー日本代表の平尾剛・神戸親和女子大教授(スポーツ教育学)は「とにかく教員が忙しすぎる。指導の方法を吟味したり、よい取り組みを他校と共有したりするには働き方の余裕が欠かせない。教員に指導方法を見直すゆとりがなければ、部活の健全化につながらない」と話す。
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深刻すぎる子どもの体力低下…落ち続ける平均タイム
一方で子どもの体力低下は深刻だ。スポーツ庁が公表した22年度の小中学生の全国体カテストの結果は、50メートル走など8種目の合計点の平均値が前年度を下回り、08年度の調査開始以来、最低を更新した。中学男子の1500メートル走の平均タイムは6分50秒で18年度よりも17秒遅かった。中学女子1000メートル走は5分3秒で16秒落ちた。50メートル走も小学男子9.53秒、小学女子9.70秒で最も遅い結果だった。
子どもの体力は1980年前後をピークとして低下が進んだ。危機感を抱いた国が08年度、小学5年と中学2年全員を対象とする全国体カテストを始めた。近年は少しずつ改善の傾向がみられたが、18年度から再び落ち込んでいる。
スポーツ庁によると、スマートフォンの利用時間が長くなって放課後の運動の機会が減っていることが一因とみられる。新型コロナウイルス禍で「巣ごもり」傾向が強まった可能性もある。体力低下にどう歯止めをかけるか。学校教育の大きな課題となっている。
教育基本法は「幅広い知識と教養(知)」「豊かな情操と道徳心(徳)」「健やかな身体(体)」の発達を教育の目標に掲げる。いわゆる「知・徳・体」のバランスの取れた育成は学校教育の根幹といえる。その一角である「体」の充実を事実上支えてきた部活の衰退は、人材育成の危機を意味する。
“スポーツを学校から地域に委ねる案”の修正…
「部活は大事な学校教育」
解の一つは子どものスポーツを地域に委ねることだ。欧米は会費や補助金で運背する地域のクラブが主に担う。文部科学省も将来的に部活運営を地域団体に移す方針を掲げる。だが受け皿探しや人材確保を任された現場は困惑する。
公立中の野球部やサッカー部の廃部が相次ぐ北海道紋別市。21年度から土日の地域移行を模索したが、地元競技団体が「指導者がいない」と難色を示した。市議会でも「部活は社会性を学び、仲間との連帯感を育む大事な学校教育の要素だ」との意見が上がった。計画は白紙になり、地域に委ねる難しさが浮かんだ。
反発の大きさから、スポーツ庁は当初方針の修正を余儀なくされている。22年5月末に有識者会議がまとめた提言は23-25年度を「改革集中期間」と位置づけ、離島や山間部を除いた全国で3年間の土日の移行完了を掲げた。同庁もこの提言をベースに必要な予算獲得に動いていた。
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「改革集中期間」ではなく「改革推進期間」トーンダウン
しかし、自治体を中心に「スボーツ団体や指導者など教育資源に乏しい地方の立場を重視すべき」「拙速に進めることではない」といった厳しい声が寄せられた。
結局、22年12月にスポーツ庁がまとめた指針では「改革集中期間」ではなく「改革推進期間」とトーンを弱め、達成の目安とする時期を定めなかった。同庁担当者は「改革を進めるために高い球を投げた面もあるが、3年間では実現不可能と考える自治体が多い。いったん目標となる時期を取り下げざるをえなかった」と明かす。
日本の学校生活の中で大きな存在感を示してきた部活動。少子化や教員の働き方の問題から従来通りの形で維持することは現実的ではなくなっている。一方、地域の団体を受け皿とする改革には課題が山積する。
子どもが希望するスポーツに打ち込める環境を整える。それが「知・徳・体」をバランスよく育む道であるはずが、八方ふさがりが続く。大人が知恵を絞るときだ。
『「低学歴国」ニッポン』
日本経済新聞社
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2023年5月9日
990円
216ページ
978-4296117376
大学教育が普及し、教育水準が高い「教育大国」――そんなニッポン像はもはや幻想?
日本の博士号取得者数は他先進国を大きく下回り、英語力やデジタル競争力の世界ランキングでも年々遅れをとっている。
とがった能力の子をふるい落とし、平均点の高い優等生ばかり選抜する難関大入試。世界の主流とずれる4月入学。理解が早い子にも遅い子にも苦痛なだけの「履修主義」指導……。
岩盤のように変化を忌避する学校教育はいま、私たちの未来をも危うくしている。
世界をけん引する人材を輩出するには、「何」を変えればいいのか。教育の今をルポし、わが国が抱える構造的な問題をあぶり出す。
【目次】
はじめに 日本人の「低学歴」化を見つめる
第1章 変わらない日本の「学校」
第2章 いびつな日本の「学歴」問題
第3章 二極化する「入試」、形骸化する「偏差値」
第4章 「学校崩壊」避けるためにできること
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